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婚約者に逃げられました。  作者: 砂臥 環
第三章 冬祭り

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『ツルペタストーン』の呪い


初めての口付けは、多分慣れている方々から見たら子供じみたものだっただろうと思う。

それでも私にとっては、思い出して未だにのたうち回るほど衝撃的だった。


「お嬢様、他の者も来る時間ですから、そろそろ……」

「──はっ! そうね!!」


実際に今も、ベッドの上でのたうち回っていたところだ。


一応実家の面目もある為、侯爵家から当てがわれた他の三人の侍女の前では猫を被り続けているが、生暖かく見守られているのを感じる。




それもその筈……あれから私とフェル様は以前より、『婚約者』というよりも『恋人』的な雰囲気が出るようになってきた。


ユミルから言われた通り、物理的接触がこころの距離を縮めてくれたのか、気持ちと醜態を晒したことが距離を縮めてくれたのかはよくわからない。

それは『順番が多少前後した』ぐらいの誤差かもしれないが、兎にも角にも距離は縮まった、と感じる。


悩みはまだ聞けていないが、どうやら『そういうこと』ではなかったらしい。

そしてあの出来事がどう転んだのか、フェル様が私を眺めて憂うことは無くなった。


(最近お仕事にも少し余裕ができたようだし……あら? そちらが悩みだったのかしら?)


とりあえず、私には新たな悩みが出来ていた。

それは……『ツルペタストーン』である。




ルルーシュ様の時は全く気にならなかった自身の体型が、ここにきて急激に気になりだした。


ローラン夫人にウッカリぽろっと零してしまったところ、ネルというボンキュッボンの女性騎士を紹介してくださった。

なんでも『胸筋・腹筋を鍛えることでメリハリボディは作られる』そう。


しかしネルは逆に、私のような体型に憧れがあるらしく……曰く、『薄くてほんのり柔らかい肉のある理想女子体型』だそう。

「肉が余りに余っている訳でもないのに、柔らかい肉を硬い肉に変えるのは私の矜恃に反します」という謎の宣言をし、何故かほぼ基礎体力作りと化している。


ローラン夫人は「人がなにを基準に『美しい』と捉えるかは、人それぞれの価値観です」と上手い具合にまとめ、その上で「ティアレット様は筋力と体力が足らないので、ある程度運動はしましょうね」と促された結果だ。


なんとなく釈然としないものの、ボンキュッボンである筈のネルの視線があまりにも憧憬に満ち満ちたものであることから、自信はやや回復した。

だが、ネルだけでなくユミルなど他の女性とフェル様が並ぶのを見ると『やはりもう少しどうにかならないものか』と思ってしまうのだった。




そんなボンキュッボンのネルとユミルを供に、私はフェル様に誘われて西の街、ケプトの『冬祭り』を観に行くことになった。


ケプトは馬車で二時間程度。

ネルは護衛なので、馬車ではなく他の騎士達と共に馬。

馬車にはニック卿とユミルを含めた4人で乗るものかと思っていたら、馬車は二台で、フェル様とふたりきりだった。


あれ以来ふたりきりになるのは初めて。

意識してしまわないように、なるべく会話を続けるべく話を振った。



泊まらず日帰りできる距離だが、挨拶も兼ねてローラン子爵邸へ泊まるという。

ローラン家の当主はニック卿のお父様で、次期当主はニック卿。だが侯爵様の側仕えである子爵は領地にいることが少ない為、領主は別に据え、ご兄弟に任せていたらしかった。



「数年前までニックの叔父、ヘルムート卿が領主を務めていたのだが……御本人が引退を強く希望され、ジェレマイア卿に差し戻された。 今はニックの弟であるトーマ夫婦が領主代行として管理をしている」

「ニック卿のご兄弟。 似てらっしゃいますの?」

「いや、似てないな……ニックは小柄で華奢だがトーマは熊のような男だ」

「まあ、では──」


その先を言おうとして、慌てて口を塞いだ。


『ルルーシュ様とフェル様みたいですね』


(いけないいけない、『ルルーシュ様の名は出すな』というのを忘れていたわ)


それに、フェル様は熊のようではない。

贔屓目で見なくても、10人中8人くらいは素敵だと言うと思う。

ついでにルルーシュ様も、華奢だが小柄ではない。


ついでのルルーシュ様は置いといて、そんな素敵なフェル様の隣にいるのがなんだか不思議に感じる。

じっと見つめてしまって、恥ずかしさにおもわず目を逸らし俯いた。


「……どうした?」

「にゃんでもありません……」


そして噛んだ。


「ふ『冬祭り』楽しみです!」

「そそそそうか!」


私が見つめていたのがバレたのか、フェル様も噛んだ上、何故か真っ赤でアワアワしている。


こそばゆい感覚が全身を襲う中、咳でなにかを誤魔化したフェル様が、私の手をそっと握った。




私はこの時『まるで恋愛小説の主人公になったみたい』などと浮かれた考えをし、完全に舞い上がっていた。



──しかし、現実はそう甘くないのである。









ちなみにこの国では、拝領するとしばしば家名が領地名になる仕様です。(※苗字≒領地名と考えてください)


砂臥の作品は大体似たような感じです。

シリアスで設定上必要不可欠でない限り、名前で悩む気はないので……そもそもあまり設定など考えてなゲフンゲフン。

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― 新着の感想 ―
[一言]  呪いの全貌は次回?  しかし、ちゃんとバカップルに向かって進んでおりますなぁ(^^)
[一言] ネルの件は何か裏事情があるのではと思っていましたが。 そういうことですか。
[一言] >「人がなにを基準に『美しい』と捉えるかは、人それぞれの価値観です」 名言出た( ˘ω˘ ) ホントそれ( ˘ω˘ )
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