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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第二章 動き出す
39/67

知りたい事とは

恋愛小説なのに、

恋愛は?どこに行った?

黙ってしまった私と拓也。

奈緒はそんな私達を交互に見比べると、ちょっと眉根に皺を寄せて、言った。


「すると今後の私達の目標は・・・何?」

「塚本(みどり)が俺達と関係を切りたがっている以上、今後はあの人達に会わなくて済むんでしょ?

 そうなると、あれじゃない?・・・お前が見た人物は、一体誰か、ってこと。」


拓也が私に一瞥をくれる。


私が見たのは、誰か?

私は、頭を整理しながら、ゆっくりと言った。

しまったなあ、こんな事なら連続2時間サスペンスドラマとか、推理小説を山ほど読んでおけばよかったわ。ああいうの、苦手なのに。


「あれ・・・話から判断すると・・・やっぱり、誰かが、中野光治にトドメを刺していた、って・・・推理できない?そうすると・・・。」


突如、私は、気付いた。



「可能性のある人達が、何人かいない?つまり、アリバイの無い人達。少年Aのハヤマでしょ、あと目撃者の、二人。」

「クズハラとコウノ。」

「そう。だってその人達の事、誰も見てないんでしょ?・・・ほら、先生を呼びに行った、とか。お互いが口裏を合わせているのかもしれないし、・・・誰と誰が口裏を合わせているのかはわかんないけど・・・或いは、一人でやったのかもしれないし。」


私は顔を上げて二人を見た。

「だって、先生を呼びに行く時、二手に分かれたんでしょ?それって、みんな一人になっちゃって、誰のアリバイも無いって事じゃない?」


「・・・そっか・・・。」

奈緒が驚いたように、口をポカンと開けた。

「でも、動機は?」

「そんな事までは、まだわかんないよ。それを言うなら、誰の動機もわかんないじゃん。ハヤマの動機でさえ。・・・つまりね、動機はないけどアリバイもない子達が3人もいるって事。」

「4人。」


拓也が、訂正した。


「4人だよ。塚本碧がいる。彼も、動機もアリバイもない。」


う・・・無視していた事を指摘された。拓也、すごく意地悪な顔をしている。

でも、確かにその通りだし、現場にいてアリバイの無い人達って(くく)りなら、彼もその一人に入る。


でも、ひょっとしたら他にもあの場にいた人がいるかもしれない。だって学校なんて不特定多数の人が出入りする所だし、誰がいたかなんてわかんないじゃない。


・・・って、ちょっと待って?


「私も、そこにいたよ。ゲ、どうしよう、私、動機もアリバイも、ないよ。」

「お前、容疑者なの?」

「え?私容疑者なの?」


思わず身構えて、警戒するように拓也を見た。あれ?警戒する相手が違う?そうじゃなくて、警戒している人間が違う?あれ?あれ?


「バカかよ、お前。6歳の女の子が、男の胸にナイフを刺すかよ?第一、客観的に考えても力が足んねーだろが。」

「・・・ふーん。そうか。」

「自分で納得しないでよね。」

ジロッと拓也に睨まれる。


よかった、私、外された。

・・・でも、碧さんって・・・

「・・・なんで、あそこにいたんだろ?」

「知るかよ。だから事情聴取されたんだろ?」


拓也は素っ気なく吐き捨てるように言うと、残りのコーヒーを一気に飲んだ。


「・・・そっか。・・・んーと、とにかく、今の所、私のみたあのシーンが、・・・この4人の内の誰か一人なのかどうか、を確かめる事ね。」


私は隣で、テーブルに4つ指の跡を付けながら呟いた。

一緒にそれを覗き込んでいた奈緒が、うんうんと頷きながら、私に尋ねる。

「どうやって?」


指が、止まってしまった。奈緒と顔を見合わせる。

私は、拓也の方を振り仰いだ。

「どうやって?」


「・・・で、俺に回ってくるわけね。」


拓也はハアと溜息をついた。煙草の火を消している。私は両手を胸で合わせて、珍しく素直に(って自分で言うか)彼に頼み込んだ。

「お願い。何か考えて。」

「・・・高くつくよ?」

「綾香を半日、好きにしてもいい。」

「奈緒っっ!!!」


奈緒が横からとんでもない口を挟んできたので、相当恥ずかしくって(この子はさっきの私と拓也の・・・アレに、相当怒っているに違いない)、お店の中って事も忘れて、大声を出してしまった。

なのにそんな私の隣で、拓也は腕を組んでハッキリ言った。

「一日。」

「拓也っ!!」

「それはダメ。あんたは危険すぎるでしょ。」


奈緒も拓也に応戦すべく、腕を組んで足を組んで、思いっきり高飛車な態度を取っている。

拓也は嫌そうに片眉を上げると彼女を見て、そして再び溜息をついてみせた。


「ちぇっ。・・・あーあ、わっかりましたよ。やりゃーいーんでしょ。どうせね、あなた達に関わった時から、いーよーにこき使われんのは分かっていましたよ。やりますよ。」


ずりずりずり・・・と椅子の中に沈み込む。


「こうなると、もう一人の目撃者コウノに話を聞くだけじゃなくって、全く気は進まないけど、ハヤマも探し出して話を聞いてみる事だよな。・・・出来っかな、これ?これが出来たら、俺ってもうプロの域だと思うんだけど。」

「いいから。自分を褒めるのはいいから。それで?」


奈緒の容赦無い毒舌突っ込みに、拓也はますます嫌そうな顔をして彼女を睨みつける。

そしてそれでもめげずに、話を続けた。エライ。


「・・・それで、あとは、やっぱ第3者から話を聞く事じゃない?客観的な話。つっても、学校の教師とか警察とかはきっと、こんな俺らに話をしてくれるとは思わないからさ・・・近所の噂好きのおばちゃん達に聞くのもいいかもしんないけどさー・・・もっとこう、マトモな奴からがいいな・・・。」


唇を親指でひたすら擦りながら、拓也はもどかしそうに言う。


「誰かいないかな?当時の事を、なんらかの立場である程度知る事が出来て、今はもうリタイヤしたおじいちゃんとかで、口の軽そうな人。そういう人ならさ、もう責任もあんまなくって、何か喋ってくれるかもよ。」


いるかい、そんな都合のいい人間。

っていうか、滅茶苦茶細かい指定じゃない、それ。ゾーン狭すぎでしょ。


とか思っていたら、私の中に、ある人物が思い浮かんだ。

「あ・・・私、いる・・・。」


口が軽いかどうかは分からないけれど、

「お父さんのいとこ。警官を定年退職している。」


拓也がビックリした様に言った。

「何それ。なんでそーゆー事を早く言わないんだよ。」

「えー、だって、忘れてたし・・・うち、お母さんがあんまり、仲良くなくて・・・その、父方の親戚と・・・。」

「場合じゃない。決定。」


えー・・・。もう、何年も会ってないんだよね、あの人・・・。お母さん、嫌な顔するだろうなあ・・・。


「あたしもおじさんが高校の教師なの。学区も違うけど、同じ県下だし、何か知ってるかも。聞いてみるわね。」

奈緒が言った。

もうこうなったら、教師だろうが警官だろうが、市役所だろうが県庁だろうが、はたまた消防署だろうが、使える地元コネはみんな使おう、って気になってくる。





「あ、そうだ。あたしね、河島さんと初詣行くんだ。」

二人でココアを飲んでいたら、奈緒が私に耳打ちした。

私は少し噴き出してしまった。

拓也に、「汚ねえな。」と横目で軽く睨まれる。


「・・・えっ!ホントに?」

私も小声で言った。奈緒は軽く肩をすくめて、唇を突き出した。

「うん。誘われた。お正月なら、お休みが取れるって。」

「・・・付き合うの?」

「・・・まだわかんない。」


拓也は、我関せず、といった感じで携帯をいじりだした。

基本的に拓也は、人との距離を取る事がとても、上手い。

これが高校生からの、私達3人の適正距離でもあった。


「奈緒は、今まで誰かと付き合った事、ある?」

それをいい事に、私はますますコソコソと、耳元でガールズトークを始めた。


「うんー・・まあ、ボチボチ、ね。」

「・・・誰か、好きな人とか・・・いた?」

「まあー・・・色々、ね。」

「奈緒って、全然そんな話しないから。」

「綾香だってしないじゃない。バレバレなだけで。」

「・・・・。」


今更、私達の間に隠し事なんて、とは言わない。

人それぞれのパーソナルスペース、って心の中にもあると思うし、必要だろう、とも思う。

それが例え親友であろうと、家族であろうとも、ね。


でも、奈緒が誰かとデートをするなんて話、聞くのも初めてなら奈緒の口から語られるのも初めてだったので、

これは彼女からの何かのサインなのかもしれない、私に踏み込んで欲しいのかもしれない、


なんて、思っちゃったのよね。


だから、思い切って聞いてみた。かなり、かなり、思い切った。


「・・・奈緒、さ。・・・拓也の事、どう思う?」

「二重人格で腹黒い甘えったれで一途すぎる、可哀そうな奴。」

即答だ。

しかもバッサリだ。


「それがどうか?」


多少不機嫌そうに聞く奈緒に、何となく身の危険を感じてしまう。

でも今まで気になっていた事だし、もしそうだったら事態がひっくり返る大変な事なので、

・・・勇気を振り絞って、囁いた。


「・・・・好き・・・?」

「・・・・誰が・・・・・?」


「・・・た「ちょっと待った!!」


ガッターン!!と奈緒が立ちあがる。

私も、彼女の目の前に座っていた拓也も、ビックリして奈緒を見上げた。

奈緒は、驚愕と困惑が入り混じった顔つきで、私を見下ろしていた。


「ちょっと待って?え?え?何?まさか綾香・・・・」


沈黙。


奈緒を、上目遣いで見る私。

ど、どうなるんだろう、これ・・・・。




「あり得なさすぎる!!」



奈緒が、周りの迷惑を一切省みず、大声で叫んだ。

お店の人が、驚いてこちらを覗き込んだ。

この子に比べたら、私と拓也のイチャつきなんて、正直マシな方だと思うんだけど。


「今日ばかりはあんたに殺意を覚えたっ!!何をどう考えたらそうなるのよっ!!天然もここまで来ると犯罪だわっ!!」

「・・・え・・ちょ・・・」


そこまで言うかっ!!

親友を気遣っている私の細やかな乙女心を、犯罪とは何事よっ!!

犯罪って、今の今まで私達が話していた様な深刻な状態を言うんでしょっ!!

え?私の天然って深刻?!


「愛想が尽きたっ。情けなくなったっ。もーぉ、我慢が出来ないっ。」

「え、だって奈緒、だって・・・」

「あーあ、田中さんがついにキレた。じゃねー。俺、帰ろうっと。」


拓也は携帯をポケットに滑りこませると、さっさと席を立った。

ちょ、ちょっと、勝手に行かないでよー!!逃げ足速すぎるでしょっ!!





ここまで、第2章です。

おかしいです。この章で決着をつけるはずだったのに、狂ってます。

まさか年を越すとは・・・。


でも、必ず次章でカタをつけます。つけてみます。(首を絞めました。)



もう少し、お付き合いください。

いつもありがとうございます。

このお話が、皆さまの暇つぶしに役立っていますように・・・。


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