第12話
キアラさんの今後の予定も決まり、今日の依頼を探すため冒険者ギルドへ向かった。掲示板で依頼を探しているとロベルトさんの依頼があったので、これでいいだろう。キアラさんの雑用系初めての依頼だしね。
「キャシーさん、この依頼を二人で受けたいのですがいいですか」
「ケイ様、お疲れ様です。あれっ? キアラ様?……ケイ様、キアラ様とパーティを組まれたのですか?」
「キアラさんを知っているのですか?」
「今朝、私が取調べをしましたから……他の方では、上手くいかなったみたいですね」
「キアラさん、何もわかっていませんでしたからね。あと人見知りもありそうですし」
キャシーさんなら、地味だから圧迫感がないもんね。カミラさんの取調べなら、俺でもビビると思うよ。
「そうなんです。何も知らない子から聞いても何も出てきませんからね。……もうパーティ登録は済まされましたか?」
「パーティになると何か特典はあるんですか?」
「ケイ様、知らなかったのですね。ご説明します。登録と解散は冒険者ギルドでしか行えませんが、1つの依頼をパーティとして受けることができます。そして、依頼のランクはパーティ内の一番ランクの高い方に準じます。依頼達成時に依頼を受けたメンバー全員に記録が残り、ランクアップの評価の対象となりますが、報酬や評価はメンバーで分配されます。報酬はパーティ内で分配を決めてください。評価は、パーティ内に違うランクの方がいる場合、依頼達成時の評価は低いランクの人ほど低くなります。ケイ様達の場合、ケイ様に比べ、キアラ様のほうが低く評価されます。あと、依頼主に損失が発生する場合は別ですが、パーティ内で起きた問題にギルドは関与しません。ですから、今回、“ブレーブロード”にギルドが立ち入ったのは特例ですね。以上が特典というよりも注意事項ですね」
最初の説明会でも聞いたけど、報酬や評価を考えると、ソロのほうがお得なんだね。どうしようか……
「キアラさん、俺とパーティを組みますか?」
「いいんですか? 私、何もできないですが……」
キアラさんは、不安そうに聞きながらも、少し嬉しそうだ。ここで、やっぱり別々とは言い難いよ。
「じゃあ、パーティを組みましょう。まずはキアラさんに、この依頼に慣れてもらいます。キアラさんが、1人でもできるようになれば、またその時、パーティを続けるかどうか、考えましょう」
「ケイさん、いいんですか? 私なんかで……」
「構いません。誰だって最初は何もできないんですから。それに掃除や洗い物は得意ですよね」
「お掃除や洗い物は好きですが……」
「じゃあ、問題ないでしょう。キャシーさんお願いします」
「わかりました。石版にお二人のギルドタグを乗せてください。あとパーティ名はどうなさいますか?」
名前かぁ。センスないんだよな。……“家事手伝い”……ないよなぁ。
「キアラさん、何かいい名前ないですか?」
「いえ、私は……ケイさんが決めてください」
そうだよね、無理だよね。……よしっじゃあ、
「“ハウスキーパー”でお願いします」
「“ハウスキーパー”ですね。しばらくお待ちください」
「キアラさん、“ハウスキーパー”で良かったですか?」
「“ハウスキーパー”がいいです。なんかやれそうな気になってきました」
うーん、“ハウスキーパー”か……“家事手伝い”よりマシだよね?
夕食後、ロベルトさんのところに向かった。
「ケイ君、今日は来てくれたんだね。あれっ、もう1人いるね」
「はい、キアラさんです。しばらく面倒を見ることになりました」
「キアラ・ルミエールです。よろしくお願いします」
「そうなんだ。私は、ロベルト。ここの管理責任者をしてるんだよ、よろしくね。……そうそう、ケイ君、聞いたよ。芝刈りの魔法もできるらしいね。それに剥げた芝生まで治してくれるらしいじゃないか」
昨日の話なのに情報が速いね。こういう仕事って横の繋がりが強いんだろうか?
「そうなんですよ。よかったら、ロベルトさんもご利用ください」
「もちろんだよ。早速依頼出しておくよ。この間の騒ぎのとき、庭も使っただろう。そのとき、芝生が痛んでしまってね、困っていたんだよ」
「あの広さなら4時間ぐらいかかりそうなので、学園が休みの日でもいいですか? 明日から学園が再開されるんです」
「それで構わないよ。指名依頼出しておくから、よろしく頼むよ。……キアラさん、今日は、そうだね。ケイ君の指示に従って働いてくれるかい」
「わかりました。ケイさん、お願いします」
いいのか? 俺はただのお手伝いだよ。
客室では、まだパーティーが続いているので、いつも通り、洗い物から始めることにした。
「キアラさん、ここに軽く濯いだ食器を並べてもらえますか」
「わかりました。……ケイさん、これって魔法ですよね?」
「魔法です。俺のオリジナルで“食器洗浄機魔法”って呼んでいます」
「オリジナルを使えるんですか? でも、魔法使いコースじゃないですよね」
「俺は、冒険者コースです。魔法の才能がないですからね」
話をしながら、洗浄を始めると、
「すごいです! これで才能がないってありえないです! それに、乾燥まで。どうやったらできるんですか?」
「前世の食器洗浄機をイメージして、再現する感じでしょうか?」
「食器洗浄機ですか……知っていますが、見たことないんです」
この日は、キアラさんに説明しながら、補助をしてもらい、依頼を達成した。
翌日の朝、全面芝生の地下闘技場で、爺やさんによる、キアラさんのための鍛錬が始まった。何か話しているようだが、任せておけばいいだろう。俺の相手はフレディさんとゲルグさんだ。余所見している余裕はない。
朝食のとき、
「キアラ様は、大変優秀で御座います。若様よりも魔法の才能を持っておられるようです。期待できますぞ」
と爺やさんが言っていた。俺には戦闘の才能がないって言われてるし仕方ないよね。それに爺やさんは家庭教師もできるし、大丈夫だろう。
この日から、学校が再開された。キアラさんが、クラスメートに何か言われないか心配したが杞憂に終わった。キアラさんも友達が少ないみたいだ。
そのキアラさんだが、爺やさんの言うとおり魔法の才能があるのかもしてれない。同じ前世の記憶があるのならイメージも湧きやすいだろうと、試してもらうことにした。
「キアラさん、食器洗浄機を知らなくても、掃除機は知っていますよね?」
「はい、知っています。前の家でいつも使っていました」
「じゃあ、俺の“掃除機魔法”をやってみませんか?」
「でも、どうやってゴミを吸っているのか、わからないです」
「ファンってわかりますか?……じゃあ、換気扇は?……そうそう扇風機の反対ですね。その羽を筒の中に空気で作るんです。できますか?」
「できました!」
マジで!……できてるし。俺も簡単にできたと思っていたけど、これが才能の差か……
その後、キアラさんは、前世でも中学生だったし俺にパンツを洗濯してもらうのが恥ずかしかったのか、“洗濯機魔法”も必死なって覚えようとしていた。ベルさんやシャルさんは、気にしてる風になかったのに……いや、シャルさんは、俺の見てる前でニヤニヤしながらパンツを脱いでいたぐらいだ。少しは恥じらいを持って欲しい、でないと俺は萌えないんだ。ちなみに、クロエさんはノーパンだ。
頑張った甲斐があったのか、“洗濯機魔法”も1週間ほどで、できるようになった。俺もできないが、キアラも魔法で出した水を消すことはできないみたいだ。……本当は“闇魔法の異空間魔法”を使えばできるんだけど、人に見られたくないのでやっていない。ベルさんは、魔法で作った水球を消していたので、出来るはずなんだけどね。
残りのオリジナル魔法は、前世でも使ったことがないのが原因なのか、いくら構造やイメージを伝えてもキアラさんにはできなかった。料理の加熱はできそうだけど、調理に使えるレベルではなさそうだ。
そんなキアラさんの魔法のおかげもあるだろう。冒険者パーティ“ハウスキーパー”の評判もいい。“ハウスキーパー”としての指名依頼も少しずつ増えてきている。……芝刈りの指名依頼は俺1人でやっているけどね。
精神的にも金銭的にも余裕ができてきたので、今日は、パン屋さんに行くことにした。
この世界のパンは、大きく分けて二つある。無発酵パンと発酵パンだ。もちろん俺が作りたいのは、発酵パンだ。
「いらっしゃいませ!」
パン屋さんの中に入ると、元気で可愛らしい声が出迎えてくれた。店主の娘さんだろうか、10才くらいの笑顔の可愛い女の子だ。やっぱり、接客には笑顔が一番だよね。あと、この発酵した生地の焼ける香り、いいよね。ご飯もいいけど、この香りを嗅ぐとパンも食べたくなるよね。……おっ!
「これ、バゲットですか?」
この都市に来てから何軒かパン屋さんをまわったけど、初めて見たよ、フランスパン。
「こ、これは、私が作ったパンです。お父さんみたいにうまくできなくて……」
女の子がさっきの元気良さを失い、恥ずかしそうにしながら答えてくれた。
「そうなんだ。お父さんと使ってる材料は同じなんだよね?」
「そうなんですが」
「じゃあ捏ね方が足りないんじゃないかな……そうだ、このパンとこっちの柔らかいパンを一つずつ、くれるかな」
「えっ、私のパンもいいんですか?」
「いいよ。確認したいこともあるし、いくらかな?」
「はい、ありがとうございます。250Rになります」
「ありがとう、ちょっと見ててね。……こっちのお父さんが作ったパンの中はキメが細かいだろ。そして、君の作ったパンの中には気泡が入ってるだろ。これはね、捏ね方が足りないとできてしまうんだよ。君は背も低いし体重も軽い。だから、お父さんと同じように同じ時間捏ねても捏ね足りないんだ。生地を引っ張ったとき、お父さんの生地と同じぐらい伸びるまで、捏ねてごらん。きっと、柔らかいパンになるから」
女の子に、買ったパンを割って、説明をした。
「本当ですか! 私にもできますか!」
「やってみないとわからないけどね。じゃあ、また来るから頑張ってね」
必死な表情をした女の子を残して、店を出た。




