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30 ファンタジーよ刮目せよ、これが科学だ!

 読者の皆様いつもお読みいただきありがとうございます!

 ギリギリ出来上がったので投稿、誤字脱字多かったらすいません。



 眠い……いや、寝るな。


 徐々に夜が明けて来ている、空の色が白い。暁が見える。後もう少し、もう少しだから踏ん張れ。睡魔に負けるな。睡眠は助かった後だ。今は堪えろ。


 でも眠い……眠いの、猛烈に眠い。

 体が睡眠を求めて眠……っ!!


 寝ちゃダメ!!

 今寝たら木から落ちて死んじゃうからダメだ。


 ほら、空はほぼ夜明けを呈している。頑張ればこのまま朝陽が望めるだろう。そうなればこちらの勝利。きっと奴らは消滅する。ざまぁできる。

 そのためにもちゃんと起きていろ。


 できる。やり遂げられる。私なら、私だからできる。

 だからやれ。



 あれから数時間に渡り、自問自答する様に自身を奮闘させた。

 そうやって何か脳内で叫んでないと寝るか発狂してしまう。


 下を見れば、森を埋め尽くさんばかりのオーク鬼。

 森のあった場所は前世の渋谷スクランブル交差点を彷彿とさせる程の大密集地帯と化しており、何気にピンチである。オーク鬼が何もしていないのに、森が蝕まれているからである。


 それも仕方がない……オーク鬼の発する実体を持たない『毒』、即ちオーク鬼の発する黒い霧と悪臭、そして冷気が強まったからである。


 黒い靄が濃くなると、触れた生命が一瞬にして萎んでいったのが見えた。草木だと黒ずんで枯れ、動物だとジタバタし出すも弱って倒れ伏していた。

 恐らくエネルギー産生阻害か、エネルギー源(脂質・炭水化物・蛋白質)の簒奪か。


 屍臭は不明だが、確か臭いと感じる物質は大体人体へは毒になった記憶がある。雑菌臭等は良い例で、雑菌の放出する有機酸で臭くなっていたと覚えている。だから考えられるのは細菌類?

 あまり吸い込まないほうが良いのかもしれない。


 最後に冷気。

 いや、これはどちらかといえば『冷気』と感じる現象……吸熱だろうか。

 気付いた理由は、地面を霜が覆ってもおかしくない寒さなのに霜がなかったことからである。外気温が変わらない以上は体温を奪われて『寒い』と感じるのだろうと考えたのである。

 それがあながち間違っていなかった様で、服で隔離したユールの体温は徐々に戻ってきた。今はスヤスヤ穏やかな寝息をたてて寝ている。



 何にせよ、生命にとっての脅威。

 なるべく物音を立てない様息も詰めているも、こうジワジワ攻められれば追い詰められていく。


 やはり打っててるべきだったか……いや、1匹倒せてもこれだけの数は無理だ。



 それより今考えねばならないことは、太陽が出た後オーク鬼が退却しなかった場合のことだろう。絶望的な状態となるが、それでも生きている限りは抗わねば。

 まあでもこれに関しては『オルクスの死人』という正式名称考えれば大丈夫だと思うが……いや、念のためだ。念のため。


 さて、仮に奴らが消えなかったら、私は一発花火を上げようと思う。賢者とジャック、カーロへ場所を知らせるために。

 幸い炎色反応はほぼ覚えており、花火も市販のやつを悪戯で分解した経験がある。

(※絶対に真似しないでください)


 色的には赤と黄色、青色がいいかな。ならば、リチウム、ナトリウム、リンの粉末が必要……黄色のナトリウムは扱い難しいからやめて、バリウム(黄緑色)にしておくか。

 『SOS』は通じないだろうから、スタンダードに円形。


 想定してなけなしの魔力を絞って作り出した花火1つ。



「!!」



 ここで私はふと、面白い可能性に気がついた。

 というか、よく考えれば一気に解消するかも。



 そう、花火をオーク鬼へ投下すれば全部解決する。



 音に反応し、陽光に弱い。そして攻撃方法は吸熱、吸エネルギー……そして、熱とエネルギーは生命体の作成したものからしか吸収できない。

 逆に言えば、生命体の作成したエネルギー・熱の吸収はできるということ。


 それは仮に、物理現象だったとしてもエネルギー・熱の吸収をすることは分かっている。石を使って証明したからである。


 検証方法は簡単で、一つをオーク鬼非密集地帯(①とする)、一つをオーク鬼密集地帯(②とする)へと投げた。前提としては、物理学的には(鉛直でない)投げ下ろしをしたこと。

 その結果それぞれ、①は加速し続けて落下、②の石はオーク鬼の中腹で不自然に速度を落として落下した。

 ここでオーク鬼の推定的性質を考慮すると、オーク鬼が私の投げおろしエネルギーを吸収したと考えたのである。


結論:オーク鬼は物理・化学関わらず、生命体のエネルギーを吸収する。


 さて、ここでおかしなことに気がつかないだろうか。

 そう、これだけオーク鬼が密集しているのに、樹木を殺しきれていないこと。



 つまり、⑴オーク鬼の吸収には限界がある、⑵吸収速度以上は吸収できない、この2つが考えられる。どちらのパターンでも、オーク鬼に実体がある以上は『花火』という高熱、高エネルギーな反応に触れれば無事では済むまい。



 森火事が怖いが、終わってから雨雲を作って降らせよう。

 私とユールさえ最悪死ななければいい。


 あと考えておくことは……そうだ、妖精王や妖精王妃が抗議してきた場合。だけれど、彼らも今回そもそも指摘できないかもしれない。元凶は妖精界の仕様、即ち彼らの統治(あるいは彼ら自身)にあるのだから。

 仮にそんな厚顔無恥な行為をしてきたら、ユールにつけた監視魔法や移転魔法に関して追究すれば黙るだろう。いや、黙らせる。


 今回のことで私も相当頭にきているのだ。スキャンダルを晒されても文句は言うまい、それだけのことをしたのだからオトシマエつけてもらわねば、な。

 何より、やられっぱなしは性に合わないからな。



 さて、安心してかかってくるがいいファンタジー。

 現代科学にとって、相手に不足なし!



 導線へ着火し、水平投射。

 だが、途中で導火線の炎が消失……遠過ぎたか。



 次だ、次。



 導火線へ着火し、少し進んでから水平投射。

 やはり導火線の炎が消失、爆発ならず。



 残弾数は後2つ。これ以上は今の魔力では着火できなくなる。

 オーク鬼の赤い目と目が合う。いや、虚ろで禍々しい目を私へ向けてきている。


 !? 気付かれた……音を出しすぎたからか。


 密集したオーク鬼は一気に私のいる木の根元へと集ってきた。そして、嗚呼、やはり結界が発動。障壁は破られないが、その分一気に魔力が消失していくのを感じた……体を休めて何とか回復した分が一気に抜けていった。


 魔力が枯渇し出して倦怠感を覚えた体を叱咤して、手元の花火を見る。

 後1発で決めねば無理だな。魔力が消失して、どの道くたばる。


 でもまだ1発ある……何、やらねばただ死ぬだけ。ならば、最後の最後まで人間らしく、泥臭く争ってやろうではないか。


 導火線をわざと短くして、点火。これって途中爆発する可能性が高く、絶対にやってはならないことだ。そういえば注意書きでも散々そうやって遊ぶなと表記があったな。

 走馬灯の様に、花火の記憶が流れる……そうだ、最初に科学へ興味を持った切掛けだったな。


 火は間もなく導火線を焼き切って花火本体へと着火する。

 5、4、投下!



 2、息を飲む。



 1、目をつぶって耳を塞ぎ、祈る。

 どうか、どうか!!!





ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオン





 耳を押さえても腹の底から響く音。まぶた越しの光の奔流。

 そして、結界外の樹木を全て吹き飛ばすエネルギー(爆風)


 残った魔力は体感2%を残し、全部使い切った。


 閉じていた目を開く。



「!!!」



 オーク鬼……全滅。

 オーク鬼だったものと思しき物体がそこら中散乱している。凄まじい悪臭を放っているが、あの冷たい、黒い、怖い死臭とは違った。明らかに熱やエネルギーを奪っていかない類だ。



 つまり、本当に全滅した。オーク鬼撃退したんだ!



 ファンタジーに打ち勝った、科学の勝利!

 そして、人類文明の大勝利。


 やった、やってやったぞ!!


 生き残った、生き残ってやった……生きて、生きている!!!



「やった、やりましたわ!!!!! ユール、生き残りましたわよ!!!」



 実感が湧いて、涙が出てきた。

 あのオーク相手に生き残った!!


 グレンデルな私だから、本当にここで死ぬのかと思っていた。けれど生き残れた、生き残った!!



「……光…………朝、焼け……」



 恐ろしい闇が終わり、明るい世界へと変わる刻。

 朝焼けが雲をローズレッドへ染め、夜と朝の混じった空が真っ白になった。


 やがて太陽の金色光が地平線から漏れ出る。

 元オーク森林だった焼け野原を照らし、オーク鬼の残骸が消失していく。まるで煙のように、空気へ溶けた。



 ようやく、ようやく終わった。


 そう思って、体から力が抜けた。

 体に限界が来た様だ。



 ユールはまだ眠ったままだが、直に起きるだろう。

 それより今は、少し、ほんの少しだけ休ませてくれ。


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