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22 論争

 読者の皆様、なんとか間に合いました。

 誤字脱字報告ありがとうございます!




 お母様退散直後、マダオ2人にかけられていた束縛はあっさり外れた。どちらにも痕ができており、特に賢者の口元周辺が赤くなっていた。

 そして、顔を見合わせてにらみ合う2人。また喧嘩になる前に……



「お父様、私に話しがあるのでしたよね?」

(意訳:早く話せよ。)


 無理に作った笑顔で催促してみた。

 そんな私の態度にちょっと落ち込んだ様子お父様。にやけ顏の賢者を一睨し、咳払いを一つしてから話し出した。



「ルルーティア、私が話したかったことは今後のことだ。特に、賢者になった後、『賢者』を名乗ることについて」



 真剣な表情で話すお父様。



「……いや、その前に一つ。ルルは、本当に『賢者』になることを望むか?」



 今更な質問をしてきたお父様。突然どうした。

 何か言いたげな表情で私を見つめているが、一体何が言いたいのか。



「ええ、望みますわ」



 間をあまり置かずに即答すると、何度も食い下がるように尋ねてきた。これでは多分、お父様の望む答えが得られねば問答が止まることはないだろう。


 でも、答えは同じ。

 ため息を吐かれても、何としてでも私は『賢者』を目指す。


 質問するまでもなく、わかっているだろうに……にしても、なぜこうも必死なのか。


 私が賢者になることで、お父様か私、あるいは公爵家に何らかの不都合があるのか。

 それとも全く別の事情なのか。


 兎に角、お父様は私が賢者になることへ反対だということは、十分理解した。


 10回目くらいの問答で食い下がるお父様を睨み、黙らせ、「私の意志は変わりません」とはっきり答えた。


 その対応で到頭言葉を詰まらせ悩んだ様子のお父様。

 落ち込むようにがっくりと項垂れているが、どう反応したらいいのか困ってしまう。多分ここで賢者になるのを諦めればお父様的にはいいのかもしれないが。


 その様子を呆れたように見ていた賢者がようやく、口を開いた。



「いいか、ルル? 『賢者』になるってことは、王国に属すって意味合いが出てくる。ここまではいいな?」



 頷く。そらそうだ、と。


 そも、『賢者』という存在は国家認定資格に近いものである。なるのには一定の条件と修行が必要であり、師と国王から認定を受けることになっている。

 国王から認定されるのだから、そら、国に属するのは当たり前だろう。


 それに、国へ所属することで他国や教会から守ってもらうのだから。


 非国属の『はぐれ賢者』にでもなれば、悲惨な運命が待ち受けている。

 真っ先に教会から狙われることは明白として、元所属国が黙っていない。野垂死ぬのならばまだいい方かもしれない。拉致監禁からの強制労働から種馬や母体コースまで、悪い方の想像ならいくらでもつく。

 それに、国内で狙われる方がまだ、敵が明白だから対処の仕様があるというものである。


 考え込んでいた私が顔を上げると、賢者は続けた。



「つまりだな、一生この国から出られないってことだ。こいつはなぁ、そのことを気にしているンだよ……6歳の若さで国から枷をつけられるっていうことに引っかかっているみたいだ」



 呆れ顔の賢者に言われ、お父様の方を向くと頷いていた。


 なるほど……まあ確かにそれは一理ある。

 将来(かどうか知らないが)、悪役令嬢として殺される段になった時、命大事に国外逃亡する選択肢を残しておくことも大事なのかもしれない。


 元より魔法を使える貴族の血筋というだけで、他国は受け入れてくれる。王子(悪臭)やヒロイン(推定花畑)の湧かない国へ亡命すれば確かに、今の私でも十分どこでも生きていけるだろう。


 一方、下手に賢者やっていると逃げることはできない。

 『賢者』というスキルが枷になるからである。


 これは賢者修行でも言われたことである。

 王国から許可なく出国すると、『賢者』は爆散する、と(妖精郷は例外)。若い頃のカル先生の検証結果メモでは、爆散寸前までいっていたと記されていた。


 曰く、賢者という立場に付随する権力や、独自の叡智・技術。これらを外国の、敵国へと流出しないようにするための対策とのこと。


 賢者は技術提供を強制されないし、表立って迫害も受けない。けれど、他国への技術漏洩等は厳禁とされていた。

 貴族義務の免除される『賢者』もまた、完全に自由ではないのである。国王だって自由に国外にでられないのだから、同等の権利を持つ賢者も出られないということである。


 考えがまとまったところで、口を開いた。



「それを懸念しているのですね……けれど、承知の上で私はこの道を選んだのですわよ?」



 そう、私にとっては本当に今更な話しなのである。

 そういう枷を覚悟で今、『賢者』を目指しているのだから。全ては1人の文明人を自称する者として、私周囲を含んだ人々と『健康で文化的な最低限度の生活』を営むために。

 大体、そういう枷の不便はなってみなければわからないもの。最悪不便を感じたならば枷を引きちぎる方法を考えればいい(雑)


 それに、である。



「お父様、確か貴族も自国を勝手に離れることはできないはずですわ。ならば、今と賢者になることで、何が一体変わるというのです?」


「いや、だが……」



 返事をしないお父様を見上げると、眉間に皺を寄せていた。

 けれど、気にせず続けた。



「賢者という権利を手に入れることで、私には大きなメリットしかありませんわよ? 元より国を出る予定などないのですから」



 だって、現状だと私しかイスカリオテ公爵領(ここ)の後継者いないのである。どういうわけか王家からの婚約の打診は未だ消えないし。

 そして、王子等男児が婿入りすれば、私に与えられた政治的な権限の多くが剥奪される可能性が出てくる。結局女子供の言葉を真面目に取り合ってくれる男性は、ここでは少ないのである。


 そんな状況で自ら衛生事業を行いたいならば、それが可能な社会的地位を今すぐにでも入手する他ない。




「…………」



 無言のお父様。ニヤニヤと笑う賢者。

 お父様の肩をポンと叩いた賢者は、こう続けた。



「だから言っただろう? 諦めさせるのは現状無理だって」



 お父様は項垂れ、再び深い溜息を吐いて、そして顔を上げた。



「ならば、次は表立って『賢者』を名乗るかどうか。それを話し合いたい」



 ……むしろ、そのために私は1ヶ月家を離れて賢者修行に勤しんだのだが。そう思ったのが顔に出たのか、お父様は頷いて続けた。



「『賢者』を名乗ると教会に狙われるのは明白として、他にも大きなデメリットが幾つかある。」



 そこのいい加減な賢者はサラッと流したらしい。


 そう吐き捨てる様に言うと、ジト目で賢者を一睨したお父様。



「私が知る限りだと①爆散する枷持ちになること、②妖精郷保持に力の一部を常に割かれること、そして、③『魔』への対抗策としての戦力にされること、この3つか。特に③が私は今から心配だ」



 お父様の語った内容は確かに一部省略されていた。けれど、賢者教育の世界史で確かそんな話はでていたはず。

 だから、賢者としてはもう一度同じとを説明する時間を省略したのだろうと予想した。



 ①に関しては、さっきの説明の通り。国外逃亡以外にも、著しく国益を損なう行為(例えば実験での大失敗で王都が吹っ飛ぶ等)が起きれば枷は発動する。『賢者』の認定を国王から受け、公へ発表した日からこの枷は発動する様にできているそうだ。


 尚、『国益損害』に関する判断基準は国王ではなく『枷』の魔法自体。即ち、初代賢者の創造した『賢者』というスキルを付与する魔法にあるそうだ。


 この枷はある種抑止力なのだろう。

 多分だが、『賢者』というある種未知で強力な存在は中々受け入れられなかったのだろう。そして、敢えてハンデを付けることで受け入れられたのかもしれない。


 そしてお父様としては、枷が発動しない様に公表を避けさせよとしているといったところか。



 ②に関しては、説明がなくとも元より予想できたことである。だって、妖精郷は賢者と妖精王が創造したのだから、維持だってその2人がやっていてもおかしくはないだろう。


 こちらも枷同様、公表と同時に発動するらしい(妖精王が多分術式を弄った? と思われる)


 どの程度リソースを持っていかれるのかは不明だが、現国内唯一の賢者モードはピンピンしている。その状態で最強種たるドラゴンを片手でねじ伏せられていた。

 だから、魔力の量と質は賢者モードより上な私が苦しむ可能性は限りなく低いことが予想される。


 それに、なんだかんだ私をサポートしてくれる3人の妖精と契約できた理由は多分、妖精郷維持が理由なのだと思われる。

 悪戯さえ目をつぶれば有能であり、一番の理解者(特にジャック)である彼ら。仮に賢者をやめるならば彼らとはお別れとなる。そして、今更彼らと別れるなんてことは私にとって無理な話だ。



 最後に③。多分賢者がここに来るのが遅れた理由。


 これに関しては男性の貴族義務も同じ義務を持っており、貴族女性は原則として免除されている義務の1つである。

 ただ、賢者認定受け、公表した場合は例外として私も参加することになるだろう。


 まあどの道イスカリオテ公爵領を継ぐならば、女性であってもこの義務は避けられなかったので気にしていない。



 ……嘘。実は内心びびってはいた。

 だって、前世自力で殺せたのって蚊や蠅がせいぜいで、動物等殺すことができるか今から不安なのである(ゴキブリは夫が潰してくれた、あれは無理だった)。


 それに、森の一件もある。

 あんな危険でグロテスクな魔物や魔獣だっている。しかもそれだけでなく、濃厚な殺意をこちらへ向けてくるのだろうと、予想される。


 そんな中で、まともに現代っ子の私が戦えるのか。



 こればかりは前世チートの代償と思うしかない。

 せめて、屠殺くらいは(見学でも良いので)経験していれば違ったのだろうけど。中々機会に恵まれなかったし、あったとしても参戦していたかどうか……スプラッタホラー系が苦手だったのだから、こればかりは仕方がない。


 まあ、カル先生には「慣れること、以上」と言われたので慣れるしかない。殺らねば殺られるだけなので、立ち止まるなと言われた。


 一応今考えているのは、電撃を使うこと。せめて神経焼き切っておけば血も殺意も向けられずに済むかなと考えた。

 それに、最悪スタンガンみたいに気絶させられれば危なげなく危険部位の切除(素材剥ぎ取り)ができるだろう。危険個体の選択的排除(要は間引き)だって可能なので、魔物や魔獣を家畜化できる可能性だってある。


 問題なのは、自分が感電する可能性があること。特に雷撃ともなれば、場所の指定が難しい。

 よくある『上手く地面と雲中の(+/-)を〜』というのは、予想以上現実として厳しかったのである。稲光り一つ発生させるのに、地形とか雲の高さとか、風向きとか……etc. まあ実に様々な条件を科学する必要があった。

 それを術式として描くのは、相当な困難が伴った。今もまだ理論上、雲が発生している場所でしか稲妻起こせない状況。到底戦闘中には使えまい。


 というか私も賢者から基礎を学ばなければ天候を科学すること自体無理だっただろうし……ごめん、嘘。今もあんまり上手く理解出来ていない。



 そういう事情で、お父様へ即答は出来なかった。どころか、一瞬同意しかけた上で黙って考え込んでしまった。

 だから、初動が遅れてしまった。



「なあ、表向き賢者を名乗るのは実力がついてからでもいいのではないか? もう少しだけ、子供の時間を生きたほうが私としては嬉しいのだが」


「ま、賢者修行の進行と関係ないし、公表は成人後でもいいかも知れんな……むしろ今までが、少し急かせすぎたか?」



 だから、お父様に真っ当な発言をされた上で、賢者にまで同意されてしまった。

 しかも賢者はタチが悪い。私の事情を知った上でこう、『賢者』となることをわざと止めようとしているのだから。


 今も困惑顔の私をニヤニヤ笑っている。

 そんな顔をしていると、私もちょっとやり返したくなった。



「それでは困るのです……ええ、とっても困るのですよ」



 一旦言葉を切る。



「だって私、賢者になって達成することがあるのです……意地悪なお父様と賢者様には教えませんけれどね」

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