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23 前世夫/鍛錬/侵入者

 またギリギリの投稿なので、誤字脱字あるかもしれないです。




 黙り込んだ2人に対してフンと顔を背けたところで、ロドスの「ご歓談中失礼致します」という声が聞こえた。いいタイミングである。



「お客様のお部屋が整いましたので、報告に上がりました」


「……そうか、案内して差し上げろ」



 溜息混じりにお父様がそう告げると、カル先生へ誘導するように声をかけた。カル先生は頷いてロドスの後をついて行こうとしたので、私も便乗することにした。



「それでは私も下がりますわね」



 綺麗にコーテシィを決め、お父様の何か言いたげな眼差しは無視した。

 そして、少し待っていてくれたカル先生の後を追った。



 お父様には申し訳ないが、賢者にならないことが私にとっては無理である。

 だって、仮にならなければこのまま第三王子(悪臭)の嫁になってしまう可能性が高いからである。だが私としては、生理的にも心情的にもあの王子(悪臭)は受け付けない。


 なのに、条件としては良い。良過ぎるのである。


 賢者教育の一環として知った王家と公爵家の事情から、王家としては私の婿として直系の王族男児を入れたいことがわかっている。そして第三王子はほぼ同い年。

 更に追い討ちをかける様に、私と王子以外の同世代はほぼ男児。貴族女子は微妙に年齢が上下してしまう。


 こうした中、王家からの打診を断るならばそれ相応の理由が必要になる……そう、『賢者』になる等。


 後、何度も言うが、『公衆衛生活動』という大きな公共事業を行うのであれば、公爵令嬢という立場では難しい。誰にも邪魔されずに成し得るには賢者になる他ない。



 ……それに、賢者になれば夫を探しに行ける。


 賢者の権限には、結婚を縛られない、技術提供に応じて研究費・生活費の給付がある他、国内ならどこでも出入・滞在が許される。領外へ出る時に関所を通過することが不要になるのである。


 そう、賢者とは、国内に限定すれば唯一『領内法』に捕らわれない、ある意味では最も自由な存在なのである。


 でも初めからそうだったわけではない。

 これは、賢者モードのおかげである。


 賢者モードは過去、『ワームホール』の術式に関して王家へ一部技術提供を行った。一般公開しないことを約束し、王家はその技術を使った。


 他貴族領への『道』として。


 馬車道の途中で貴族専用の『道』としてセットすることで、王宮と貴族領の距離を縮めたのである。攻め込まれない様王家がいつでも『道』をブロックできるようにした上で。


 ただ、技術的な限界で多用はできないことがわかっている。魔力を一気に使うからである。故に、この道は緊急用となっている。


 私が悪臭(王子)で体調を崩した際に公爵邸へその日中に帰宅できたのも、この術式のおかげだったというわけだ(閑話休題)。



 さて、私が賢者になることで成し得なければならないこと……それは、前世の夫を探すことである。だって、あの人なら絶対いるだろうし。


 彼は私の約束は絶対に守った。

 斜め下を行くこともあるが、必ず守ってくれていた。


 だから、彼はここに来る。

 死んでも追いかけると言っていたのだから、必ずこの世界のどこかにくるだろう。しかも、かなり近くにいること、再び結婚可能な位置にいることが予想される。

 仮に違っても、必ず這い上がってくることだろう。


 あの人はそういう人だ。

 もう何年も一緒にいたのだから、夫婦だから何となくわかる。


 そして、彼が見つかった時に王子と婚約なんてしていたものなら……恐ろしい。一体何をやらかすか。問答無用で王子を殺すことはないにせよ、もっと酷いことをしそうだ。

 前世で私のストーカーを勤務先の会社諸共潰した実績がある。下手すれば国を滅ぼすか、それに準ずる被害をもたらすかもしれない。


 そうなれば、私の望む『公衆衛生活動』が進まず、文明は遅れ、より酷い原始的な生活へ戻る結果になるかもしれない。



 だから、どのみち言動と婚姻の自由がある程度保障された賢者を目指す他ないのであった。


 親不孝で申し訳ない気持ちもあるが、私は私に可能な範囲内で自由に生きる。そのために、貴族令嬢にあるまじき反抗をお父様に対してすることになるだろう。結果次第では、悲しませてしまうかもしれない。

 だけど、国という籠に繋がれてでも成し得ねばならない。




*〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜*




 カル先生は部屋へ案内されると、早速課題の進歩状況を確認することにしたらしい。


 ポーチに収納しておいた課題を取り出し、採点を始めた。黙って見ていたら、「採点中は部屋に入るな、バカタレ」と注意され、外へ出されてしまった。



「……」



 なので、暇になってしまった。


 私が行ける場所、う〜ん……今調理場、というか料理長の所へ行っても邪魔になるだけだし、どうしよう。図書館? お父様の執務室と近いので、ちょっと行く気にならない。



 …………よし、訓練場行こう。




 そうして向かったのは、『森林討伐隊』の騎士・兵士の訓練施設。

 中でも、魔法や弓矢を練習する的のある場所である。



「お願い致します」



 受付に座る施設管理者のアルドへ手形を出すと、「はいよ」と受け取ってくれた。そして、ニッと浮かべる笑み。


 その笑顔は今日も曇りなく、充実した毎日だと教えてくれる様で安堵する。


 元軍人らしく体格が良いが、右腕に義肢をはめている関係で剣を振るうことはできないアルド。私が3歳の頃、夜間の護衛としての責務を全うして片腕を失ったのである。暗殺者の毒で一瞬にして腐り落ちたそうだ。

 当時は護衛の顔が変わったくらいにしか覚えていなかったものの、相手は私を覚えており、可愛がってくれている。普通なら恨んでもいいのに。


 でもきっと、これもお父様の福利厚生のおかげかもしれない。


 病や怪我で退役した若者の雇用として、この場所の整備と受付をお父様が任せているのである。だから、アルド以外にもここには物理的に騎士や兵士を続けられない人々が沢山働いている。



「ルルお嬢、今日も訓練ですかい?」



 頭を緩く撫でながら尋ねてきたアルド。ゴツゴツとした軍人の手は、彼が未だ武器の訓練を続けていることを物語っている。多分生涯現役で、この場所を『受付』として守る気概なのかもしれない。

 あるいは、兵士への復活を諦めていない噂が事実だってことも……前例がないわけではないので、ありえないことはないかも?



「? 何か辛いことでもあったんで?」



 ちょっと考え込んでいたら、心配そうな顔をされてしまった。



「いいえ! 魔術の訓練に参りましたの、夕食前の刻には終えますわ」



 明るく答えると、安心した表情で頷いたアルド。その目はなんだか、孫娘を見る様な穏やかな目だった。



「了解です、手続き終わったんでどうぞ」


「ふふ、頑張りますわ!」



 体内の魔力は万端。操作性も良好。


 よし、今日も基礎となる『元素魔術』で鉄作って戻す鍛錬から始めましょうか。目指すは発動時間0.1秒台。


 免許皆伝の出ている魔術に関しては、ちゃんとした鍛錬場では鍛錬して良いとカル先生から許可を得ている。なので、今までも結構こうしてちょこちょこ鍛錬はしてきた。

 未だ先生みたいに早く発動できないのがなんとも……私は未だ3秒発動にかかってしまう。


 ゆくゆくは、先生みたいに呼吸するかの様に魔術を扱いたいものである。



「お嬢、今日も精が出ますなぁ……俺も頑張らねば」



 そう呟きこっそり剣術練習に励むアルドに、私は気付かないふりをした。






 そうしてしばらく訓練をしていると、アルドの焦る様な声が聞こえた。



「だ、だからこの先は……」

「おい、通さないのか! 無礼者が」


「ですから、困りm……っ!?」

「お、俺は悪くない!」



 鍛錬で生成した鉄を素早く消し去り、受付の方を見ると、そこには気色の悪い貴族らしき物体がいた。


 全体的に肥満体型で、油が浮いているのか頭がテカっており、そして、顔も控えめに言ってエイリ○ンだった。

 服装は品性のかけらもなく、大き目な宝石をいくつも身につけていた。統一性もなく宝石をつけるとか、一体どんなセンスをしているのか。

 最初カル先生の変装かと思ったら、残念ながら違うこと側張っている……それにしては酷い外見だ。


 それに、酷い悪臭……刺激臭。


 ラム肉を腐らせてから硫黄をぶっかけ、その上からどぎついアルコールと未確認物体を振りかけたみたいな匂いがする。それにしてもきつい香水で隠せないこの体臭、これはひどい。マジモンにひどい。

 さては、風呂とか入っていないな。もしや、生まれてから一度も入っていないのかも?


 王子(悪臭)ほどではないが、目眩を起こしかける悪臭。久々酷い目にあった。


 慌てて鍛錬用に切っていた空気清浄フィルター術式を発動させたのは、言うまでもない。


 そこでようやく余裕が生まれ、アルドが心配になった。今も床に倒され、成金主義的な痛々しいステッキで押さえつけられているアルド。怪我をしていないか心配で近づこうとした。

 だが、その前に目線で制された。


 首を振って必死に何かを伝えようと……ああなるほど「隠れろ」が正解?


 柱の影に隠れると、安堵した様子のアルド。キリッと○イリアンの顔を睨み付けた。



「ここは部外者立ち入り禁止です、今すぐ出て行ってください」



 だが男はブツブツと何かをつぶやき、アルドを抑えながらキョロキョロ周囲を見回していた。見つからないかヒヤヒヤしつつ、息を殺し、柱の陰から様子を伺った。



「ここではないのか……もう少し見て回ろう」



 ドスドスと音を立てて去っていくエイ○アン……いや、プレ○ター。


 客? いや、違うだろうな。

 けれど、ここにどうやって一体入ってきたのか。


 魔導具か、魔法か。はたまたアングラ組織の誰かにスキルを使わせたか。

 色々予想はつくが、どれも違う様な気がする。


 どちらにせよ、用心せねば。


 口パクで、もうしばらく隠れていてと伝えてきたアルドへ頷き、1時間くらいはそのまま様子を伺うことにした。


 それにしてもカル先生が来たばかりだったのに……先生も何か察して(あっ)そういえば賢者モードは隠された存在だったから、あんまりおおっぴらに行動できないのか。


 それに、ここはイスカリオテ公爵家。

 『裏切り』と悪名高いこの家にいる姿を王家へ報告されようものなら大きな隙になってしまう。なるほど、どのみち動けないか。


 お父様は……う〜ん、もしかしたら落ち込んで、結界の性能が落ちたか?

 とりあえず、侵入者がいることをどうにか伝えない[おい、こいつ僕がやっちゃっていい?]



 ここで、予想外にジャックが登場した。



 尚、アルドが右腕失ったのは活動報告小話に出てきた刺客襲撃(お父様撃退済み)の夜でした。

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