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第27話

 マリアさんを、うちで預かることが決まったが、


「あのう、いつからでしょうか? 卒業後からと考えておいて宜しいですか?」


 気になるので、聞いてみた。


「こういうのは、早いほうがいい。今日からでどうだ?」


「そうですね、ケイさんさえ良ければ、お願いします」


 なぜ二人とも、そんな簡単に決めてしまえるのだろうか。そういえば、アリサさんやリムルさんもその日からだったね。俺がおかしいのだろうか。


「私は問題ないのですが、環境が変わるのですから、心の準備とか必要ないのですか?」


「それもあるが、卒業後からだと、私はもうここにはいない。もし、何かあっても助けてやることができないのだ。できれば私がこの都市に居る間に、マリアには、新しい環境に慣れてもらいたいのだ」


 モノは言い様だね。たしかに、そうかも知れないけど、今日は無いんじゃない。


 マリアさんも同意しているのだろう、頷いているし、まぁあいいか。


「わかりました。荷物はどうなさいますか?」


「マリア、魔法袋を持っているな。それに、家具ごと詰めて持っていけばいい。ここにあるものすべてマリアのために用意したものだ。使ってくれると私も嬉しい。あと、渡したいものがある、少し待っていてくれ」


 マウイ様はそういい残し、部屋から出て行った。……どこかのアラン様とは、大違いだね。


「ケイさん、外着に着替えたいので、後ろを向いてもらえますか?」


「すみません、気付かなくて」


 慌てて後ろ向いたが、おかしくないか? 普通、出て行けだろ。……そして、この展開は、


「マリア、待たせt……」


 やっぱりね。マウイさんが扉を開けて入ろうとして、固まった。なんなのこの人達、ワザとやっているの?


「いや、違うんですよ。マリアさんが、外着に着替えたいというから。俺は見ていません」


 俺、焦りすぎだろう。マウイ様に対して、“俺”って言ってるし。


「そ、そうなのか。いや、悪い。勘違いをした。マリアもすまない。ゆっくり着替えてくれ、私は外で待っている」


 そう言って、マウイ様は、扉を閉めた。いや、おかしいだろ、俺が中で待っているのに、なんで、マウイ様は外で待つんだ。そして、どんな勘違いをしたんだよ。


「ケイさん、すみません。マウイ様は、外ではしかっりされているのですが、家ではそそかっしいのです」


 マリアさんは、慌てず、落ち着いて着替えている。いつもの事なんだろう。


「そうなんですね、でも、俺が中にいるのに、マウイ様が外で待っているのは、おかしいですよね。お呼びしましょうか?」


「いえ、大丈夫です。もう着替え終わりましたので、私が呼びにいきます」


 淡い色でラフな感じの上はシャツ下はズボンに着替えたマリアさんは、そう言って扉に向かった。……“裸婦”じゃないよ。“ラフ”だよ。


 マリアさんが、扉を開けると、メイドさんが集まっていた。そりゃおかしいよね、俺が中にいるのに、マウイ様が外で待っているんだから……もちろん、冷たい視線付きだよ。



「マリア、待たせてすまなかった。これは、マリアとの別れのときに渡そうと思っていたのだが、今日のほうが良さそうだ。受け取って欲しい」


 拳大の深い青色の石が、杖の先で輝いている。きっと魔石だろう。あのサイズはゴブリンキングの魔石と変わらないサイズだから、Bランク以上、それに属性もついているのだろう。魔石だけで、数百万ルリ以上か……でもマウイ様、待たせたのは、マリアさんですからね。


「ありがとうございます。でも、このような高価なものは、私には不相応です。頂くことはできません」


 まぁ、俺でも断るか……ウソ、ゴメン、俺は伝説級の小太刀を2本も貰ったんだった。さらに加護まで付けてもらったし。


「いや、値段ではないのだ。これは、マリアのために用意したものなのだ。氷属性の杖など、使える者も少ない。私の気持ちなんだ、受け取ってくれないだろうか」


「わかりました。私は、必ず立派な冒険者になって、マウイ様の許に戻ります。それまで、お預かりさせて頂きます」


「マリアがそう言うのなら、それでも構わない。きっと役立つときが来るだろう」



 その後、部屋の家具とマウイ様から預かった杖を魔法袋に詰めたマリアさんを連れて、バウティスタ邸を後にした。……もちろん、たくさんの冷たい視線に見送られてだ。


 家に向かう途中、薄い水色の高級そうなローブを着たマリアさんが、


「ケイさん、大丈夫ですか?」


「家のことですか?」


「いえ、違います。あの屋敷のメイドの中にも、大勢、学園の生徒がおります。最近では、少しケイさんに対する、女子生徒からの風当たりが弱まっていましたが、明日からは、前よりも酷くなるのではないでしょうか?」


 やっぱりそうだよね。だって、俺にマウイ様からの手紙を渡してくれたクラスの女の子も居たし……


「あ、はい、大丈夫です。な、慣れていますから……」


「すみません、私達が原因なのはわかっているのですが、私の力ではどうしようもなくて……せめて、マウイ様が気付かれていれば、状況も変わると思うのですが、残念ながら、マウイ様は、こういう事に超然とされていますので」


 マリアさんは、気付いてくれてたんだね。っていうか、アレに気付かないほうがおかしいよね。


「いえ、お二人だけが原因でもないでしょう。俺にも悪いところがあるはずです」


 これは、間違いないことだろう。



 そのまま家に帰っても良かったんだけど、まだ、マリアさんが冒険者登録をしていなかったので、冒険者ギルドに寄ることにした。


「キャシーさん、お疲れ様です」


「ご苦労様です、ケイさま。証明書をお願いします」


 あっそういえば、芝刈りの指名依頼だったね。完全に忘れていたよ。


「お願いします。あと、冒険者の登録もこちらでできますか?」


「ええ、もちろんです。そちらの方がご希望されているのですか? こちらが、報酬です」


「ありがとうございます。そうなんです、俺はベルさんにタグを作ってもらったので、手続きがわからないのですが」


「わかりました、本登録で宜しいですね。すみませんが、こちらの石版に右手を乗せていただけますか?」


 マリアさんが、カウンターにあるいつもの石版に右手を乗せると、


「はい、結構です。マリア様ですね。こちらがギルドタグになります。失くさないようにお願いします。あと、ご説明はケイ様にお任せしても宜しいですか?」


 一瞬でできるんだね。生体認証だし、当たり前か。


「はい、俺で良ければですが」


「ケイ様ならきっちりされていますので、心配ありません。あと、パーティ登録はどうされますか?」


「マリアさん、どうしますか? 低ランクの依頼でしたら、ソロのほうが効率がいいときもありますが」


「もし、ご迷惑でなければ、ケイさんのパーティに入れて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」


「もちろん、構いませんが、俺達のパーティは都市の外に出ることがありませんが、大丈夫ですか?」


「はい、私は、この都市に来てから3年程、まともに戦闘訓練をしていませんので、いきなり討伐依頼とかは無理です。慣れるまででも構いませんので、お願いします」


「わかりました。もし、パーティを抜けたいときは、いつでも言ってください。キャシーさん、お願いします」



 無事、マリアさんの冒険者登録と“ハウスキーパー”へのパーティ登録も済み、家に帰った。


「お帰りなさいませ、若様。そちらの美しかった方は、新しい同居人で御座いますね」


 ちょっと、待て、爺やさん。何でわかるんだよ? あと、やっぱりブレないね。


「そうなんです、お願いします」


「マリアです。不束者ですが、宜しくお願い致します」


 丁寧に頭を下げているけど、マリアさん、挨拶がなんかおかしくないですか?


「私はパーカーボーン13世と申します。気安く爺やとお呼びください。さあ、中へ入りましょう、マリア様。若様も、アリサ様がお待ちです」


 中に入ると、奥では、すでに宴会がはじまっていた。


「爺やさん、マリアさんに部屋の案内をお願いします。あと、マリアさんは家具を持ってこられたので、部屋にある家具の撤去もお願いします」


「お任せください、心得ております」


「マリアさんも、まずは、荷物を片付けて、落ち着いたら、降りてきてください。みなさんに紹介しますので」


「ありがとうございます、そうさせてもらいます」


 マリアさんと爺やさんが2階に上がっていくのを見送ったあと、奥に向かった。


 奥のテーブル席では、アリサさんとリムルさんが、怒りを露にしている。


「ケイさん、ケーキ作るのさぼってどっか行ったと思ったら、ナンパ? それも、また、エラいのを持って帰ってきたわね。やっと、学園内でのケイさんへの風当たりが弱まっていたのに、選りにもよって、マリアさんって、ないわぁ。

 ケイさん、どうせ知らないんでしょ。マリアさんは、男子生徒にも人気があるんですよ。どうするんですか?」


 マジでっ! ホンマ、ないわぁ。男子生徒までって……まぁそんな変わらんか。


「そうなんですね。でも、仕方ありません、諦めます。あと、ケーキはちゃんと作りますよ。昨日、アリサさんに作ってもらった保温機能付き風呂敷でスポンジを低温で寝かせていますから」


「そうなの、じゃあ、いいけど」


 やっぱり、ケーキについて怒っていたんだね。マリアのことは、八つ当たりみたいなものか。


「ん!」


 リムルさんの怒りは、マヨネーズですね。


「マヨネーズは、もうできているんですよ。取ってきますね」


 俺はカウンター奥にある食料庫に、マヨネーズと野菜スティックを取りにいった。


「「「「「…………」」」」」


 テーブル席に戻ってくると、なぜが、全員、黙って待っていた。……みんな期待しているようだが、大丈夫だろうか。少し、怖い。


「皆さん、これが、マヨネーズです。味見程度なので、野菜スティックを用意しましたが、いろいろ試してください」


 野菜スティックと深鉢に盛ったマヨネーズをテーブルに並べていった。


「「「「「おおおおぉおおぉおぉおお!」」」」」


 みんな美味しそうな表情を浮かべているし、大丈夫だったのだろう。


「ケイさん、コレ、前世のマヨネーズよりも美味しいような気がするんだけど、なんで?」


「んっ」


 アリサさんが聞いてきたが、リムルさんも気になるようだ。キアラさんは黙々と食べている。


「料理スキルのせいでしょうか、あとは、使っている食材の違いだと思いますよ。卵も鶏じゃないですし、酢も米酢を使っていますから、前世で一般的に市販されていたものとは、違いがでますね」


「そうなんだ。でも、こっちのほうが、いいね」


「ん!」


 リムルさんは、おかわりですね。最近、リムルさんの表情やアクセントで何を言っているのか、わかるようになってきた。慣れって凄いね。


 他の席のマヨネーズも無くなっているので、マヨネーズを盛りなおしていると、マリアさんが降りてきた。


「マリアさん、こっちです。あっちの人たちは、宿泊客みたいなものだから、挨拶はできるときでいいでしょう。こっちは、同居人のアリサさんとリムルさんとキアラさんです」


「マリアです。宜しくお願いします」


 マウイ様の屋敷で着ていた白のワンピースに着替えたマリアさんが、挨拶してくれた。少し緊張しているのかな? 固いような気がする。


「私はアリサ。そんなに構えなくてもいいわ。私たちはケイさんの女じゃないからね」


「ん」


「えっ、マ、マ、マリアさんは、ケ、ケ、ケイさんの彼女さんなのですか?」


 キアラさん、アリサさんの冗談ですよ。


「い、いえ、わ、私は、そんなつもり、あ、ありません」


 マリアさん、そこで噛むと勘違いされますよ。……主に、俺に。 


「別にいいのよ。でも、ケイさん、意外にモテるから頑張ってね」


 何を言ってるだ、アリサさんは、意外は余計だろう、意外は。……余計だよね?


「キアラさん。マリアさんは、今日から冒険者になったんですが、“ハウスキーパー”に入ってもらうことになりました。明日からになるとは思いますが、お願いします」


「わかりました。キアラ・ルミエールです。マリアさん、よろしくお願いします。……仲間です。パーティメンバーです」


 キアラさんは嬉しそうにしているが、俺と二人は辛かったんだろうか……


「マリアです。初めてで何もわかりませんが、宜しくお願いします」


「あと、こちらが、リムルさんです」


「リムルです。よろしくおねがいします」


 リムルさん、挨拶はちゃんとできるんだね。偉いね。……って、そういえば、見た目は幼女だけど、中身は24才だったね。


「マリア、そのワンピース、可愛いわね。見せてもらってもいい?」


 アリサさんはちょっと慣れなれしいけど、アリサさんに気に入られたら、マリアさんもこの家で上手くやっていけるだろう。



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