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78話「敵の名は、そして……」

「さて、早速で悪い……いや別に悪くないの。話を聞かせて貰うのじゃ」


 エルフの村。牢屋に併設された部屋の中に私達はユキリラスと共にいた。

 目の前には両手を縛られ、椅子に座ったファルステルがいる。

 これから彼に情報を提供して貰うところだ。


「ふむ。神世のお方が私に問うことがあるなど。光栄ですな」


 酷い有様で私達に降伏したとは思えないほど不遜な態度でファルステルは応じた。この度胸だけは素晴らしいと思う。

 一方、フィンディは彼のそんな態度を意に介さない。


「そう思うなら素直に答えるのじゃな。単刀直入に言う、お主に神託を告げた神の名を教えよ」

「……何故、そんなことを聞くのですかな?」


 訝しげな様子でファルステルは言った。本気でなんでフィンディがそんなことを問うのか疑問に思っているようだ。


「こんな騒ぎを起こした神の名を聞くのがおかしいことかのう?」

「そこが納得いかないのです。確かに私達は神具を利用しましたが、そこには魔王を倒すためという真っ当な理由があってのもの。神世のお方の立場なら、私達に賛同してくれると思ったのですが」


 神世エルフは神に連なるものであり、勇者と魔王のどちら側の存在かと問われれば、勇者側だ。

 確かに、その認識の上ならば筋が通った疑問だ。

 彼の起こした行動はともかくとして、不思議に思うのは仕方ない。


「ふむ。どうしたもんかのう……」


 フィンディは思案していた。自分たちが魔王側の存在だと伝えるべきか悩んでいるようだ。

 魔王という存在に対する印象は良くないので、下手をすると態度を硬化させてしまう。

 いや、ある程度素直に話してもいいのではないだろうか。そもそも、私達は後ろ暗いことは何もしていないのだから。


「フィンディ、彼にも話そう。この世界全ての者に関わることだ」

「む。しかし、あまり話すと余計な騒ぎにならんかのう?」

「既に騒ぎになっているさ。それに、今の彼なら話が通じそうな気がする」


 要塞の時と違い、捕まえてからのファルステルは普通に話が通じる人物だった。

 神具からの魔力が無くなり、穏やかになったらしい。

 あるいは神具から魔力を得るというあの魔術陣に人格に影響を与える仕掛けでもあったのかもしれない。フィンディが破壊してしまったので、今となっては真相は闇の中である。


「納得のいく説明があるならば。私も喜んで情報を提供しますよ」

「よし。では、私が話をしよう。貴方が納得して貰えると嬉しい」


 もし納得してくれなかったら力尽くで神の名前だけでも聞き出そうと思っているのは秘密にしておく。

 もしそうなったら、ついでに記憶も消させて貰おう。


「既に魔王がこの世界にいて、戦うつもりがないとしたら、貴方はどう思う?」

「……信じられませんな。そもそも魔王とは邪悪な存在でしょう」

「これまでの魔王はそうだった。しかし、今回の魔王は違う。既に人間と同盟を組もうとして、平和的な方向性を模索しているとしたらどうする?」

「……妙に具体的なことを言いますな」

「私は魔王軍の関係者だ」

「なっ……」


 愕きと共に身構えるファルステル。両手を縛られているのでちょっと姿勢を正したようにしか見えないが、反応そのものは当然のものだ。 


「この話を望んだのは貴方だからな。最後まで聞いて貰うぞ。今の魔王の考え。そして、貴方に神託を与えた神の危険性を」


 出来るだけわかりやすく話そう。

 そう考えながら、私は順番に今この世界に起きていることを語り始めた。


○○○


「……なるほど。お話は理解しました。私もこう見えて600年生きております。以前の勇者と魔王の戦いは見ておりますので。……酷い戦いでした」


 私の説明は適時フィンディの補足を受けることで何とか伝わった。

 今の魔王に戦闘の意志はないこと。

 グランク王国と同盟を組んでいること。

 たとえ勇者が現れても戦いを始める必要が無いこと。

 以上の3点を中心に話しをさせて貰った。

 魔力の循環に関しては詳しく話すと面倒なので伏せておいた。


「つまり、神世のお方とバーツ様は勇者の復活を阻止するために動いているのですね」


 ユキリラスが頷きながら言う。彼にもそのうち詳しい話をするつもりだったので、ちょうど良かった。


「違う。勇者も魔王もいなくて良い世界にするための旅だ。肥沃の槌を使い、神界に至り、神に会ってこの世界の間違った作りを正して貰うのだ」


 もう一つ、私自身が神になってこの世界の魔力循環を調整することも目的だが、こちらの目的は話さないでおく。


「……実に大きな話ですな。神世のお方が関わるに相応しい」


 ファルステルは満足気に頷いた。なんでここにフィンディがいたのか納得してくれたようだ。


「ファルステル。エルフの長だった者よ。貴方に接触した神の名を教えてくれないだろうか。その神はきっと、この世界に魔王と勇者の戦いを呼び起こそうとしている。必要の無い戦いを……」

「そうですな……」


 しばらく虚空を見つめてから、ファルステルは言う。


「神世のお方、バーツ様。お二人の行いで、本当にあのような戦争は無くなるのですか?」

「信じて貰うしか無い。それと、全ての戦争が無くなるわけでは無い。勇者と魔王の戦いという、神から与えられた戦争は無くしたいと思っている」

「そうじゃの。もう、この世界には必要の無い戦いにしたいのう」


 これだけは、私とフィンディの嘘偽りの無い願いだ。

 必要の無い戦いを呼び込む神など願い下げだ。


「わかりました。お話しします」

「…………」


 ファルステルの言葉を待ち、私達は沈黙した。


「私の夢に現れ、託宣を告げた神の名はエヴォス。見た目はわかりませんが、少年のような声でした」


 その場の全員が一斉にフィンディを見た。

 

 フィンディは物凄く嫌そうな顔をしていた。


「知っている神なんだな?」


 しかも、あまり知り合いになりたくない類いの神だ。今の顔でわかった。


「悪戯好きの子供のような神じゃ。この世界の創造に関わった一柱じゃな。隠れて行動するのが好きなのもあり、神話に名前は残っておらん。何を考え、どこにいるかもわからん。面倒な奴じゃよ」

「正直、私も神を名乗られたものの、胡散臭いと思ったのです。……ですが、脳裏に焼き付いた魔術陣を描くと話の通りに神具から魔力が得られたものでして。それで……」


 すみません、と神に踊らされた元エルフの長は頭を下げた。

 エヴォスがフィンディの話した通りの存在なら、ファルステル達が暴れるのを見てさぞ楽しんでいたことだろう。


「それで魔王の話も本当だと思ったわけか。ファルステル、とにかく礼を言う。相手の素性がわかれば何か出来るかもしれん」

「そうじゃの。ユキリラス、ファルステル達の罪は減じてくれんかの? 死者は出なかったことだし、悪い神に操られただけじゃ。きっと反省もしておるじゃろう」

「はあ、構いませんが……」


 微妙な反応を返したユキリラスを制するように、ファルステルが口を挟んだ。


「ユキリラス、私だけには罰を与えるのだ。それがエルフの長の仕事だろう」


 それは、元エルフの長らしい、確固たる口調だった。エヴォスとか言う神に踊らされる前は、優秀な人物だったのを想起させられた。


「……わかりました。対応を考えます」


 今度ははっきりとした返事で、ユキリラスは頷いたのだった。

 

 

 後はエルフ達の処遇に関する話し合いなので、私達は部屋を退出した。

 私達は急いで与えられた部屋に戻った。今後の対策を話さなければならない。

 ちなみにロビンもついてきた。今回で彼も完全に巻き込む形になってしまったので、構わない。


「よし。これで俺の受けた依頼は完了だな。エルフの森の事件は解決だ」


 席に着くなりロビンが明るく言った。確かに冒険者としての彼の仕事は一段落だ。


「一応、今回は私達も依頼を受けた形ですから、ギルドで手続きを行う必要がありますが?」


 どうしますか? とピルンが問いかけてくる。冒険者としての報酬も大事だが、今はそれどころではない。


「……いや、ワシらはすぐに魔王城に行くべきじゃ。サイカに会って確認したいことがあるのじゃ」

「む、それはどういうことだ?」

「サイカは魔王になる前に神に会っておる。それがどんな神かしっかりと確認せねばならん」

「そういえば、具体的には聞いていないな」


 もしエヴォスとかいうのだったら、彼女に対する信頼が根底から覆される。

 この確認は絶対に必要だ。最悪、魔王城の皆が危ない。


「……急いで魔王城に行こう。転移陣はあるからすぐに行ける」

「そうですね。では、ロビンさん、ごきげんよう。ギルドには適当に言っておいてください」


 素早く荷物をまとめて部屋を出ようとする私達。

 それを見たロビンが慌てて荷物をまとめながら言った。


「待て。お前ら、今からどこ行くつった」

「魔王城ですが?」


 袋に詰めた荷物を背負い。大陸随一の冒険者は私達を真摯な目で見つめて言った。


「俺も連れて行け。いや、連れて行ってください。魔王に本当に危険が無いのか、この目で確かめたいんだ」


 そう言って、彼は頭を下げた。彼の本質が垣間見える、誠実な礼だ。


「……どうする、魔王城に関する判断はバーツに任せたいのじゃが」


 ロビンはいい奴だし強い。それに各国にコネもある。

 サイカを見て安全だと判断すれば心強い味方になるだろう。

 それに、これだけ事情を知った上で、自分から行きたいと言うなら断る理由は無い。


「ロビンなら大歓迎だ。魔王にも紹介もしよう。しかし、仕事の報酬は……」

「そんなのユキリラスに手紙でも持たせておけば大丈夫さ。ありがとな、バーツ!」


 顔を上げてロビンは明るくそう言い切った。

 エルフの長に気軽にお使いを頼む辺り、大陸随一の冒険者は伊達ではなかった。

 

 その後、私達はエルフの長宛の書き置きを残して、急いで魔王城に転移した。

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