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42話「穴の底にあったモノ」

 穴の底につくと太鼓の音が大きくはっきりとするだけでなく、建物の正体も判明した。

 神殿だ。建物は何らかの神殿だった。ここに繋がっていた建物と同じ作りである。入り口の前には石像が並び、こちらは破壊されずに綺麗な状態を保っていた。

 しかし、なんというか、石像がおかしい、フィンディに似ている。いや、非常に精巧な出来なのもあり、瓜二つだ。持っている杖と着ているローブから、彼女をモデルにしているのは間違いない。


「なあバーツ、この石像、フィンディに似てないか?」

「ああ、私もそう思っていたところだ。何故こんなところに、しかも沢山……」

「わけがわかりませんね。フィンディ様、何か身に覚えはありませんか?」

「あるわけがなかろう! ワシがこんなものを作らせると思うか?」

「……ありえないな。そうなると、ますますわけがわからん」


 フィンディはこういう目立ち方が嫌いだ。石像を作らせることなどありえない。。

 そうすると、この石像を作った者たちは自主的にこれらを建造したというわけだが。なんでまた、フィンディの石像を。

 

「なあ、この太鼓の音を出してる奴らに聞くのが早いんじゃないか?」

「たしかに、ミドリラの言う通りかもしれません。推測不能な状況です」

「う、うむ。ワシもそうしたい。恐ろしい事実に遭遇しそうな気がするんじゃが、流石に確認せんと……」


 同意見だ。これだけ奇妙な状況は初めてだ。確認せずにいられない。


「そうだな。先に進もう。しかし、本当によく出来ているな。スカートの中まで再現している……」

「変な感心しとらんで、先に進まんか! お主の隠形の魔術じゃろう!」


 ゆっくり鑑賞していたら顔を赤くしたフィンディに怒られたので私達は建物内に入った。


○○○


 建物の中は上にあったものと同じく単純な作りだった。入ると真っ直ぐ通路があり、中央に広い部屋に繋がっていた。太鼓の音もそこからだ。

 中心部は明るく、火が焚かれている音がした。

 とりあえず、ピルンが物陰から中を覗いて様子を見ることになった。

 

「ピルン、どうだ?」

「……訳がわかりません。人間に角と小さな翼が生えた種族が篝火の周りで一心不乱に踊っています」


 わけがわからないので全員で中を見た。

 言われた通りだった。


「フィンディ、知っている種族か?」

「わからん。あんな特徴の種族は見たことがないのう」


 巨大な篝火の周りで太鼓の音と共に踊っているのは見たことのない種族だった。

 身長は全員2メートルくらいで、外見は人間に似ている。額の左右に2本の角が生えており、背中には鱗の生えた小さな翼が生えていた。なんで背中の様子がわかるのかというと、彼らが上半身裸だからだ。全員、見た目は屈強な男性であり、鍛え上げた肉体を惜しげもなく晒しながら謎の儀式を邁進している。


「なあ、火の近くに置かれてるの、フィンディの像じゃないか? やっぱり何か関係があるんじゃ?」

「そうだろうが、本人には覚えがないそうだからな」


 篝火の前には入り口のものより更に出来の良いフィンディ像が置かれていた。杖を天に掲げ、凶悪に笑っている。彼女らしさが良く表現されていた。

 眺めているうちに太鼓の音が早くなった。彼らの踊りも激しさを増す。

 

「儀式は最高潮のようです。もう少し様子を見ましょう」


 しばらくすると、太鼓の音の大きさと速さがこれまでになく強まり、「ハッ!」とか「ホッ!」とか言っていた男たちの声が止まった。

 そして、装飾品を沢山つけた一番偉いと思わしき男がフィンディの像の前に出てきて平伏して叫んだ。

 

「我らが守護者、最強の神世エルフ、フィンディ様よ! この未曾有の危機から我らをお救いくださいませ! かつてドラゴンを討伐した時の如き、無双の力で我らを苦境より救い給えー!」


 周囲の男たちが「フィンディ! フィンディ!」と絶叫する。

 私達は一斉にフィンディを見た。


「どうやら、フィンディを信仰しているようだぞ。それもかなり」

「困っているようだし、助けてあげたらどうだい、守護者様」

「…………」

 

 フィンディは物凄く嫌そうな顔をしていた。

 

「正直、この場を去りたい気持ちで一杯なんじゃが……」

「しかし、困っているのも確かようだぞ。上の扉が開かれても一心不乱に祈っていたようだし」


 扉に封印を施していたのが彼らなら開かれたことに気づいているはずだ。しかし、ここで祈っていた者たちは武器を帯びた様子すらなかった。


「そうじゃな、色々聞きたいこともあるしの……。どう出ていったもんじゃろうか」

 

 苦悩を滲ませながら、彼女は言った。珍しいことに本当に困っているようだ。

 

「あの、フィンディ様、なんならわたしも一緒に行きましょうか? こちらに対して敵意はないでしょうから、悪いことにはならないでしょう」

「うーむ……」


 ピルンの遠慮がちな申し出にしばらく考えた後、大きなため息をついて、フィンディが言った。

 

「ピルンの言う通りじゃな。彼らと話をしよう。……ただし、全員一緒じゃ。バーツ、隠形を解除せよ」

「わかった。私達も付き合おう」


 異論は出なかったので、私達はその場で隠形を解除した。

 演出のつもりか、杖を輝かせ始めたフィンディと共に、彼らの祈る部屋へと入っていく。


「呼ばれたようじゃから、出てきてやったのじゃ! ワシに何のようじゃ、というかお主ら何者じゃ!」

「…………」


 急に現れ叫んだフィンディと私達に注目する彼ら。全員の視線がフィンディに集中する。

 

「しゅ、守護者様じゃあ! 皆の衆、フィンディ様が降臨なされたぞお!」


 謎の種族が一斉に平伏した。まるで訓練されたかのような、見事な動きだった。

 

「…………」 

 

 場に静寂が満ちた。

 ほんと、何なんだ、この状況は。

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