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21 労働環境/喧嘩

 読者の皆様、何故か投稿後にアップされないトラブルがあったので一度消してもう一度掲載しました。読書中もしかしたら消えるトラブルがあったかもしれないです。ご不便おかけした方々、大変申し訳ないです。

 尚、内容は変えていません。



 部屋の片付けが(ほぼベラドンナ先生1人で)終わると、急いでお父様の執務室へと向かった。後始末に少々時間を取られたので待たせてしまったかもしれない。


 執務室前に立っていたお父様の護衛トールが頷くと、部屋の扉を控えめにノックしてから開けた。執事サルマンが出迎え「どうぞこちらへ」と、お父様たちがいると思しき場所へと誘導された。


 中に入ると、温かみのあるインテリア……の前に慌ただしさが目に入った。



 ちらりと見えた資料の山と必死に格闘する文官たち。


 皆目が血走っており、隈も黒い。

 青白い顔でブツブツ「予算が」とか「期日が」とか「間に合わない」などと呟きながらも忙しなく羽ペンを走らせている様は、一層病的だった。


 そして「終わった!!」と誰かが勢い良く立ったと同時にガチャンと何かが割れた音がした。シーンと凍りつく空気。

 悲鳴と怒号が飛び交い、資料の山が雪崩を次々起こした。そして、割れたインク壺から流れ出た黒い液体へ浸ってあっという間に染まった。


 私はただ唖然と、その様見るしかできなかった。


 オロオロ見ていると、ふと視界に入ったワナワナ震える肩。見れば、執事サルマンが眉を顰め、苛立っていた。

 私の視線に気がついた彼は、「失礼します」の一言後、現場へカツカツカツと近付いていった。


 そして、ダンッと勢い良く足音を鳴らした。ものすごい音へ、一瞬動きを止めた文官たち。

 その音で、ようやく我々の存在に気がついた様だ。



「お嬢様の御前で何を騒いでいる。速やかに執務に戻りなさい」



 多分疲れすぎて、サルマンの声が届いていないのか。

 息も絶え絶えな彼らは、私のことをぼんやりと眺めていた。


 あまりにも動かない文官へ、再度ダンッと足を鳴らし催促するサルマン。

 それに気がついた文官たちは、彼の鋭い一瞥へビクリと肩を震わせ、怯えた表情で頭を下げた。



 サルマンは使用人をしているが、準男爵家の当主。

 領地は持たないので『フォン』を名に持たないものの、れっきとした貴族である。


 対する彼らの殆どは貴族家の三男以下(ミソッカス)

 しかも悪名高きイスカリオテ公爵家しか就職先がなかったか、我が家に大恩があるか。どっちにしろ、平民である。


 だから、彼らは逆らえない。


 誰一人口答え出来ずヨロヨロ仕事へ戻る他なかったのである。それ例え、「お嬢様の御前だから」という理不尽な理由で怒鳴られたのだとしても。


 暫くして、誰かの「はは、やり直しだ……今日も徹夜かぁ」という悲しみに溢れた溜息が聞こえた気がした。



 そうか、公爵家(ここ)ってブラックだったのか……まあ薄々気がついていたけれども。そも、小国規模もある領地を、分割することを許さずに1人に任せること自体、無理があった。


 そして、そのしわ寄せが全部文官に来ていたと。


 私の目線に気がついたサルマンは「ああ……いつもの光景ですよ」と軽くスルーしたが、脳裏に『労働基準法』という言葉が浮かんだ私は結構内心取り乱していた。


 同時に、地球史上で発生した労働者の謀反等が脳裏を駆け巡った。

 うう……仏革命、投獄、処刑。


 まさかここなのか。私が将来悪役令嬢となって家が没落した原因の一端って。


 でもありえないわけが無い。というか、十分あり得るだろう。

 だって、貴族家が没落するのは大体『内部告発』なのだから。


 でもそうか。


 衛生事業に関して『労働環境の衛生』についても同時並行で(というか早急に)行う必要があるかもしれない。それでなくても今やっていることで多忙なのにどうしよう。


 いや、今気付けて良かったと思っておこう……縛り首か毒煽る段で気付くより充分まし。

 とりあえず腹案は後日考えるとして、睡眠時間くらいはちゃんと確保できるようにせねば。




 さて、お父様の執務室は広い。


 1国程の領地を統治している分、使う人材と資料の多い。故に、隣室を複数潰し、部屋兼資料室となった。

 そして、多忙を極めるお父様は合理主義を徹底され……ついにサロン室と訓練施設まで執務室へと付属させた。


 まさに、部屋の中に部屋がたくさんある状態である。一体どこを目指しているのか。


 ……まあ理由に関しては他にも、暗殺者が多い我が家の安全性確保もあったので仕方がなかったのだろう。屋敷移動中襲撃を受けたので、それを防止するためだとか。

 屋敷の中まで襲撃受けるって……それだ恨まれているということなので、私も注意するべきなのだろうか。


 とは言え、社交で機密情報の多いこの場はさすがに使わないそうだ。だから、ここのサロン入れるのは、余程親しい間柄に限定されている。


 親しい間柄……そう、取っ組み合いの喧嘩を出来る程度に。



「貴様、私の娘ルルへそんな大変なことをさせやがったのか!!」

「それで上手くいったからいいだろうが、この親馬鹿!!」



 お父様が豪華な椅子を持ち上げ、机で応戦する賢者。


 信じられないが、これが1国レベルの領地を治める貴族と、妖精界というある意味『異界』との外交を担っている貴族なのである。


 貴族の喧嘩は基本は言論だと思うのだが、言論さん息していません。

 これぞ世も末、という言葉が一瞬脳裏に浮かんだ。



「…………」



 どうしよう。

 というか、どうしてこうなった。


 サルマンへ視線をやると、首を振ってきたので仲裁は無理っと……それ以前に何故こうなったのかも分からないか流石に。


 護衛は(執務室では邪魔だとお父様が)外しているが、どこかに影の護衛役が潜んで……普通に立ったまま途方に暮れていた。本来なら潜んでいないといけない存在だが、この場合は仕方が無い。


 でも困った。

 この分じゃ事情を聞こうと思ったけれど無理そうか。


 まあ予想はつくけれど……どうせお父様が賢者へ修行内容聞いてキレた感じか。断片的な暴言から予想するに、そうとしか思えない。


 そして影君(仮)に関しては、多分突然取っ組み合いの喧嘩を始め、お父様である公爵の護衛を影でしている以上出ざるを得ず、かといって絶対強者である『賢者』へ下手の攻撃もできず、絶賛混乱中といったところか。


 オロオロすがる様な目つきをするお父様の影。黙って首を振ると、ガックリと落ち込んだ。ご期待に沿えず申し訳ないが、仕方が無い。

 6歳児に大の大人の喧嘩を仲裁することは、無理通り越して無謀なのである。


 なので、私の力で実現可能なことをした。



「サルマン………………申し訳ないけれど、お母様を呼んでもらえないかしら」


「…………………………………………かしこまりました」



 躊躇う様に答えるサルマン。


 わかる、わかるよその気持ち。だって私でさえ、サルマンへ頼む直後躊躇したのだから。


 行ったのは、伝家の宝刀『丸投げ』。

 だって私には無理なのだし。


 それにしても最終兵器『お母様』の投入は流石にやりすぎだったかもしれないが。



 サルマンが外している間も喧嘩は続く。



「私の(可愛い)ルルちゃんに近づくな!! 暴力変態賢者」


「お前のじゃないし、修行なんだから仕方がないだろう! って変態は完全言いがかりじゃねえか!!」


「……う、うるさい! 領地に帰れ!」


「子供か!!」



 バキン、ギャリギャリギャリと擦れ合う、椅子と机。どちらもサロンで使用されている高級品である。何度も打ち付けている割に壊れないのは、片や魔法、片や魔術で『強化』しているからだろう。

 明らかに規格外な家具の使い方。全国の家具職人がこれ見たら泣くだろう。


 そんな、無駄に高等な魔法・魔術を使いながら喧嘩を続けるハイスペックマダオコンビ。壊れないからって好き勝手やっている大人気ない大人へ、思わず溜息が漏れた。


 頭が痛い。胃が痛い。

 というか、胃の痛みが尋常ではない……これは胃潰瘍できているかもしれない。



 暫く、荒い息を繰り返しながらバトル(物理)を繰り広げる2人。仕舞いにはものでも投げそうな勢いだな。


 私は巻き込まれないためこっそり結界を張り、部屋の隅っこ、扉付近へ移動した。

 賢者あたりは気が付いていそうだが、何故か無視したまま勝負は続けたれていた。


 どうせなら訓練場でやればいいのに……何のために作ったのか。


 溜息を漏らすと、足音が2人分近付いてきているのが聞こえた。部外者がいるので無理かと思ったが、無事お母様を呼ぶことはできた様だ。よかった。


 サロンの扉が開いた。



 サルマンの後ろには、にこやかな貴婦人が1人。


 緩やかに結われた淡い金髪。その色味と相まって儚い印象を受ける細身。けれど、凸凹の起伏は一層しっかり出ていた。


 鼻筋の通った整った顔には、桜色の唇に優しく細められた緋色の眼。今にも消えてしまいそうな夕日の一筋を、まるで切り取ったかの様な色である。


 私も同じ金髪緋眼なのに、お母様の場合は見る人へ何故こうも儚気な印象を与えるのか。永遠の謎である。

 そんなお母様はだが、その印象と裏腹にかなり強烈な気質を持っている。



「あらあら……これは確かに私でなければ難しいですわね」



 一瞬お父様の様子へ絶句するも、一瞬で笑みが深まり、そして真顔になった。

 やばい、相当怒っていらっしゃる。



「……サルマン、『アレ』を大至急持ってきて頂戴」

「か、かしこまりました奥様!!」



 起き上がり小法師の様に俊敏な一礼をしたサルマンは、普段では考えられない速度で歩いて行った。真っ青だったので、相当怖かったのだろう。


 そして、その怖いお母様は私へ今度は向いた。

 思わずビクッと肩を揺らす。


 そんな私へ苦笑したお母様。



「ルル、そう怯えずとも大丈夫よ? 私今回はよくやったとむしろ褒めたいくらいなのですから」



 でもそれも、コレの処理が終わった後かしら。

 そう呟きながら、サルマンの持ってきた植木鉢の植物へ指を走らせたお母様。ワナワナと蠢めく植物。メキッと植木鉢の軋む音が聞こえ、一気に成長し出した。


 まるで生き物の様にしなった。

 この段になってようやくこちらへ気が付いたお父様。だが遅い。


 縄を何本も出す様に急成長した直後、抵抗を一切許さず暴れる2人を捕縛した。



 さっきまで怒っていたのが見る影もなく、顔面蒼白で情けない表情をしたお父様。「フィオナ……」と呻き声を上げるも、却って機嫌を損ねたお母様によってよりきつく締め上げられた。


 一方、最初から気が付いていた賢者。

 しきりに「俺は絡まれただけで悪くない、全部こいつのせいだ」とピーピー主張していたが、問答無用で口元を覆う様に縛り上げられていた。空気穴もちゃんと確保しているのかヒューヒューと呼吸音が聞こえた。



「言い訳とはまた、見苦しいわね……方や娘を呼びつけて放置、方や気付いていたくせに煽ったと、私知っておりましてよ?」



 あっという間の出来事に唖然としていると、お母様のクスリとした笑が聞こえた。



「では、私は戻りますわね。後をお任せします……ああでもヨハン、夕餉の後時間を下さるわよね?」



 顔面蒼白で首を振るお父様を無視して、サルマンの「責任を持って作らせます」という言葉で頷いたお母様。迎えにきていた侍女に連れられ、去って行った。


 ブクマ等ありがとうございます!


 余談ですが、タグに『NAISEI』入れたほうがいいでしょうかと今ちょっと悩んでいます。

 後、活動報告に小話入れたので、そちらも是非是非!

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