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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第二章 動き出す
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Here we go 2

拓也と二人で地下鉄に乗っている間は、お互いに全くの無言だった。

拓也は電車に乗るなりipodを耳にあて、私を完璧に無視して戸口にもたれかかっている。

二人だけで行動するなんて、多分一年ぶり、いや、それ以上かもしれないけど、

こんな気まずい雰囲気で外を出歩いた事なんて多分なかったので(別れる直前は、家の中でお互いが別々の事をしていただけだったもの)

懐かしいとか、そういった感情が不思議と湧きおこらなかった。


それよりも、今後も彼と行動を共にするにあたっての、先程の様な危機をどうやって乗り切るか。

(つまり、いかに襲われないようにするかって事。)

そっちで頭がいっぱいいっぱいなのよ・・・。



国立国会図書館っていうのは、国会議事堂のお隣さんにあった。

とにかくそこは建物も道路もやたらと大きくてやたらと威圧感を醸し出す場所。

うひゃー・・・。


「何、キョドってんの。小学生みたいだからやめてよね。」


拓也が横目で私を呆れた様に見る。

するとそんな私達のまさに目の前を、小学生の集団が先生に引率されて通り過ぎていった。

「・・・・・。」

その集団は国会議事堂の門を通り抜けていく。

社会科見学なの?面白いの、国会議事堂って?


思わず見送っちゃうと、背中から拓也の冷めーた声が降りかかった。

「・・・ついてくの?」

「・・・っんなワケないでしょっ。」

「ふーん。」

拓也が私を見る目が白い。白いのよっバカにしてるわねっ。だってここ、テレビでしか見た事ないんだもん。


スタスタと先を歩く拓也についていくと、図書館は、これまた割と普通の建物だった。

あ、よかった、ここって普通の場所なのね。

そうよね、図書館って万人が利用するものだもんね、威圧的じゃあ、皆さん利用しづらいもんね。

そんな私の表情を読んだのか、拓也が言った。


「ここね、裏は最高裁判所。」


んげ。


思わず素でカエルみたいな声を出しちゃって、拓也の目がさらに真っ白になった。

でもだって、目の前の建物が急に威圧感を持って私に覆いかぶさって来る。

ななななによ、国会と最高裁判所に挟まれる図書館なんて、弁護士とか議員とか裁判官とか裁判チョーとかギチョーとか新聞記者とかそーゆー人達の専門館で私達みたいな大学生は摘みだされたり、おっと。


「戸口で立ち止まんなよ。メーワクだろ。」


拓也にグイっと腕を掴まれる。

ズンズン中に連れて行かれる。

慌てて腕を振り払ったら、拓也がビックリしたようにこっちを見た。


だ、だって・・・・。


すると彼は片眉をあげて、バカにしたように私をみたのよこのやろう。

「いちいち反応すんなよ。こんなとこで襲うか、ばか。」


バ、バカにして、しかもばかって言ったわねっ。

あんたが前科者だから、こんなに警戒してるんでしょっばかって言った方がばかっ。

さっさと私を置いて先に行くなよ、偉そうな猫っかぶりの甘えったれめっ。

と口では言えないものだからその背中に念力(呪い)を送るんだけど、多分絶対、届いてる。




あらゆる刊行物が納本されている国会図書館に足を運んだ理由は、言わずもがな、例の事件関係の記事を調べる為。

電子端末機前にそれぞれ陣取り、二人で手分けして検索を始めた。

新聞記事、週刊誌、出来る範囲で調べるのだけど、これが中々大変だった。

途中で読むのが嫌になってプリントアウトしようとしたら、拓也に止められる。館外持ち出し禁止らしい。

自分はちゃっかりノートとペンを持ち込んじゃって(鞄は入り口で没収された)、ちまちまとメモを取っている。ほんっと、ぬかりのない子。


閉館時間まで粘った為、外に出たら辺りはすっかり夜景色だった。

都内なのに思いの外、星が見える。


「・・・あー、宇宙だー・・・。」


立ち止まって夜空を見上げて呟く私の隣で、ストールをグルグル巻きにした拓也が「さみっ」と言って、肩をすくめて口元を埋めた。

二人の吐く白い息が、星空に少し、彩りを加えているように感じた。



「腹減った。晩飯どこかで食おうぜ。」

「あ、うん・・・。」

「色々整理しないと、だろ?俺、しばらく時間作れないから。」


彼はそう言うと、やっぱり一人でスタスタと、地下鉄の駅を降りて行った。





「目撃者は二人。同級生。話を聞くとしたらこの人達だろうな。」

「・・・そか。」


定食屋と居酒屋の中間みたいなお店で、二人で向かい合わせに座って、ご飯を食べながらの作戦会議。


「当事者少年Aに会って訊くのは、一番避けたい最終手段だもんなあ。会えるかどうかもわかんねーし、話してくれるかどうかも分かんないもんな。」

「・・・どうやって、調べるの?」

「そこはあなた、吉川クンの人脈でしょ。っていうか、あなたの地元でしょ。」

「?」

「高2ん時同じクラスだった山下、あいつってお前と同じ学区じゃなかった?」

「・・・あ、うん。」

「確か、年の離れた姉ちゃんがいた。」

「・・・そうだっけ?」

「そうなの。結構美人だったから。」


そう言いながら、拓也はズボンのポケットから携帯を取りだした。

体を傾けて話をしだす。


「もしもし?おう、久しぶり。・・・うん、マジたるいよ。うん。やってるよー。そっちは?・・・あはは。」


・・・え?これってもしかして、その山下君に電話をかけているの?


「あのね、頼み事があんだけど。俺ね、ガッコの授業で課題があってさ。選択で教育心理学取ってんのよ。・・・え?そう。教員免許を取るつもりでね。」


なんですと?

そんな話は初めて聞いたわ、あなた、教師になるつもりなの?

やめた方がいい。ぜーったいっにっ、やめた方がいいから。

生徒が可哀そうだから。


「でさ、前浜東中の例の殺人事件、課題でさらっと出そうかと思ってるの。他にネタがなくって。」


・・・はいっ?

課題でさらっと殺人事件?

どーゆー授業よ、それ??


「俺の知り合いの中じゃ、山下が一番詳しーかなと思ってさ。姉ちゃんが確か、当時前浜東中だったんだろ?お前、何か知ってる?目撃者とか、少年Aとかって、今どうなってんの?」



・・・うっわー!!きたよ、これですよ!!

こーやって、へーきでウソをつくのね??いえ、この場合、調査をするのね?

何、この、自然な流れるような口から出まかせは。


「おう、そっかー。え?マジで?スゲー助かる。うん。・・・うん。サンキュー。わかった。美人な姉ちゃんに宜しくなー。」


満面の笑みで、してやったりと電話を切る拓也。

その見事なハッタリぶりに、無駄とは思いつつも、私はつい確認をしてしまった。


「拓也・・・教員免許取るの?」

「は?そんな訳ないでしょ?バカですか?」

「・・・・五枚舌?」

「・・・このクソ忙しい中貴重な時間を割いて協力をしている大切な「バカですごめんなさい。」


だめだ、この状況。圧倒的に私が不利。何を言っても口では負ける。

大変不本意だけど黙っておこう。

ああ、この子の勝ち誇ったような笑顔が癇に障る・・・。



「と言う訳で、この件は山下クンから連絡貰うまでペンディングね。

 そんじゃ次。塚本(みどり)の素性を発表ー。」

「えっ??そんな事までもう調べてるの??」

「あなたね、俺を誰だと思ってんの?吉川クンの情報収集能力をナメないでよね。」


得意そうにニヤリと笑う拓也に、私は心底感心してしまった。

だって、奈緒が拓也に連絡したのは数日前でしょ?

自分だって勉強で相当忙しいハズなのに、その短期間にそこまで調べてくれたの?


すると、私があんまりにもビックリした顔をしていたからなのだろう、

拓也が一転、呆れたような表情で言った。


「・・・俺がバスケ部だって事、忘れた?」


なんだ、バスケ繋がりか。

感心して損した。


私の態度があからさまに変わったので、拓也がムッとしたように話しだす。


「塚本碧。一浪して東都大学工学部入学。経営システム工学科卒業。」

「工学部で経営・・・?何、それ。」

「知らねーよ、そんなの。頭がいいって事なんだろ。突っ込む所じゃないから、そこ。

 バスケ部所属。壊滅的に弱小なそのバスケチームの中でのエース。チームを何度か、奇跡的な勝利に導きそうになった。」

「・・・・つまり、上手いの?下手なの?」

「チームは下手だけど、みどりちゃんはかなり上手かった。おまけにあの容姿と性格なモンだから、試合じゃいつも注目の的だったよ。スターだったね。」


へー、なんか想像つく。


「なんで拓也と知り合いだったの?」

「あの人、試合前の練習中、転んで足首痛めちゃったの。そこにたまたま俺が居合わせて、あっちのマネがたまたま席外していたから、俺が応急処置をした、ってだけの話。」


・・・何それ。全然『話せば長』くないじゃん。

私は、あの夏の日の事を思い出して軽くムカついた。


「・・・ふーん。お互い、よく覚えていたね。」

「向こうは有名人だからね。俺はともかく、あの人は記憶力あるよね。」


拓也も私と同じようにあの日を思い出したのか、これまた違った理由で、悔しそうに言いだした。


「しかもこの前会った時、俺をわざと『古川、古川』って呼びやがって。無駄に芸が細けーんだよ。最初気付かなかったもんな。ちぇっ。」

「なんか、微妙に絡まれていたよね。」

「・・・癇に触ったんだろ。目ぇ、つけられたんだよ。」


「・・・何で?」


癇に障る、とはどういう事ですか?


「お前があの人と歩いているの見た時、俺、『色気ねーから、デートじゃないな』っつったろ?あれ、お前だけじゃなくって、あの人の事も遠まわしに言ったつもりだったんだけど。」

「・・・遠まわしすぎて、未だに辿りけてないんだけど・・・。」

「お前はね。でもあの人は気付いたんだろうな。でなきゃ説明つかないもん。『古川』攻撃に続いて、『色気ない』までまんま返されて、トドメが『ヨッシー』だもんな。」

「・・・ははあ。」


お互い、分かりづらい攻撃を繰り出していたんだなあ・・・。


「性格は明るく、大変ノリが良く、面倒見が良い。男女共に人気あり。後、こっからは裏情報。実家は資産家だけど、両親は既に他界。過去にかなり荒れていたのでは、という噂あり。」

「・・・あんた、公認会計士やめて、探偵にでもなれば・・・?」

「ふふ。ありがと。じゃ、兼業会計士にでもなろうかな。」


拓也は可愛い顔で可愛く笑うと、すぐに真顔になって、私を見つめた。


「俺がこんな事言うのは我ながら心外なんだけど、多分あの人、悪い人じゃないよね。」


うん、それはまあ、ね。


「仮に最悪のシナリオで、彼が実は真の殺人者で、お前が見た事を知っているとして。」

「え?何それ?!何でっ。」

「仮だよ、仮。落ちつけよ。」


困ったように眉を下げて、少しあやすように私をなだめるんだけど、

落ち着いていられないよー。

碧さんが殺人者なんてもちろん信じられないけど、

それって、殺人者が私の身近にいるかもしれないって事?!怖すぎるよー!

殺人者は、少年Aでしょー!捕まって、不起訴でしょー!


「だから、そんなドラマみたいな展開が仮にあったとしてもよ?あの人はそんな悪人には見えないから、お前を傷つけたりはしなさそうだな、って話。」

「・・・だって、ドラマって、一番意外な人が真犯人・・・。」


私は俯いて呟いた。

すると拓也は苦笑して、ポン、と一回、軽く私の頭を小突くと言った。


「じゃあ、あの人犯人じゃないじゃん。だってすっげー胡散臭いもん。」


・・・そっか。


私も顔をあげて、拓也と一緒に笑ってしまった。


胡散臭いけど悪人じゃない。

ふふ。変な人。











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