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21話「サキュバス狩り」

 ドーファンの王都フィラルは上空から見ると、実に色鮮やかな町並みをしている。フィラルの街は綺麗に区画が分けられている上に、区画ごとに建物の屋根や壁の色が統一されているためだ。王城を中心に色とりどりの町並みが広がり、郊外になると学園や研究施設など広い敷地が必要な施設が目に入る。計画的に作り上げられた都市で、実に見ごたえがある。

 上から街を見下ろす者など、城住まいなどごく一部に限られるだろうに、あえてそこにこだわる姿勢は嫌いではない。

 フィラル上空に浮かびながら、私はそんなことを思うのだった。

 隣には、同じく浮かんでいるフィンディがいる。勿論、人目のある街の上空に浮かんでいる以上、隠形の魔術もかけている。

 

「どうじゃバーツ、見つかったか? まさか景色など楽しんでおらんだろうな?」

「そ、そんなわけないだろう。ちゃんと探している」


 いかん。バレていた。改めて集中しなければ。

 

 私とフィンディが空を飛んでいる理由はいうまでもなく、サキュバスの探索だ。

 人探しをするならば、見晴らしの良い場所で私の魔力探知。王都フィラルの入る前に決めた方針である。ピルンの方は冒険者ギルドなど、彼のつてをあたって情報を集めてくれている。

 かれこれ一時間ほど、私とフィンディは上空でサキュバス探しをしているのだが、成果は得られていなかった。

 

「難しいな。正直、人が多すぎる。日中のサキュバスは隠れるのが上手だしな」

「流石のお主でも無理そうか。魔術と組み合わせればいけるじゃろうが、騒ぎになるしのう」

「そうだな。国全体を包み込む探索魔術が展開されれば、流石に気付く者がいるだろう」


 サキュバスは夜の魔族だ。日中は自身の魔力を隠して過ごすなど、人目を避けることが非常に上手い。人混みに紛れられたら私でも見つけることは困難だ。フィンディの魔術と私の魔力探知を使えば、それでも見つけることが出来るだろうが、それはそれで余計なことを引き起こすことになる可能性が高い。騒ぎを起こすのは私達の本意ではない。

 しかし、フィラルの街は広いし人口も多い。私の能力だけで、日中のサキュバスを見つけ出すのはほぼ不可能と言えるだろう。


「このやり方は無理だな。夜に行動したほうが良さそうだ」

「異論は無い。一度撤収するとしようかのう」

「そうだな。ピルンに連絡しよう」


 私は腕輪型の連絡用魔術具を使い、ピルンに連絡を取る。


『ピルン。バーツだ、聞こえているか?』

『はっ。バーツ様。聞こえております。いかが致しましたか?』

『この時間の上空からの探索は無理そうだ。一度合流したい』

『承知致しました。私はもう少し情報を集めますので、先に宿に戻っていてください』


 私達は帰るのにピルンはまだ働くという。なんというか、申し訳ない気持ちになるが、彼の情報収集力は非常に高い。多分、私やフィンディがついていったら足手まといになる。

 

『申し訳ないが、先に戻っている。すまないな』

『気にしないでください。適材適所ですから』


 ピルンの返信を確認してから、私達は宿へと戻った。

 

 ○○○

 

 ピルンは今回も調度類の少ない、シンプルな内装の宿を選んでくれた。私が気に入っていたのを覚えていてくれたらしい。

 フィンディと共に室内でお茶を飲んだりしていると、情報収集を終えたピルンがやってきた。

 

「遅くなりました。思ったよりも時間を取られまして。申し訳ありません」

「いや、謝らなくていい。そちらの情報収集は全てピルンに任せてしまっているわけだしな」

「うむ。むしろワシらが礼を言わねばならぬじゃろう」

「はっ。恐縮です」


 言いながら席に着くピルン。フィンディがお茶の用意する。考えてみると、私はこういう時見ているだけのことが多い。今後は茶の一杯も用意するようにしよう。


「早速ですが、話を始めて良いでしょうか?」


 お茶を一口飲んでから、ピルンが言った。様子を見るに、私達と違って何か掴んだのかもしれない。


「頼む。私達の方は成果なしだ。人が多い場所に隠れたサキュバスを見つけるのは私でも難しい」

「魔術で一気に調べれば良いのじゃが。この国の連中を刺激するのは避けたいしのう」

「お二人が動くとかなり派手なことになるでしょうから。それが良いと思います。それで私の方ですが……」


 小さな紙束を取り出すピルン。情報をまとめたメモだろう。一応、まだグランク王国の使者でもある彼は、色々なことを書き記している。


「例のサキュバスについての情報がかなり集まりました。結論から言うと、恐らくバーツ様の推測通り、クラーニャさんというサキュバスではないかと思われます」

「おお、まさかとは思ったが、本当に当たっていたとは」

「なかなかの朗報じゃのう。詳しいところを聞いても良いか?」

「はい。バーツ様の仰った通り、サキュバスの被害者は13歳前後の美少年だそうです。全員の性格までは調べられませんでしたが、判明している範囲では、全員気弱な性格です。また、今の所、誰も命に関わるような状態にはなっていないようで、むしろ幸せそうだとか」

「ふむ。趣味と実益を兼ねた上で、控えめに活動しているように見えるな」


 サキュバスが本気で精気を奪いにかかれば、相手は死ぬそうだ。クラーニャは好みのタイプの命までは奪いたくないので、適度に楽しむ主義と言っていた記憶がある。その通りの行動をしているようだ。

 

「はい。ここ最近は毎日のように出没しているようです。そこで、問題があるようでして……」

「例の風騎士かの? サキュバスを敵視しているそうじゃったからのう」


 ピルンが頷く。実際に来てわかったのだが、風騎士は王都の守護者として非常に人気の高い人物だ。これまで何度も王都を脅かす敵と戦って来たらしい。

 犠牲者は出ていないが、状況を見れば魔族が夜の王都を闊歩しているわけだから、風騎士としては見過ごせないだろう。

 

「クラーニャさんと風騎士は、ほぼ毎晩交戦しています。最初は風騎士があっさりやられていたようですが、段々とクラーニャさんが追い詰められているという話です」

「どういうことだ? クラーニャはそれ程弱くないはずなんだが」

「風騎士が相手への対策を色々と講じているのでしょう。元々の実力も相当ですが、風騎士を王都の守護者たらしめているのは不屈の精神だそうですから」

「生きている限り、策を練って何度も挑戦するのか。素晴らしい精神だとは思うが、不味いな……」


 諦めない相手というのは厄介だ。しかも、今回は自身に大義があると思っている者なわけだから、クラーニャが倒されるまで状況は続いてしまうだろう。


「早めにクラーニャさんを保護するのが良いと思います」

「バーツ、夜ならサキュバスを探すことが容易になるんじゃな?」

「うむ。夜になって能力を使ったり、戦闘をしているならば、すぐに見つけることが出来るだろう」


 夜のサキュバスは目立つ。戦っていれば尚更だ。比較的早く補足できるだろう。最悪、フィンディの魔術と組み合わせてもいい。

 クラーニャがなぜここにいいるのか、そして風騎士というのはどんな者なのか、どちらからも話を聞いてみたい。

 これは何としても両者を確保する必要がある。


「では、夜を待って行動を開始するのがよかろう。それまで休養じゃ。ワシらはともかく、ピルンは疲れているじゃろうからな」

「いえ、疲れるほどではありませんが」

「他にやることがなければ、休んでくれ。ピット族が私達の生活に合わせるのは大変だろう」


 ピット族は身体の大きさの割には、よく食べる種族だ。一日5食が平均らしい。ピルンはあまり太っていないが、きっと、運動量が多いからだろう。


「無理をしているという程ではないのですが……。いえ、ありがとうございます。さっそく、二度目の昼食に行こうと思います」

「今度、この国の美味しい店を教えてくれ」

「お任せください。それと、風騎士についての資料を置いておきます。良ければ目を通しておいてください」

「お主は本当によく働くのう……」


 嬉しそうな笑顔を残して、ピルンは部屋から出ていった。

 さあ、後は夜になるのを待つだけだ。

サキュバスを見つける準備をすすめるバーツさん達。


次回は夜になります。狩りの時間です。

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