知りたい事とは
恋愛小説なのに、
恋愛は?どこに行った?
黙ってしまった私と拓也。
奈緒はそんな私達を交互に見比べると、ちょっと眉根に皺を寄せて、言った。
「すると今後の私達の目標は・・・何?」
「塚本碧が俺達と関係を切りたがっている以上、今後はあの人達に会わなくて済むんでしょ?
そうなると、あれじゃない?・・・お前が見た人物は、一体誰か、ってこと。」
拓也が私に一瞥をくれる。
私が見たのは、誰か?
私は、頭を整理しながら、ゆっくりと言った。
しまったなあ、こんな事なら連続2時間サスペンスドラマとか、推理小説を山ほど読んでおけばよかったわ。ああいうの、苦手なのに。
「あれ・・・話から判断すると・・・やっぱり、誰かが、中野光治にトドメを刺していた、って・・・推理できない?そうすると・・・。」
突如、私は、気付いた。
「可能性のある人達が、何人かいない?つまり、アリバイの無い人達。少年Aのハヤマでしょ、あと目撃者の、二人。」
「クズハラとコウノ。」
「そう。だってその人達の事、誰も見てないんでしょ?・・・ほら、先生を呼びに行った、とか。お互いが口裏を合わせているのかもしれないし、・・・誰と誰が口裏を合わせているのかはわかんないけど・・・或いは、一人でやったのかもしれないし。」
私は顔を上げて二人を見た。
「だって、先生を呼びに行く時、二手に分かれたんでしょ?それって、みんな一人になっちゃって、誰のアリバイも無いって事じゃない?」
「・・・そっか・・・。」
奈緒が驚いたように、口をポカンと開けた。
「でも、動機は?」
「そんな事までは、まだわかんないよ。それを言うなら、誰の動機もわかんないじゃん。ハヤマの動機でさえ。・・・つまりね、動機はないけどアリバイもない子達が3人もいるって事。」
「4人。」
拓也が、訂正した。
「4人だよ。塚本碧がいる。彼も、動機もアリバイもない。」
う・・・無視していた事を指摘された。拓也、すごく意地悪な顔をしている。
でも、確かにその通りだし、現場にいてアリバイの無い人達って括りなら、彼もその一人に入る。
でも、ひょっとしたら他にもあの場にいた人がいるかもしれない。だって学校なんて不特定多数の人が出入りする所だし、誰がいたかなんてわかんないじゃない。
・・・って、ちょっと待って?
「私も、そこにいたよ。ゲ、どうしよう、私、動機もアリバイも、ないよ。」
「お前、容疑者なの?」
「え?私容疑者なの?」
思わず身構えて、警戒するように拓也を見た。あれ?警戒する相手が違う?そうじゃなくて、警戒している人間が違う?あれ?あれ?
「バカかよ、お前。6歳の女の子が、男の胸にナイフを刺すかよ?第一、客観的に考えても力が足んねーだろが。」
「・・・ふーん。そうか。」
「自分で納得しないでよね。」
ジロッと拓也に睨まれる。
よかった、私、外された。
・・・でも、碧さんって・・・
「・・・なんで、あそこにいたんだろ?」
「知るかよ。だから事情聴取されたんだろ?」
拓也は素っ気なく吐き捨てるように言うと、残りのコーヒーを一気に飲んだ。
「・・・そっか。・・・んーと、とにかく、今の所、私のみたあのシーンが、・・・この4人の内の誰か一人なのかどうか、を確かめる事ね。」
私は隣で、テーブルに4つ指の跡を付けながら呟いた。
一緒にそれを覗き込んでいた奈緒が、うんうんと頷きながら、私に尋ねる。
「どうやって?」
指が、止まってしまった。奈緒と顔を見合わせる。
私は、拓也の方を振り仰いだ。
「どうやって?」
「・・・で、俺に回ってくるわけね。」
拓也はハアと溜息をついた。煙草の火を消している。私は両手を胸で合わせて、珍しく素直に(って自分で言うか)彼に頼み込んだ。
「お願い。何か考えて。」
「・・・高くつくよ?」
「綾香を半日、好きにしてもいい。」
「奈緒っっ!!!」
奈緒が横からとんでもない口を挟んできたので、相当恥ずかしくって(この子はさっきの私と拓也の・・・アレに、相当怒っているに違いない)、お店の中って事も忘れて、大声を出してしまった。
なのにそんな私の隣で、拓也は腕を組んでハッキリ言った。
「一日。」
「拓也っ!!」
「それはダメ。あんたは危険すぎるでしょ。」
奈緒も拓也に応戦すべく、腕を組んで足を組んで、思いっきり高飛車な態度を取っている。
拓也は嫌そうに片眉を上げると彼女を見て、そして再び溜息をついてみせた。
「ちぇっ。・・・あーあ、わっかりましたよ。やりゃーいーんでしょ。どうせね、あなた達に関わった時から、いーよーにこき使われんのは分かっていましたよ。やりますよ。」
ずりずりずり・・・と椅子の中に沈み込む。
「こうなると、もう一人の目撃者コウノに話を聞くだけじゃなくって、全く気は進まないけど、ハヤマも探し出して話を聞いてみる事だよな。・・・出来っかな、これ?これが出来たら、俺ってもうプロの域だと思うんだけど。」
「いいから。自分を褒めるのはいいから。それで?」
奈緒の容赦無い毒舌突っ込みに、拓也はますます嫌そうな顔をして彼女を睨みつける。
そしてそれでもめげずに、話を続けた。エライ。
「・・・それで、あとは、やっぱ第3者から話を聞く事じゃない?客観的な話。つっても、学校の教師とか警察とかはきっと、こんな俺らに話をしてくれるとは思わないからさ・・・近所の噂好きのおばちゃん達に聞くのもいいかもしんないけどさー・・・もっとこう、マトモな奴からがいいな・・・。」
唇を親指でひたすら擦りながら、拓也はもどかしそうに言う。
「誰かいないかな?当時の事を、なんらかの立場である程度知る事が出来て、今はもうリタイヤしたおじいちゃんとかで、口の軽そうな人。そういう人ならさ、もう責任もあんまなくって、何か喋ってくれるかもよ。」
いるかい、そんな都合のいい人間。
っていうか、滅茶苦茶細かい指定じゃない、それ。ゾーン狭すぎでしょ。
とか思っていたら、私の中に、ある人物が思い浮かんだ。
「あ・・・私、いる・・・。」
口が軽いかどうかは分からないけれど、
「お父さんのいとこ。警官を定年退職している。」
拓也がビックリした様に言った。
「何それ。なんでそーゆー事を早く言わないんだよ。」
「えー、だって、忘れてたし・・・うち、お母さんがあんまり、仲良くなくて・・・その、父方の親戚と・・・。」
「場合じゃない。決定。」
えー・・・。もう、何年も会ってないんだよね、あの人・・・。お母さん、嫌な顔するだろうなあ・・・。
「あたしもおじさんが高校の教師なの。学区も違うけど、同じ県下だし、何か知ってるかも。聞いてみるわね。」
奈緒が言った。
もうこうなったら、教師だろうが警官だろうが、市役所だろうが県庁だろうが、はたまた消防署だろうが、使える地元コネはみんな使おう、って気になってくる。
「あ、そうだ。あたしね、河島さんと初詣行くんだ。」
二人でココアを飲んでいたら、奈緒が私に耳打ちした。
私は少し噴き出してしまった。
拓也に、「汚ねえな。」と横目で軽く睨まれる。
「・・・えっ!ホントに?」
私も小声で言った。奈緒は軽く肩をすくめて、唇を突き出した。
「うん。誘われた。お正月なら、お休みが取れるって。」
「・・・付き合うの?」
「・・・まだわかんない。」
拓也は、我関せず、といった感じで携帯をいじりだした。
基本的に拓也は、人との距離を取る事がとても、上手い。
これが高校生からの、私達3人の適正距離でもあった。
「奈緒は、今まで誰かと付き合った事、ある?」
それをいい事に、私はますますコソコソと、耳元でガールズトークを始めた。
「うんー・・まあ、ボチボチ、ね。」
「・・・誰か、好きな人とか・・・いた?」
「まあー・・・色々、ね。」
「奈緒って、全然そんな話しないから。」
「綾香だってしないじゃない。バレバレなだけで。」
「・・・・。」
今更、私達の間に隠し事なんて、とは言わない。
人それぞれのパーソナルスペース、って心の中にもあると思うし、必要だろう、とも思う。
それが例え親友であろうと、家族であろうとも、ね。
でも、奈緒が誰かとデートをするなんて話、聞くのも初めてなら奈緒の口から語られるのも初めてだったので、
これは彼女からの何かのサインなのかもしれない、私に踏み込んで欲しいのかもしれない、
なんて、思っちゃったのよね。
だから、思い切って聞いてみた。かなり、かなり、思い切った。
「・・・奈緒、さ。・・・拓也の事、どう思う?」
「二重人格で腹黒い甘えったれで一途すぎる、可哀そうな奴。」
即答だ。
しかもバッサリだ。
「それがどうか?」
多少不機嫌そうに聞く奈緒に、何となく身の危険を感じてしまう。
でも今まで気になっていた事だし、もしそうだったら事態がひっくり返る大変な事なので、
・・・勇気を振り絞って、囁いた。
「・・・・好き・・・?」
「・・・・誰が・・・・・?」
「・・・た「ちょっと待った!!」
ガッターン!!と奈緒が立ちあがる。
私も、彼女の目の前に座っていた拓也も、ビックリして奈緒を見上げた。
奈緒は、驚愕と困惑が入り混じった顔つきで、私を見下ろしていた。
「ちょっと待って?え?え?何?まさか綾香・・・・」
沈黙。
奈緒を、上目遣いで見る私。
ど、どうなるんだろう、これ・・・・。
「あり得なさすぎる!!」
奈緒が、周りの迷惑を一切省みず、大声で叫んだ。
お店の人が、驚いてこちらを覗き込んだ。
この子に比べたら、私と拓也のイチャつきなんて、正直マシな方だと思うんだけど。
「今日ばかりはあんたに殺意を覚えたっ!!何をどう考えたらそうなるのよっ!!天然もここまで来ると犯罪だわっ!!」
「・・・え・・ちょ・・・」
そこまで言うかっ!!
親友を気遣っている私の細やかな乙女心を、犯罪とは何事よっ!!
犯罪って、今の今まで私達が話していた様な深刻な状態を言うんでしょっ!!
え?私の天然って深刻?!
「愛想が尽きたっ。情けなくなったっ。もーぉ、我慢が出来ないっ。」
「え、だって奈緒、だって・・・」
「あーあ、田中さんがついにキレた。じゃねー。俺、帰ろうっと。」
拓也は携帯をポケットに滑りこませると、さっさと席を立った。
ちょ、ちょっと、勝手に行かないでよー!!逃げ足速すぎるでしょっ!!
ここまで、第2章です。
おかしいです。この章で決着をつけるはずだったのに、狂ってます。
まさか年を越すとは・・・。
でも、必ず次章でカタをつけます。つけてみます。(首を絞めました。)
もう少し、お付き合いください。
いつもありがとうございます。
このお話が、皆さまの暇つぶしに役立っていますように・・・。




