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14 公爵家、衛生啓蒙の経過について



「おはようございます、お茶をお持ちしましたお嬢様」

「ごきげんようマリアン。早速欲しいわ」



 公爵家に戻り早1ヶ月と少し。

 ようやく芳しい紅茶の香りを楽しめる平穏な朝。マリアンも前ほど臭くなくなり、紅茶の味も大分改善されたのである。


 謹慎が解けた現在、当初予定していたこと貴族教育、賢者教育、視察を順次、遂行していった。

 やることは多く、大変充実した日々である。ルカに秘書の真似事を頼み、朝夕と予定を確認している。また、1週間で『貴族:賢者:視察=3:5:2』になるようスケジュール調整をして時間割を組んだ。

 これでも視察等どうしても予定通りにいかない。全ては移動手段が徒歩か馬車に限定されていることと、時計がないことが原因と思われる。取り敢えず、電車やバスの遅延を日々嘆いていた前世の自分に少しだけ反省した。

 何とももどかしいが、致し方ない。今後予定している衛生事業の構想では道路舗装整備を入れているので、改善はされると思う。


 使用人への衛生啓蒙活動は順調。

 マリアン、ティナ、ルカの『浄化』検証実験は継続中で、アンケートで3人とも以前より快適だと答えていた。徐々に悪臭を認識してきていることから、影響評価(経過評価)においては花丸付けてもいいかと思った。

 更に、嬉しいことに彼らを真似する使用人も徐々に増えてきていた。体臭と香水強めの使用人が少し減ってくれたので、大分息が楽になった。


 また、公爵邸の井戸水が以前よりマシになった。

 私の居なかった1ヶ月で改装工事を行っていた。曰く、結構危うい状況だったとのこと。

 何と、細菌類が魔粒子に当てられて魔物(スライム)化していたのである。

 明らかに危険な箇所は現在無期限で封鎖している。冒険者(専門業者)に処理を頼むとお父様は話していた。

 このことで、筆頭庭師は減給処分となった。彼は大いに責任を感じており、以後こういう事態にならないよう水周りの管理体制を見直すらしい。

 お父様には念のため、マニュアル化することを勧めておいた(賢者の名前を出して)

 現在井戸水の状態は、酸っぱさ(雑菌臭)が大分改善された。一方で、金属臭は相変わらずするので何かしら溶けているのだろう。本音では早期改善を推進したいが、魔物発生のスキャンダル後に指摘するのは時期尚早な気がした。

 溶け出ているのが重金属で無いことを祈っておこう。


 次の目標は、調理部屋の衛生環境改善。

 取り敢えず料理人に手洗いと靴変えを義務付けることから始めようと思う(調理場へのうん○持ち込み禁止)。安全に食事を楽しめる日を目指したい。


 以上より、自宅周囲の衛生改善は予想以上に順調であった。



 また、貴族教育はベラドンナ先生のお陰で公爵令嬢として年相応な振る舞いができていた。イスカリオテ公爵家の家庭教師であるサリバン夫人からはお墨付きを貰い、現在中級-上級編を学んでいる。

 近々王宮のお茶会へ参加するので、気合が入っている模様。


 そう、茶会……例の、1ヶ月後から4-5ヶ月程度へ延期となった王宮の茶会である(お父様が王家相手に粘った結果延期した)

 あの第三王子(悪臭)との茶会が近付いてきているのである。


 この1ヶ月でなんとか(心の)準備はした。けれど、今からでも相手が断ってくれないかと、割と本気で願っている。


 特に王宮は魔法使用制限の結界が張られているので、『空気清浄』も『浄化』も使えないので厳しい。


 またあの悪臭に晒されると思うと今から憂鬱である(死に掛けたトラウマ)想像するだけで意識飛びそうになる。あれは、顔中央から凹みそうな程酷い悪臭なのである。


 最近そういえば枕元に長髪が絡まっているのを見かけたが、円形脱毛症の初期症状だろうか。鏡見ても明らかに前より薄くなってきている気がした。

 後、意識すると胃もキリキリと痛むし、息も最近少し酸っぱい気がしていた。


 ……いや、わかっている。茶会の件が酷いストレスになっているのだろう。

 食欲も少し落ちてきたとそういえば料理長とお父様から心配されていた。


 断ってもいいと言ってくれたが、お父様とお母様の(実は地味に)微妙な立場を考えれば何としてでも行かねばならない。イスカリオテ公爵家は『裏切り』と頭に付く程嫌われているで、王家への謀反を疑われる行動は極力避けなければならないのである。



 本音? 凄く行きたく無いに決まっている。

 本当、お父様の言う通り仮病使いたい……ヒロイン後6年後と言わずにさっさと王子(悪臭)引き取ってくれないかな(割と切実)



「……お嬢様、お茶に不備がありましたか?」

「うぅ、違うの…………気にしないで、マリアン」



 うっかり王子(悪臭)との衝撃的な出会いを思い出したせいか、顔に出てしまった様だ。紅茶は美味しいが、あの悪臭を思い出すだけで全て台無しになる。


 ……よし、一旦忘れよう(現実逃避)


 気を取り直して。

 賢者修行に関して実は自習中である。先生と残念だが未だ合流できていないからである。

 私の到着が遅れたことに加え、先生の領地が今魔物の大繁殖期を迎えているからだと思われる。


 黒猫妖精(ケットシー)便で手紙が届いて先生を心配していたが、翌日私宛に『取っとけ』という文面とともに拡張鞄が届いて悟った。

 やっぱり賢者は伊達ではないのだと。

 鞄の中には(明らか魔物・魔獣から毟ったと思しき)毛玉や鱗が入っていたのである。没収品・戦利品という品名で。


 一瞬で哀愁漂うドラゴンの背中を思い出した。

 私が魔力見たいと頼んだばかりに鱗を奪われた例のドラゴンである。


 きっと今頃同じように魔物・魔獣を捉えては毛刈りや鱗がりを遂行しているのだろう。そして残されるのは無毛地帯(ハゲ)という鬼畜の所業。

 ヴァイレンホッフ辺境伯領における『賢者モード被害者の会』創設の日も、そう遠くないのかもしれない。そう思っていた。


『鱗と毛は魔導具の原材料だから保管よろしく』


 このメモが目に入るまで。思わず「いいぞぉ、もっとやれ」と掌返ししていたことは言うまでもない(外道)


 取り敢えず今最優先で必要なのは空気清浄機だとして、他にも掃除機、洗濯機、浄水器、電子レンジ、ついでにエアコン・床暖房は作りたい。他にも色々アイディアはあるので、今の内にメモっておこう。

 後は賢者に原料調達はお任せしよう。生かさず殺さず原材料だけいい感じで採取してくれていることを願っておく。



「それでは参りましょう、お嬢様」



 お茶を飲み終え、支度をした。


 ドレスへ着替え、ティナへ髪をセットしてもらい、マリアンに連れられて廊下を歩いた。

 髪の毛は量が多少減ったせいか以前よりまとまりやすくなった。そこで、ヘアセット担当のティナへ小麦粉等整髪料使用は止めてもらった。

 正直、以前から整髪料使用後洗い流せないことが気になって仕方がなかった。電気水道のないこの世界で水は勿論湯も貴重なので、我儘は言えないが。


 また、現在化粧品使用の一切を禁止している。理由は健康上の都合。

 帰宅後数日お母様にこってり叱られた際、お母様からキラキラした粒子が流れていることに気が付いたのである。中世ヨーロッパの歴史を思い出し、強烈に嫌な予感がした。

 そして即日ティナに尋ねてみたところ、案の定、化粧の原料は亜鉛や水銀……これ絶対アカンやつだと焦ったのは言うまでもない。

 賢者の名前出して化粧品使用停止を訴え、お母様に止めてもらった。


 危なかった。

 透析やキレート剤点滴等治療方法は大雑把に浮かぶが、衛生状態が底辺なので導入は時期尚早。今金属中毒になっても治療手段は無い。


 お母様は白粉代替品へ何を使うか悩んでいたので、タルク(滑石)の粉末を勧めておいた。鉱脈がイスカリオテ公爵領にあったのを思い出したのである。今後、化粧品の大規模事業へ繋がるかも知れない。



 長い廊下を歩く。公爵邸はとてつもなく広いので、食堂まで少し距離がある。


 道中相変わらずフローリングが薄汚れているのが見えた。使用人の靴にも何か茶色い物体が付着している。朝から見たくなかった。

 マリアンが明らかに顔を顰めていたので、最近『浄化』ブーム到来中の筆頭メイド長からさっきの使用人は叱られることになるだろう。

 こうした光景を見ると、私もまだまだだなと思う。衛生啓蒙活動、頑張らねば。



「お父様、お母様、おはようございます。」


「おはようルル」

「ルル、ごきげんよう」



 公爵邸帰還後、妥協していたことの1つがようやく叶えられた。


 以前から課題にしていた『家族とまともに食事を取る』が可能になったのである。賢者直伝『空気清浄』様々である。


 この『空気清浄』は料理臭も一部なくなってしまうのが難点だが、両親と使用人から発せられる臭いを完全カットできるのは非常に大きい。おかげさまで、今後不潔な人と対面しても気絶せずに済むだろう。

 このことが今一番嬉しかったりした。


 同時に、両親の喜び様へ少し胸が痛くなった。

 以前の記憶を思い出す前の私は、やはり両親を少なからず悲しませていたのだろう。一緒に飲食したく無い程度に嫌われていると気にしていたのである。


 衛生観念も、お父様を中心に受け入れてきている。

 何と、ここ1ヶ月でお父様が食前後で手へ『浄化』を使うようになったのである。


 最初見た時驚いて二度見した。ちょっと失礼だったかなと今は思う。そんな私へ、苦笑しつつお父様は答えてくれた。



「私も真似してみたのだが、結構これは良いな」



 以前から気になっていたインク臭が取れ、食事の香りがちゃんとした。そう、お父様は言っていた。

 また、『浄化』に関して手紙を書く前も現在行っているとのこと。

 手紙へ浸ける(誤字では無く)香水量を減らせたことから、字が滲む心配や偽装文章を作られる心配も減ったと話していた。後者に関しては、経験済みなのか笑顔が黒くなっていた。



 ところで、そんな手紙そういえば最近私もらっていた気がしたのだが……例の、王宮から送られてきた茶会の案内状のことである。

 アレってもの凄く香水臭かった。開いた瞬間刺激臭で鼻が曲がるかと思った程である。

 お父様の話から、手紙(羊皮紙=タンパク質・脂質)へ移った雑菌の悪臭諸々消すためにセンス無く手紙へ刺激臭を加えていることは容易に予想できた。

 それを考えると……

 不潔な王宮で、野糞後手を洗わない手であちこち触った後に書いた手紙。どれだけ雑菌だらけか。顕微鏡で見たら、雑菌祭りでグロ映像となるに違い無い。

 まして、あの王子(悪臭)の手紙。そう言えばうっかり素手で触ってしまったどうしよう……犬に噛まれたと思って気にしないことにした(←『浄化』二重三重掛け)


 さて、今日この後の午前中は視察が入っている。孤児院への慰問である。

 貴族としてやって当然だが、同時にこれはチャンスだと思っているのである。


 そう、衛生観念を啓蒙するビックチャンス。頑張らねば。


 感想、評価、誤字脱字報告、ブクマ等、頂けて嬉しいです(^^)

 今後も時間見つけて更新していきます!

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