表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/121

90話「過去との戦い その2」

 神樹の枝に素早く魔力を通す。作り出すのは横殴りの一撃だ。

 ルーンとラナリーが危ないので、とにかくマイスとの距離を離すための一撃を放つ。

 私は一瞬で攻撃の準備を完了し、その場で神樹の枝を振り抜いた。

 

 マイスはいきなり飛んできた力場に対応できずに景気よく吹き飛んだ。


「ぐほっ!!」


 元勇者はかなりの速度で壁に激突して動かなくなる。やったぞ。


「よし。間に合ったな」

「バーツ様! た、助かりました!!」

「交代だ。あいつの相手は私がする」


 異論はないか? とフィンディを見ると彼女は静かに頷いた。

 彼女はルーンとラナリーのために回復魔術の準備を始めた。的確な判断だ。


「お主が相手をすべき相手じゃろう。もし危険だと思ったら容赦なく手助けするが構わんな?」

「勿論だ。その時は頼む」

「……バーツ様、ご武運を」

「ああ、ちょっと魔王軍が受けた借りを返してくる」


 そう言って、マイスの方を見る。

 奴はちょうど立ち上がるところだった。


「な、なんだ? いきなり衝撃が……」


 まだ混乱しているようだ。ちょうどいい。


「神樹の枝よ!」


 鎖の魔術を六本発動、そして射出。一気に拘束する。


「な、なんだこれは! 貴様!?」


 ようやく私に気づいたマイスを無視して、そのまま全力で振り回す。

 壁、床、天井と元勇者を振り回して打ち付ける。

 加減はしない、できる限り加速して徹底的に叩き付ける。

 

 そのうち私でも見えないくらいの高速で元勇者が激突音を奏ではじめた。

 凄いことに建物には傷一つついていなかった。流石は神々の館だ。


「そろそろいいか……」


 数百ではきかないくらいの激突音を響かせた後、鎖の魔術を解除した。

 さて、普通の生物なら確実に死んでいるはずだが。


「……なんて野蛮な戦い方だ……。くそっ……」


 少しふらついていたが、元気そうだ。身体能力も装備も桁外れか。厄介な。


「貴様、何者だ? こんな出鱈目な力、ただの魔術師ではないだろう? それと俺の仲間はどうなった?」


 質問の多い奴だな。


「私はバーツ。お前が魔王を倒した後の魔王城の主だ。あと、お前の頼もしい仲間達は全員片付けたぞ」


 マイスは私の言葉に目を見開いて驚いた。


「そうか、貴様が新しい魔王か。よくも国家間の調整をしているうちに魔王城をどこかに移動してくれたな」

「そうか。人間同士で色々あったから追っ手がなかったのか」

「ちょっと平和になったからといって、戦争に消極的な輩が多くてね」


 剣を構えながら皮肉っぽい笑みを浮かべて、マイスはそう言った。どうやら敵として認識してくれたようだ。

 このまま攻撃を仕掛けてもいいが、聞きたいことがある。


「そういえば、エヴォスはフィンディの存在に気づいていなかったのか?」


 こいつはフィンディがいることに驚いていた。神に直接指示されてここにいるわりには、事前情報が無さそうなのが不思議だったのだ。


「神といえど万能では無いようでね。別の神に魔王を作られてしまったせいで、思ったようにこの世界に干渉できないそうだ」

「そうか。それは良いことを聞いた」


 真偽を確認する術はないが、邪神が万能ではないらしいということは良い情報だ。

 それだけ聞けば、もうこいつに用はない。


「では、改めて始めるとしよう。お前は世界に災厄を招く。見逃すわけにはいかん」

「そんなことはない。この機会に神の戦士として、世界を綺麗にしてみせる」


 不意打ちからあれだけの暴力を受けたのにマイスは元気いっぱいだ。

 これなら私も手加減なしで戦うことが出来る。

 ……もとより、この男を相手に加減などする必要は無いと思っているが。


「魔王バーツ! 覚悟!!」

「いや、今は元魔王なのだが……」


 私のそんな声を無視して、白い光を散らしながら勇者マイスが前進する。

 勇者としての力を解放しての直進。たしかに脅威だが、私を力押しで倒せると思っているのだろうか。


「おおおおっ!」


 そう思っていたら、暑苦しいかけ声と共に、元勇者が三人に分身した。

 どれも似たような魔力を持っている、実体を持った分身だ。

 これは本体を攻撃すればとどうなるというものではない。


「神樹の枝よ……」


 ならば、全部同時に倒せば良い。

 神樹の枝に魔力を通し、空間全体に魔力を行き渡らせる。先程フィンディがやったことの真似と応用だ。

 相手は元勇者にして神の戦士だ、生半可な戦い方では倒せまい。

 だから、この空間全体を私の武器とした。


「光の矢よ、行け……」


 私の意志に答え、三人になった元勇者の周囲に光の矢が生み出され、降り注いだ。


「「「うおおおおお!」」」


 分身のおかげで三倍暑苦しい叫びをあげるマイス。

 人間とは思えない動きでそれぞれ別方向に跳んだが、その程度で避けきれるものではない。

  分身二体は即座に消滅した。

 しかし、流石は元勇者、この程度では諦めない。

 

「まだだあ!!」


 元勇者は空中を蹴った。見間違いではない。その瞬間、足から魔術陣が展開した。

 空間全体を利用して剣の一撃を見舞うべく、私に接近してくる。

 当然、簡単にそれを許すつもりは無い。

 マイスの進路上に強力な衝撃波をいくつも放つ。 


「距離は取らせない!」


 驚いたことに、マイスは剣を振って私の魔術を打ち消した。


「流石にやるな……」


 神樹の枝に魔力を込める。近づいてきたところを迎撃するしかない。


「魔王バーツ! 覚悟!」


 元魔王だ、と訂正させる余裕すら与えずに、間合いに入ったマイスが剣を振る。

 強烈な斬撃を私は神樹の枝で受け止めた。

 双方の武器の秘める魔力が干渉し、周囲に光が散る。


「……なんだその棒きれは。魔王殺しの神剣を受け止めるなんて……ッ!!」


 なんて物騒な剣だ。破壊しよう。

 そう決めて、神樹の枝に更に魔力を込めて、振り抜く。

 たまらずマイスは後退した。

 武器の威力はこちらに分があるようだな。


「これはただの木の棒ではない。見た目に惑わされぬことだ」

「そのようだな……。だが、俺を間合いに入れたのが運の尽きだ!」


 次の瞬間、勇者が消えた。

 魔力の反応も無い。大神官リンネルもやっていた瞬間転移のような移動法か。

 そこまで把握した私は即座に短距離転移した。

 こちらも似たような移動方法で無理矢理間合いをとる作戦である。

 

 私が少し距離を置いた場所に転移を終えると、直前までいた場所の上空に出現したマイスが見えた。


「消えただと……っ」

「先に消えたのはお前だ」


 そう指摘しつつ、周囲の空間から鎖の魔術を放つ。

 マイスの四肢を一瞬だけ拘束したのを確認。

 私は再び短距離転移。動けないマイスの前に出現。


「くっ……しかし、この鎧を……」

「狙いは鎧ではないよ」


 これまでの戦闘でひたすらに魔力を注いだ神樹の枝。

 すでに黄金色の輝きを放つそれを、神剣に叩き付けた。

 神から与えられた魔王殺しの神剣は神樹の枝を通して莫大な魔力にさらされ、たまらず砕け散った。


「なっ……」

「終わりだ……」


 黄金色の輝きを失いつつある神樹の枝で横なぎの一撃で入れる。

 この状態でも十分な威力があったようで、マイスの鎧は砕け、一気に吹き飛んだ。

 10メートル程先で倒れたまま、奴は立ち上がらない。


「長引くと面倒だからな。ちゃんと効いているといいのだが……」


 私が近づくと、マイスはまだ生きていた。

 口から血を流している以外、思ったよりも見た目は綺麗な状態だ。しかし、体内の魔力の循環を見ると全身ボロボロであることがわかった。

 神樹の枝の一撃を鎧が受けきれず、破壊の魔力をその身に受けたといったところか。

 いかに勇者といえどこれ以上の戦闘は困難だ。


 私が顔をのぞき込むと、マイスは怒りと憎しみの篭った目でこちらを睨んできた。

 

「なんなんだ……お前は……。魔王がこんなに強いなんて聞いてないぞ」

「色々事情があってな。私は普通の魔王より強いそうだ」

「俺は勇者なのに……。魔族に負けるのか」

「私は魔族では無い。ただお前のやり方が気に入らなかっただけだ」


 そう言ってやると、マイスは大層驚いた。


「なんで俺が恨まれるんだ……」


 私では無く天井を見ながら、マイスはそうぼやくように呟いた。

 そろそろ意識が途切れそうなのかもしれない。

 おめでたい奴だ。大戦争を引き起こしておいて全方面に聖人扱いされるとでも思っていたのか。


「多くは言わん。ここに来て急に自分の行いを悔やんだりされても困るからな」


 こいつのせいで大戦争が起きた。

 こいつのせいで魔族が全滅しかけた。

 こいつのせいで戦いに巻き込まれて沢山の命が損なわれた。――ピット族のように。

 こいつが勇者というシステムの被害者だと擁護するには、生み出された犠牲が大きすぎる


「誰が悔やんだりするか。全部、俺の選んだ道だ」

「そうか。それを聞いて安心した」


 神樹の枝に魔力を通す。

 準備はすぐに完了し、先端に黄金色に輝く魔力の刃が完成した。

 何の憂いも無く、その刃を元勇者マイスの胸に突き刺す。


「がっ……あっ……!」


 そして、そのまま神々の魔力を全力で流し込む。


「ぬ……ぐ……おおおおお!」

「古き勇者マイス。もう、お前の居場所は、この世界のどこにもない」


 私の言葉への返事は、返ってこなかった。

 元勇者マイスは光となって、あるべき場所に還ったのだ。

 完全に消滅させられないのが残念だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ