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72話「大陸随一の冒険者」

 ロビン。双子の国エリンとラエリンの事件で知り合った冒険者である。共に戦う機会は殆ど無かったが、王国の姫君からも信頼厚い実力ある冒険者だ。

 どうしてその彼が、双子の国から遠く離れたこんな場所に居るのか。

 とりあえず、街を出発してエルフの森に入る前に、周囲に人のいない場所を見つけて話を聞くことにした。

 森が近く木々が多い街道だったこともあり、話すための目立たない場所はすぐに見つかった。

 昼食時だったので焚き火を囲い、食事の準備をしつつ話は始まった。火にかけた鍋の中でピルン特製スープが暖まっていく。


「それで、なんでロビンがここにいるのじゃ?」


 料理の方は気にせずに問いかけるフィンディ。私とピルンも無言でロビンを見た。同意見だからだ。

 ロビンは真面目くさった顔で話を始めた。相当のことがあったのか眉間の皺が深い。まだ若いのに。


「……全ては、ノーラ姫の婚約だ。あの後、姫と王子は領地を貰うまでということで王都の外れで生活を始めたんだ」

「そういう予定でしたね。何よりだと思いますが」

「俺は姫のことをよく知っていると言うことで王子にも気に入られてな。それで連日呼び出されて、新婚特有の甘ったるい空間を味わったり、のろけ話を食らうことになったわけだ」

「それが辛かったのか?」


 ロビンは首を振った。どうやらその辺りは直接の原因では無いらしい。


「いや、それ自体は大したことじゃない。二人とも人が出来てるし、めでたいことだしな。問題は、そこからだ」

「ほう。そこから先にお主が大陸の反対側まで来る理由があると?」

「ああ、二人は俺のことをとても気に入ってくれた。それはいいことだ、ゲスなことを言えば、王族とつながりがあるのは商売上も悪くない。だがな、気に入られすぎてな。姫が俺に見合いをすすめてくるようになったんだ……」


 ロビンは遠い目をしていた。過ぎ去りし日々を回顧しているのだろうか。少なくとも、楽しい思い出を反芻しているようには見えなかった。


「察するに、見合いは上手くいかなかったということか?」

「バッ、バーツ! 気を使わんか! こういう時はもっと遠回しに言うべきじゃ!」

「そうですよ、ロビンさんは22歳の若者なんですから、お見合いで何度も振られたんだろうなんて断定されたら傷つきますっ」


 同行者二人の方が酷いことを言っている気がする。


「いや、私は何度も振られただろうとまでは言っていないのだが……」

「ピルンの言うとおりだ……」


 そう言って肩を落とすロビン。陽気で豪快なハゲマッチョ。頼れる男を絵に描いたような冒険者が台無しだ。


「ノーラ姫の見つけてくる見合い相手だから、大事に育てられた貴族の令嬢ばかりでよ。しかも、姫も王子も俺のことを最大限褒めて伝えるもんだから、それはもう美形で頼りがいがある冒険者様を想像していたみたいでな……」


 ロビンは頼りがいはあるが、残念ながら美形ではない……と思う。ある意味、人間見た目が全てでは無いというのを地で行っている人物だと思うのだが、お相手はそうは思ってくれなかったということか。


「5人目の見合い相手が俺を一目見るなり泣き出したところで、俺は双子の国を出た。あの国、気に入ってたんだけどなぁ……」


 そう言ってロビンは涙ぐんだ。あまりにも哀愁漂う姿だった。誰かが悪いわけでもないのが、また辛い話だ。


「こんなに悲しい話を聞いたのは久しぶりじゃ。ロビン、何か困ったことがあれば相談するが良い」

「そうだな。私も出来るだけ手助けしよう」

「あの、グランク王国の女性で良ければ、ご紹介しますよ?」


 ピルン特製のスープが煮えたぎる中、私達はそれぞれ慰めの言葉を口にする。この男の力になってやろう、そっと私は心に誓った。


「慰めるなよ。余計辛くなるだろ……。ともあれ、冒険者として鍛え直す旅をしているうちにここにたどり着いてな。ここのギルド長は顔なじみなんで、挨拶してみたらエルフの森のことを頼まれたってわけよ」

「なるほど。大体理解した。しかし、まだ若いのに大陸随一の冒険者とは立派なものだ」


 ロビンはまだ22歳だ。成人しているが冒険者の中では若手のはず。よくぞその若さで大意陸随一と言われるだけの実績を積み上げたものだ。


「そんなの勝手に周りが言ってるだけだ。たまたま首尾よく依頼を片付けられただけさ。……それで、バーツ達はなんでここにいるんだ?」

「ちょっとエルフの森に用があってな。フィンディが昔預けたものを回収に来た」

「なるほど。訳ありってわけか。詳しくは聞かないぜ」


 ロビンは私の短い言葉で、詳しく話せない事情ありと察してくれた。流石だ。話が早くて助かる。


「しかし、今の話を聞いた感じですと、ロビンさんもエルフの森で何が起きてるか知らないようですね」

「ああ、詳しくはエルフの長に聞く手はずになってる。知り合いだし、外に出すと不味い内容みたいでな。ま、バーツ達なら一緒に聞かせてくれるだろう」


 ギルドの人間相手に事前に話せない内容か。これは面倒くさそうだ。


「ふむ。よほどのことが起きているようだな。ロビンの事情も把握したことだし、出発するとしよう」


 ○○○


 大陸南東部にある広大な森はエルフの管理する領域である。

 当然ながら大陸最大のエルフの集落がある。

 街道からよく手入れされた森の中に入ってすぐ、村に到着した。

 森があまりにも広く、広範囲にエルフが住み着いているため、集落の規模が大きくならないらしいが、最も人間と交流の多いこの場所はもう街といっていい規模だった。


 エルフの森は木々を魔術で制御して適度に木の密度を減らし、住居を建てられる明るい空間が確保された場所だ。

 極力森を傷つけない方針らしく、人間の都市のような大きな建物はなく、殆どが家族単位で過ごすための住居になっている。

 そんな中で特別目立つのが、複数の大木が絡み合って建物を形作っている集会所である。

 この木だけは内部に手が入っており、集会用の大部屋や旅人用の部屋などが用意されている。エルフの巨大建築物というわけだ。 


 エルフの長はそこで私達を待っていた。

 そこに至るまでの道中は実に順調だった。

 エルフ達はフィンディを見た瞬間に平服して、物凄く丁寧かつ迅速に案内してくれたからだ。


 集会所内の一室、比較的豪華な装飾がされた面会用の部屋で待っていると、すぐに長がやってきた。

 扉の向こうから現れたのは、若い男性のエルフだった。金髪で、エルフらしくイケメンだ

 彼は室内に入るなり笑顔でこちらに歩み寄ってきた。

 私達も全員、挨拶すべく立ち上がる。


「おお、ロビン! よくぞ来てくれた! お前がいれば心強い……ゲエェェェ! 神世のお方アァァァ!」


 美形のエルフが物凄い顔で驚いた。飛び上がらんばかりの反応だ。

 彼は慌てて一礼した後、落ち着いた風貌をかなぐり捨てて矢継ぎ早に質問してきた。


「な、なんでここに! それと一緒の方は? ロビンも? ど、どういうことですか!!」

「とりあえず落ち着くのじゃ。話を聞くのはワシらの方じゃろうに」


 取り乱し続ける長に対して呆れながらフィンディが言った。

 ちなみに、ここに来るまでに会ったエルフ達はだいたい同じ反応をした。残念ながら、フィンディ来訪の報告は長老まで届かなかったようだ。


「も、申し訳ありません。私はユキリラス。このエルフの森の長をしております」


 少し落ちつきを取り戻したユキリラスは丁寧に礼をしてから、私達に言った。


「神世のお方もいらっしゃるとはちょうど良い。私達の窮地をお助けください」

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