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37話「ドワーフ女王 その1」

 炎の魔物を掃討した後、私達は補給地点まで戻ることにした。ミドリラはあの場で色々と話したがったが、何が起きるかわからないので、安全が確保できそうな場所になってから詳しい話をということになった。

 補給地点に戻り、まずは装備や負傷者の治療などを行った。ミドリラはすぐに私達を歓待したがったが、私とフィンディがいれば治療はすぐ終わるので、ここはドワーフ達を優先させて貰った。また、大空間へと続く道への柵や扉は全て閉めた。更に奥から魔物が押し寄せてこない限り、とりあえず補給地点は安全だろう。

 少し時間はかかったが、急ごしらえだが頑丈そうな一番大きな建物の中で、ようやく私達は話し合いの場を持つことが出来た。

 

「今更挨拶もなんだが、アタシがドワーフ王国の女王ミドリラだ。3人に改めて礼を言いたい。危ういところを助けて頂き、本当にかたじけない」


 私達を前にミドリラは深々と頭を下げた。目の前や周りのテーブルでは現在進行形で大量の料理や飲み物が運ばれている。地中深くとは思えない物資の豊富さだ。というか宴会の準備をしている。想像通り、この女王の趣味らしい。

 

「礼を言われる程のことではありません。女王はピルンの友人だと聞きました。手助けするのに理由はいらないでしょう」

「そうか。だが、重ねて礼を言いたい。我が友ピルンを伴って来てくれただけでなく……」

「あ、ミドリラ。この二人は堅苦しいのは苦手だから、いつも通りで良いと思いますよ」

「むほっ。それなら安心だ。すまないな。女王なんてやってるが、アタシは堅苦しいのが苦手なんだ、楽な話し方をしてくれると嬉しいね」


 ピルンの一言で急に気軽な喋り方になった。周囲のドワーフ達が何も言わないところを見るとこういう人物なのだろう。話しぶりからして本当にピルンとは気安い仲のようだ。

 

「では、改めて自己紹介を。私はバーツ。冒険者としてピルンと同行している」

「ワシはフィンディ。右に同じじゃ」

「さっきのとんでもない魔術といい、さては噂の魔人と大賢者だね。知ってるよ。まさかピルンと一緒に来るとは思わなかった」


 こんな地中にいてもしっかり情報収集をしていたらしい。流石は女王だ。しかし、情報の広まる速度の方が私達の移動速度よりも早い。これから先、ただの冒険者として扱われることは少なくなりそうだ。名前が売れたと喜ぶべきだろうか。変に有名になると面倒が起きそうなのでそれはそれで望むところではないのだが。

 

「わたしはこのお二人を案内しながらグランク王国に向かっている途中なのです。今回はそれが幸いしましたね」

「全くだ。あれだけの数の魔物をどうにかするのは骨が折れるからね」

「む。勝算があったのか? 数に押し切られるかと思ったのだが」


 女王の斧の力でドワーフ達が力を増していたが、それでどうにかなる戦力差には見えなかったが、ミドリラからするとそうでもなかったらしい。


「まあ、途中で斧の力で敵を散らして、撤退するつもりだったさ。正直、犠牲は避けられなかったろう。だから、本当に心からお礼を言うよ。バーツ、フィンディ、二人は私達の恩人だ」


 笑顔で言いながらミドリラは再び頭を下げた。女王なのに、腰が低いと言うか、実にさっぱりした性格だ。なかなか好感が持てる。

 女王ミドリラはピルンに教えて貰った通り、黒髪のドワーフだ。ドワーフの女性はちょっと太めの可愛らしい少女のような外見をしている者が多いのだが、彼女は比較的痩せていた。ドワーフ製の鎧と斧を着ていなければ、人間の子供と区別がつかないだろう。

 フィンディと身長は同じくらいだが、胸などは明らかにミドリラが大きい。ドワーフが見れば、彼女のほうがフィンディよりスタイルがいいと言うだろう。人間やエルフから見れば、ミドリラは発育のいい子供だ。

 

「外では英気を養うための宴会を始めている。少々騒がしいが気にしないでくれ」

「わかった。……本当に宴会好きなんだな」

「ドワーフだからな。食べて飲んで働いて食べて飲んで寝る。それが人生だ。どこに居てもそれは変わらん」


 言いながら、自分の前に置かれたジョッキの中身をグビグビ飲むミドリラ。中身は酒ではなく、果実水だ。彼女はこういう所で酒は決して口にしない主義らしい。先程、いざというとき、女王が酔っ払っていたら話にならないからと言いながら、飲み物を注がせていた。


「先に依頼の件について話をしよう。あの魔物や遺構について詳しく聞きたい」

「よし、食事をしながら話そうじゃないか。アタシも腹が減ってね」


 そんなわけで、このまま食事をしながら詳しい話をすることになった。建物で隔離されて、外の宴会から逃れられている点にだけは感謝しよう。というか、外が大分騒がしい。歌とか聞こえてくるが、魔物が反応しないだろうか。


「見ての通り、アタシ達はドワーフ王国を拡張しつつ、この辺の地下資源を獲得するために、表では商売して、裏ではひたすら穴掘りをしていたのさ」

「ここに来るまでに少し見てきたのじゃ。実に上手くやっているようじゃのう」

「神世エルフに褒められるとは嬉しいねぇ。そう、アタシ達はグランク国王の協力を得たりしながら、それなりに上手く王国を運営している。それでいて、せっかくでかい山を縄張りにしたんだから、地下を目指さない理由は無いってね」

「わたしと陛下は程々にと言っていたんですけれどね。中央山地の方面は、得体が知れませんから」


 東西南北の山脈の中心にある中央山地は今でも人の手が入っていない未知の領域だ。正直、私も何があるのかよく知らない。この世界で最も古い大地であると、フィンディから聞かされているし、世界の創世神話でもそうなっているのだが。

 

「確かに得体が知れない場所だな。炎の魔物もここに来るまでの遺構も見覚えがなかった。フィンディ、中央山地はどういう場所なんだ?」

「神話にもあるように、中央山地は神々が最初に作った大地じゃ。そして、なんというか、実験場のような場所でもあるのじゃ」

「それは、どういう意味でしょうか?」


 ピルンがメモを準備しながら聞いた。貴重な情報を逃すつもりはないという姿勢が垣間見える。相変わらず働き者だ。


「中央山地で神々は様々な生物や魔物を生み出し、そこで生活させたそうじゃ。知恵あるもの、知恵なきもの、強きもの、弱きもの、とにかく色々じゃ。場合によっては数千年単位で栄えた種族もおったらしい。今は失われたがの」


 フィンディにしては珍しいことに、今ひとつ要領を得ない伝聞の話だ。いつもならもっと具体的な話をしてくれるのだが。

 

「らしい、ということはフィンディも詳しく知らないのだな?」

「そうじゃ。それこそ世界創生直後くらいの話じゃからな。神世エルフすら生まれる前じゃの。ワシらでこのザマじゃから、他の種族では伝承すら残る余地が無い時期の出来事じゃ」


 これは驚いた。神は世界を創造した後、自分たちの手伝いをさせるために神世エルフを生み出したという。中央山地にあるのは、その間に起きた出来事の産物だということだ。そんなもの、人間もエルフもドワーフも伝承に残しようがない。


「す、すごい壮大な話だな。アタシら、とんでもないところまで穴を掘り進めちまったみたいだ……」

「フィンディ様すら知らないことが、この世界にはまだあったのですね……」


 二人が驚くのも当然だ。私も驚いた。正直、今回もフィンディに見て貰えば概ね解決策まで導き出せると思っていた。


「ワシとて神世エルフの中では若輩じゃからな。知らないことだらけじゃ。それで、ミドリラよ、今後の方針はどうなっておるんじゃ?」


 お茶を飲みながら問いかけるフィンディ。今の話を聞いても先に進むかということだろう。既にドワーフ王国は神世エルフの伝承にすら残っていない上古の場所に入り込んでいる。危険は未知数、何が起きるかわからない。この世界に最も詳しいであろうフィンディがその回答だ。これ以上の危険を犯す必要があるのか、たしかに疑問ではある。

 

「そうだな。少し考えたいな。食事の後くらいに決断しよう」


 ミドリラは決断が早い指導者らしい。あるいは、話しながらも方針を大体決めているのだろう。そんな雰囲気があった。


「とりあえずは、アタシらはやることがある」

「ほう、それはどんなことだ?」


 嫌な予感がする。

 

「とりあえず、宴会だ! 友人との再会と生還を祝って、飲んで騒ごう! アタシは酒を飲めないのが残念だけどな!」


 叫びながら、ドワーフ女王は外に飛び出して行った。間違いない、この地域のドワーフを宴会好きにしたのは彼女だ。

 

「私達は客人だから、宴会に付き合わなければいけないか?」

「挨拶くらいはした方が良いかと思います……」

「適当なところで逃げ出すのじゃ」

「ああ、そうだな」


 宴会嫌いの私とフィンディは適当なところで逃げ出すことを決意した。

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