35.広場で小休憩
美央が立ち直ったのはそれから三十分した頃だった。
結局それまで美央は俺の上から頭を離そうとせず、目の前を通行していく人々にちらちら見られる羞恥プレイを強制させられた。
全身が疲れている上に、ももがしびれるといった、おそらく回復した美央よりも体調は悪い状況で、とにかく次は落ち着ける場所に行こうとしたのだが。
「じゃあ次はおばけやしきにれっつごー」
まったく俺のことなど考慮してくれない美央に手を引っ張られ、おばけやしきに行くはめになってしまったのだった。
そういえば、ジェットコースターで美央が身長制限をクリアするしないと言っていた頃、おばけやしきに関しては美央と俺の立場は逆転していた記憶がある。
ポジティブに考えれば、当時の俺はある意味で一番楽しめたと言っていいのかもしれない。
改めて入ってみた今では、冷静に対処できる。むしろあの頃はなんであんなに怖がっていたのだろうと不思議に思うくらいだ。どうも俺には、理解できないものに対して混乱する性質があるのかもしれない。からくりとか理解した今では、特に恐怖に思うことはない。
「全然怖がってくれない……つまんなーい」
おばけやしきを出た後、美央が口をとがらせる。
「わざわざ狙ったのか? そりゃ残念だったな」
なるほど。美央もずいぶん強引に引っ張るなと思ったら、仕返しのつもりだったのか。
それなら、返り討ちにした俺はすっきりしたというものだ。
口では負けてばかりいるが、どうやら今日の行動においては俺にも分があるらしい。
「むー、とにかく次行く前に作戦立てなきゃ……ちょっと休もっかー」
「作戦とか口に出すなよ。実行されても困るが」
さっきジェットコースターに乗った後にも休んだばかりだったが、おばけやしきでもけっこう歩くもので確かにまた足は疲れていたので、そこは美央に従うことにした。
この遊園地は、もちろんアトラクションもあるがどちらかというと公園のイメージが強い。木々に囲まれ、噴水があって、鳥のさえずりが聞こえる……そんな芝生があったりする。
俺と美央は噴水の近くまで寄り、腰を下ろした。
「えへへ、気持ちいいねー」
美央が両手を広げて、芝生に全身を預ける。
確かにそうしたくなる。雲一つない青空の中で、ほどよく暖まった芝生の上に寝ころんだら、それは気持ちいいだろう。
俺もそうしようかな。そこまで思った時に、美央は上半身を起こした。
「おにいちゃんも寝ころんだら?」
「言われなくてもそうする」
俺も美央のように、芝生に寝ころぼうとする。
その時、美央が何かの行動に出たのだけは視界の片隅で見えていたが、重力にたてつくには気づくのが遅かった。
「スキありっ」
俺の頭に弾力のある何かが当たる。
真正面には、美央の顔があった。
「さっきのおかえしだよ。あ、そもそもこうして女の子がひざに乗せる方が王道だよね。えへへ」
どこか満足そうに美央が言う。俺としてはこのままでいるのは、自分としても、周りの視線にしても、世間体にしても、それぞれの意味で耐えられない。
こんな状況でいては、反論をする時間を取ることさえ嫌で、すぐに起きあがる。美央の表情は想像できるのであえて見ないことにする。
「むー、何が不満なのかなあ……あっ、スカートじゃなかったから? じゃあ今度からそうしてあげるね?」
なんでそこまでかけ離れた読みを堂々と言えるんだろうな。
近くにいたカップルの男が、その連れにはたかれているのが目に入った。




