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30話「バーツの戦い」

 勇者の遺産の周辺の山々と森の中で次々と魔力が大きくなるのを感じる。

 どうやら、ザルマがゴーレムの起動を始めたようだ。奴の言葉通りなら、数百体が起動して、街で大暴れするはずだ。

 ここからドーファンの王都フィラルまで、ゴーレムの飛行速度でどのくらいだろうか。一日はかからないはずだが。

 時間的な猶予はあまりなさそうだ。

 

「始まったな。出来るだけ早く済ませる。時間を稼いでくれ」


 目の前にいる3人はそれぞれかなりの強者だが、あれだけのゴーレムを殲滅するのは厳しいだろう。

 私がいかに早くフィンディを元に戻せるかが、人々への被害の有無へ直結する。


「承知致しました。お二人のお姿をお待ちしております」

「おまかせあれ、と言えないところが悔しいですわね」

「全力を尽くします。ですから、神世のお方をお願いします」


 3人とも、私の作戦ともいえない作戦に従ってくれるようだ。彼らの期待に答えるために、全力を尽くそう。

 

「大丈夫だ。安心してくれ。命を粗末にしないように」


 そう言って、私は飛行魔術でフィンディのいる場所に向かった。

 

 ○○○


「よし、一人で来たようじゃのう」

 

 勇者の遺産、最上階の直前にある大広間。先程と同じ場所でフィンディは待っていた。私によって施設の機能が破壊され、戦闘で壁が穴だらけになった今なら、ここまで来るのは実に簡単だ。

 もっとも、彼女をどうにかするのは簡単とは言い難いのだが。


「ピルン達は外でゴーレムの対応に当たらせた。出来るだけ手早く済ませたい」

「うむ。神樹の枝でこの兜を破壊してくれ。反撃してしまうのが問題なのじゃが」

「承知している。って、やる気がありすぎだ!」


 返事をしながら神樹の枝を構えると同時に、フィンディが魔力弾を発射してきた。私は防御障壁を展開。味方がいた先程と違い、必要な防御障壁は自分一人。手加減の効いた攻撃を弾くのは容易い。仲間を気にする必要もないので気楽だ。

 作戦は単純。このまま攻撃を弾きながら、一気にフィンディに接近して、神樹の枝で一撃入れる。見た目は棒切れだが、実に頼りになる武器だ。

 

「フィンディ、出来れば動くなよ! あと、手加減をしてくれ!」

「そのつもりじゃ!」


 魔力弾を連射するフィンディ。それをことごとく弾きながら移動する私。距離は一気に詰まり、接近戦が可能な位置に来た。

 神樹の枝に魔力を込めて、兜めがけて振り下ろす。これで終わりだ、実に手早い。

 だが、それは甘い考えだった。

 宥和の兜だけを破壊するように調節された一撃は、フィンディの杖によって受け止められていた。

 

「……何故、受け止める」

「すまん、反射的に防御してしまったのじゃ。あと、反撃したいんじゃが……」

「なんだと、うおっ!」


 フィンディが神樹の枝を弾き返して、そのまま杖で私に殴りかかってきた。よく見れば彼女の杖全体がうっすらと魔力を帯びている。接近戦用の状態だ。

 

「くっ、このっ、なんで反撃するんだ!」

「すまん、どうにも攻撃が入りそうになると、体が勝手に動いてしまうんじゃ」


 どうやら、宥和の兜からの戦いに関する命令は緩いもので、ある程度は抵抗出来ているようだが、自分に傷が入りそうな状況になると本能的に本気を出してしまうということらしい。そこのところでフィンディにもう少し我慢が効けばやりやすいのだが、一つ問題がある。

 フィンディは戦うこと、というか暴れることが大好きなのだ。

 杖での連続攻撃もかなりの腕前で、私は防御障壁を使って、必死に受け止める。体は小さいし、衣服のおかげで魔術師然としているが、彼女は神世エルフとして一通りの武器の扱いに習熟している。魔術も体術も超一流という厄介さだ。

 

「全く、すぐに決着がつくと思っていたのに、というか追撃までするのか!」


 防戦一方で埒が明かないので、飛行魔術で後ろに飛んで距離を取ったら魔力弾が撃ち込まれて来た。面倒なので神樹の枝を振って全て吹き飛ばす。

 ご丁寧に追撃までしてくれたフィンディは、私に向かってすまなそうな表情で言う。

 

「すまん、バーツ。ちょっと楽しくなってきた」


 何言ってるんだ、この神世エルフは。戦闘民族か。

 

「状況をわかっているのか! あの3人でゴーレムを撃破するのは無理だぞ! 早く助けに行かなくては!」

「わかっておる! しかし、ワシとここまで渡り合える者はそうおらん。つい血が騒いでしまうのじゃ!」


 なんて迷惑な話だ。こちらは平和的かつ、速やかに状況を解決したいというのに。

 次々と繰り出される魔力弾。私は神樹の枝で鞭を作ってそれを迎撃。隙を見て、鞭を伸ばしてフィンディを捕らえにかかる。

 

「駄目じゃバーツ! この程度の攻撃ではワシには通用せん! 本気で一撃入れるつもりで来るのじゃ!」


 私の攻撃が悪いわけではなく、フィンディが戦闘者として卓越しすぎている。戦いが長引くことで調子が出ているのか、動きのキレが良くなってきて、より捉えにくくなってきた。

 フィンディの言う通り、これは本気を出すしかないようだ。これまではフィンディに怪我をさせないように加減をしていたが、それでは届かない。そういうことが許される相手ではない。

 

「フィンディ。すまないが、少し本気を出す。怪我をさせたらすまない」

「……謝る必要はない。悪いのはワシじゃ」


 確かにその通りだ。いや、実際にいうと本気で落ち込むと思うので言わないが。

 フィンディの防御を突破するための攻撃をするなら、生半可な攻撃は駄目だ、私の切り札を使おう。


「行くぞ!」


 飛行魔術で一直線にフィンディに向かって飛んでいく。とにかく高速で近づいて、一撃を入れてみせる。


「正面からじゃと! 流石に見逃せないのう!」


 若干楽しそうに、フィンディが魔力弾を連射。真っ直ぐ私に向かって10近い魔力弾が殺到する。

 通常なら、杖や魔術で防御するところだ。しかし、私はあえてそれをしない。神樹の枝は、フィンディを攻撃するために魔力を込めた状態にしておく。

 私の体ほどの大きさの魔力弾、その全てが巧みに誘導され、こちらに直撃。

 その瞬間、私は久しぶりにある能力を発動する。

 

 魔力弾は全て、私の体に触れると同時に、吸収されて消失した。

 

「魔力吸収か! 久しぶりに見たのう!」


 魔力吸収。文字通り、魔力を自分のものとして吸収する能力だ。私が昔から持っている特殊な力で、その気になればこの世のあらゆる魔術を無力化できる。文字通り、切り札だ。

 

 フィンディの魔術を吸収した私は、飛行魔術を一気に加速して、接近する。右手にはフィンディ攻撃用の神樹の枝。空いた左手からは、鎖の魔術を発動。

 発動した鎖の数は5本、本気で拘束するつもりで作成した鎖がフィンディに殺到する。


「む、おおっ。これはなかなか……」


 フィンディの杖や腕や足に鎖が絡まっていく。私が本気で魔力を込めた魔術だ。フィンディと言えど、すぐには解けない。それでも、稼げる時間は一分程度だろう。だが、その一分があれば十分だ。

 魔術で加速して、一気にフィンディの目の前に到達した。白銀に輝く神樹の枝を振り上げる。

 

「フィンディ、目を閉じていろ!」


 返事は聞かずに、私は神樹の枝を振り下ろした。

 神話の時代の遺産。神具『宥和の兜』だけが粉々に砕け散った。

フィンディ「身体は闘争を求める」


迷惑な兜は破壊され、シリアス(笑)の展開は終了です。次回は「流星の魔術」になります。

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