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25 忠臣/人種問題

 読者の皆様、ブクマ・評価・誤字脱字報告・感想等、いつもありがとうございます!

 今回はまたちょっとシリアスになります。




 目を覚ますとマリアンが側にいた。

 目の隈が濃く、やつれた顔をしている。寝ていないのかもしれない。



「マリアン、おはようございます」


「……お嬢様!!」



 そして目があった途端盛大に泣かれた。聞くと、変な薬を吸入してしまったせいで2日間寝たままだった様だ。

 ……だとすると、夜中ジャックにフォカッチャサンドをもらったのは夢? あの時一度起きたと思うのだが。まあいいや、後で本人に聞いてみよう。



「お嬢様、お目覚めですか!」

「我々が付いていなかったがために、大変申し訳……」



 ルカとティア、護衛役数名からも土下座せんばかりに謝られ、寝起き早々物凄くオロオロすることになった。



「お嬢様……っ、私が……、本当に、本当に、申し訳ないです……」



 泣き続けるマリアン。

 倒れた後に起こった不法侵入・誘拐未遂事件で私が推定2日間起きなかったことが相当ショックだったらしい。

 しきりに「申し訳ございません」しょんぼり謝るマリアン。彼女はむしろ、よくやってくれている。気絶したことに関して、誰が彼女を責めよう。


 今回は明らかにお父様と賢者の失態だ。

 賢者モードが『ワームホール』の術式を使ったがために、公爵邸に貼られた結界が一部歪んだ。そこでお父様があんな感情任せに魔力を解放し、亀裂が入った様だ(ジャックレポート)。


 結果、結界が一部壊れて不法侵入できてしまったというわけだ。



「お嬢様……訓練場もお屋敷内部といえ、お屋敷内に比べて警備は手薄です……そこでお嬢様の身に何かあったら……グスッ…………危険なこと、しないで、もっとご自愛くださいよ……」



 泣きながら半ギレしたマリアン。



「今回も……ヒグ、グスッ、……お嬢様が……お嬢様が、自ら、受付兵の安否を、確認しなければ、グスッ……あんな、……倒れなかった、のに…………グズッ……伺いまし…………無茶しないで、下さいよ……」



 貴族なので、もう少し人を使いなさい。他人を頼って危険から遠ざけろ。

 というか、危険なことからもっと身を守って近づかないようにしろ、護衛役はなんのためにいると思う、等々。


 マリアンから、またもや諫言をもらうことになってしまった。本当、こんな不甲斐ない主人で申し訳ないとしか言いようがない(おのれジャックの奴チクッたな、ご褒美クッキーはロシアンルーレットにしたる)


 本当、その発言ごもっともだと思うし、実行できればどんなに皆に心配かけずに済むか。それはわかっている。

 十分わかっているつもりだ。


 だけどね、マリアン。



「……マリアンごめんなさい、善処はするつもりよ」



 残念ながら確約はできないよ。



「多分だけれど、私も自ら動く時は来ます……だから、自分から危険へ身を置くことも今後増えるのでしょうね」



 泣かせることはわかっていても、マリアンには誠実でいたかったので私はそう発言した。

 案の定、怒り、涙を流したマリアン。



「っ、……何故?! 何故ですか!! お嬢様はまだ子供でしょう? 大人に任せてお嬢様は……」



 それができないことは、マリアンもわかっている。

 だってマリアンは事情を知っているのだから。


 私はこれからもずっと狙われ続ける。

 イスカリオテ公爵家や国内での地位、教会との確執以外にも、狙われる要素がある限り。それも、『種族』というどうしようもない事情で。


 私は、私たち一族は、『メルトキア人』だからである。


 古代メルトキア文明の生き残りであるメルトキア人。

 遺跡や記録は戦争で既に失われているが、過去繁栄していたと言われている。


 だが今や、栄枯盛衰。絶滅の一途をたどっている種族。



 現存する地上の純粋なメルトキア人はもう、私とお母様のみ。



 メルトキア人とは、簡単に説明すると妖精と人族の中間種族である。

 種族特徴としては、妖精と人族のいいとこ取りした感じだろうか。印象としては、妖精の固定性・永久性を人間の成長・進化可能性へ変換した究極人系種族、といったところか。

 また、妖精と人族どちらの血を引いているが、本質は『妖精』に近いとのこと(妖精談)


 そんなチートのくせに壊滅したのは、見目良く歳をとらない性質があって、個体数が増えにくい性質があったからなのか。あるいはその血肉を使えば強力な魔導具が出来るからか。

 まあどちらにせよ地上では絶滅寸前、ある意味負け犬種族とも言える。


 お父様はグルドニア人とメルトキア人のハーフで、お母様は生粋のメルトキア人。その子供である私はだから、最後の純粋培養なメルトキア人。

 その他、この国の貴族階級で確認されている現存メルトキア人はカル先生のみである。ただ、どうやらカル先生は先祖返りで後天的にメルトキア人になった様なので、純血とは言い難いらしい。


 オストライ=ニルヴァニラ王国におけるメルトキア人減少の背景には、違法奴隷貿易や闇市の繁栄があった(賢者教育の歴史)。特に、先代国王時代に隣国と通商条約を結んだことが原因と思われる。

 我々メルトキア人は隣国からは『良い魔導具素材』として見なされており、裏側での取引なら黙認された。お父様と友人関係にある現国王が禁止するまでは、ひどい乱獲があったのである。


 現在もまだこの国ではメルトキア系のグルドニア人は少数存在するので、隣国から執拗に狙われている。こんな状況で最弱なメルトキア人である私は、隣国からすれば格好の獲物だろう。


 だからこそ今、私は執拗に狙われている。


 捉えにくい最強な大人を狙わずとも、私1人で十分利益が出せるのだろう。母体としての利用価値は高く、素材用の子供を生産し終えてからも素材として使えるからだ。ほら、余すところが一切無いだろう?


 そして、一度捕まれば決して逃がしはしてくれまい。

 グルドニア人以外は人でなし。子供1人の将来を潰すことへの罪悪感は異教徒・異種族には持たない連中だからである(まさに鬼畜外道)


 だから、地上にいるなら圧倒的に強くなければ生涯狙われ続けるのである。

 強くならねば。



「……なぜ、なぜお嬢様が…………お嬢様ばかりがこんな、っ……」



 そうした事情をマリアンも知っている。

 マリアンは聞かされているからだ。


 本来なら、私のメイドでありながら護衛、毒味、そしていざとなれば身代わりとして、側に控えている存在であるマリアン。貴族専属の侍女・従者の交わす魔法契約内容としては常識である。


 だがイスカリオテ公爵家だけは例外。


 隣国の人種見分魔導具の開発を機に、生粋のグルドニア人がメルトキア人へ偽装することは不可能となったのである。


 マリアンは生粋のグルドニア人だ。

 だから、私の身代わりはできない。


 黙って仕えさせないのは雇用主の誠意であると同時に、我々へ向けられた悪意から自身を守ってもらう意味がある。



「マリアン、仕方がないことですわ。こればかりはむしろ、巻き込んでしまわないかと不安なのですけれど……ごめんなさいね」


「!! っ……謝らないでくださいよ! むしろ、いざとなったらなんと言われてもお嬢様を連れて逃げます!! 無理なら盾にも剣にもなりますから!」



 まあそれ以外にも、私の場合は今後マリアンへ迷惑をかけまくるだろう。

 何せ、私は悪役令嬢なのだから。


 今や内容があやふやな『百年の恋は芳しく』。

 悪役令嬢ルルーティアには死亡フラグと言える地雷原がてんこ盛りだった。世界自体が彼女を殺しにいっているのではと疑ったくらいである……最終的に殺されていたが(原因はぼかされていて不明という)。

 今更ながら『悪役令嬢ルルーティア』へ同情した、ザマァとか笑ってすまんかった。今は自分なのだから本当、全く笑えない。


 国内外の人種・宗教問題と、国家間の冷戦状態。異世界衛生暗黒状況。

 そして悪役令嬢としての運命。

 これ以上はよしてほしいと思うところだが、多分まだ最大級の地雷がいくつもあると予測できる。


 こんな状況で無茶しないなどと、守れない約束はできなかった。



「マリアン、まだ起こっていない悲劇を悲観しても仕方がないでしょう? 大丈夫よ、私も黙ってやられはしないわ」



 泣き止まないマリアンへ抱きついた。


 私よりも少し背の高いマリアン。

 タコだらけの手が、優しく私の頭を撫でた。新しい豆が複数できているので、もしかしたら責任感じて無茶な訓練でもしたのかもしれない。

 申し訳ないな、けれど、こんな思ってもらえて嬉しくも思う。


 やっぱりこの人はあったかい。

 私はちゃんとこの人の雇用主足りているか。


 本当はこんな優しい人に、あまり心労かけたくない。

 でもやっぱり、これからもっと心配かけてしまうかもしれない。だって『賢者』目指しているのだから。申し訳ない気持ちはあるけれど、こればかりは譲れないのである。







「お父様おはようございます」


「ルル! よかった、怪我はしていなかったな?」



 お父様は私へ抱きつく。心配させてしまい、本当に申し訳なかった。


 そして、怪我をしていないかしきりに体を弄りだした。

 不愉快そうに眉を顰めると、突如、お父様の頭へ何かが炸裂した。文字通り、炸裂である(誤字にあらず)。

 途端、痛みに崩れ落ちるお父様。



「……ヨハン? 私もルルが心配なのです、顔を見せてくださいまし」

(意訳:どけ、邪魔。)



 よく見れば、扇( だったもの)がお母様の手の中に。



「ルル! よかった。本当に怪我はしていない……みたいですわね、本当によかった……よかった…………」



 元扇を放り出して私へと抱きついたお母様。よく見れば、マリアン同様目の下が隈になっており、しかも若干顔色が悪い。

 ……心労かけちゃったかもしれない。



「ご心配おかけしました、ええ、ええ、私は無事ですわ……ジャックが守ってくださいましたから」


「あの妖精が……」



 驚いた様子のお母様。ジャックも普段の行いが悪いので、仕方がないか。



 正直今回の襲撃に関して、襲撃者個々の能力に関してはだいぶ質が低かった。教会の腐敗を摘発した件で、領内闇ギルド系列の有力組織が一部以外軒並み廃業したからだろう。

 むしろ、結界が壊れていなければ今回の襲撃なかったのでは。


 ただ、隣国の魔導具が導入されていたことは予想外だった。

 特に、あの粗悪品魔導具に関して。公爵邸内部で発動防止対策の結界が張られていたのに、正常起動していたのである。現在それが、問題となっている。

 また、対応できていなかった護衛騎士や兵士についても厳重注意を受け、現在再教育中。情状酌量の余地はあるが、不法侵入者が魔導具を起動する前に捕まえられなかったことが問題となったのである。


 現在不法侵入防止用の結界は張り直され、魔導具発動防止結界はカル先生が改善した。これで一応、ここも安全になった。


 また、お母様曰く、室内へは侵入者がいなかったので、被害は屋敷内でなおこらなかったとのこと。屋敷はより厳重な結界魔法が使用建材と建築技術で張られているので侵入できなかったのである。

(むしろ、今まで暗殺者がポンポン侵入できたことが異常だったという)



 ここで、お母様が爆弾投下した。



「ルル、しばらく外出禁止にしましたわ」



 メルトキア人に関して、わかりにくかったでしょうか。

 容姿・特徴は完全別物ですが、この異世界ではエルフみたいな感じですかね(妖精・魔法要素)

 尚、初期の脱走は非常に危険な行為でした。拐われなかったのは賢者と妖精が注目していたからという(主に処分目的で)


 それにしても最近、公衆衛生進んでいない org

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