外伝「ヨセフィーナの物語 その3」
「お話は聞いております。中央山地についてですね」
「はい……お願いします……」
グランク王国の端っこ、中央山地に一番近い冒険者ギルドに到着しました。
ヨセフィーナの移動速度よりも早く、マキシムの連絡が行っていたようで、身分証を見せるとすぐに受付の人が書類を持って来てくれました。
待っている間、ギルド内の男性達がこちらを見ていましたが、気にしません。それにしても男性が多い気がしましたが、冒険者は荒事主体のお仕事ですから、そんなものなのでしょう。
書類を持ってきた受付の女性は難しい顔をしていました。
「それで、中央山地の頂上付近についての情報が欲しいということですが……」
「なにもなかったですか……」
「はい。申し訳ありません……」
マキシムに頼んでおいたのは中央山地の山頂付近、かつてバーツ様とフィンディ様が神界へと旅だったあの場所の情報です。
何事もなければ今も神殿があるはずなのですが、過酷な場所なので情報は期待できません。
「ですが、中央山地で活動する冒険者の多くが予定を超過していること。ずっとこの地域で活動している特徴があります」
「それは珍しいことなのですか……?」
「はい。通常、依頼を超過すると報酬が減らされますから。それを繰り返すなら能力的に足りないということなのですが、それでもこの地域で活動するのは珍しいです」
つまり、この地域特有の何かがあるということでしょうか。
「冒険者に直接聞けばいいのでは……?」
「それが、あまり要領を得ないのです。仕事はしているのであまり強く出れなくて」
なるほど。なにか事情があるのは間違いないようですね。
「わかりました。ヨセフィーナが直接行って調べて来ます。あ、一緒に適当な依頼をいくつかください」
「中央山地の依頼は魔物退治が中心なのですが……」
「ヨセフィーナは魔族です。実力には自信があるのでご心配なく」
見た目は子供ですから、心配されるのは仕方ないと思います。
そこは信用してもらうしかないでしょう。
「いざとなれば、ヨセフィーナは調和神が守ってくれます。魔王城の魔族は加護が濃いので」
「そう聞いております。どうか、お気をつけて」
魔物退治の依頼書をいくつか貰って、ヨセフィーナは冒険者ギルドを後にするのでした。
○○○
中央山地へは電車ではなく馬車を使って向かいました。
まだ電車の整備はできていないのですが、街道は綺麗に舗装されているので快適です。
魔王城を出て一週間もしないうちに、ヨセフィーナは中央山地の山奥の村に到着しました。
ここはグランク王国とドワーフ王国が共同で作った新しい村で、山奥とは思えないほど資材が投入されています。
建物は新しく、街の中心部は石畳。役場に冒険者ギルドの支部まであります。
「ここからは登山ですか……」
山道を見つめて呟きます。
役場で聞いたところ、周辺の治安は良好。冒険者が頑張ってくれているらしいです。時間はかかっているけど、結果は確かに出しているとか。
不可解ですが、良しとしましょう。
あと一応、調和神の加護に魔物を避けるものがあることを伝えておきました。
せっかくですから、バーツ様を布教しておくのを忘れません。
「えっと……たしか飛行用の鎧があったはず……」
ヨセフィーナが意識を魔王城の本体に飛ばすと、自動的に銀色の鎧が体の周りに生み出されました。
鎧は薄く軽く、重さを感じない上に、肩当てなどのないシンプルなものです。これならローブの下に着込めます。
これは飛翔の鎧。サイカ様がヨセフィーナに命じて製造した魔術具の一つです。
ヨセフィーナの能力は魔王城とその備品を作り出すこと。魔王様の魔力とアイデア次第でいくらでも装備品を生み出すことが出来るのです。
今こうしてヨセフィーナの体に鎧を生み出したのも、能力のちょっとした応用です。
中央山地の山頂へは曲がりくねった山道と洞窟を抜けなければなりません。
面倒なので、飛んで近道させて貰います。
「では、いきます……」
声と同時に、魔術具が起動。周囲の空飛ぶ魔力が球状に張り巡らされ、ヨセフィーナの体が浮かび上がります。
「頂上へ……」
浮上した体は一気に加速。彼方に見える中央山地の天辺目掛けて飛翔を開始します。
開拓の村は一瞬で小さくなり、周囲の景色がどんどん眼下へと移動します。
これならあっという間に山頂に到着するでしょう。
「……………あれは?」
なんだか眼前に大きな影が複数見えます。
「……魔物ですね」
体の周りを魔力で光らせながら飛んでくる人型を見て獲物と定めたのでしょう。
巨大な猛禽の群れがヨセフィーナ目掛けて襲いかかってきました。
確か、魔物退治の依頼書にも載っていた気がします。ロック鳥の子孫、あるいは亜種とか書かれていました。
本物のロック鳥は象を何頭も掴めるほど大きかったですが、似ていると言えば似ています。
「えっと……魔術式ガトリングガン……でしたっけ?」
曖昧な意志でしたが、ヨセフィーナの本体は答えてくれました。
すぐさま、ヨセフィーナの身体より遙かに大きな筒状の武器が転送されてきました。
なんでもサイカ様の故郷の世界の武器を再現したものだそうです。
いくつもの細い筒が連なったこの武器は、魔力の矢のようなものを高速かつ大量の発射します。
莫大な魔力を持つものでしか扱えませんが、ヨセフィーナなら問題ありません。
「いきます」
引き金と呼ばれる部品を引くと、すぐに攻撃が始まりました。
小さな音と軽い衝撃に比して、冗談のように大量の魔力の光弾が超高速でガトリングガンから放たれます。
圧巻です。攻撃は一瞬で前にいたロック鳥亜種の群れに殺到しました。
大きさ相応の頑丈さも持っていたはずの魔物達の大半が光弾を受けて一瞬で四散していきます。
「すごい……」
あっけなさすぎます。サイカ様、なんて恐ろしい物を作ったのですか……。
これはどちらかというと破壊神側の武器な気もして、使うのに躊躇するレベルです。
「悪いけど、逃がしません……」
生き残ったロック鳥亜種が逃げだそうとしますが、ヨセフィーナは見逃しません。
中央山地の魔物は凶暴で、うっかり下界に降りたら大変な災害になってしまいます。
「調和神の教え『力尽くでいけそうならいってみる』を実践します……」
やはりこの教えはどうかと思います、バーツ様……。
今度その辺りの調整をしっかりするべきでしょう。
そんなことを思いつつ、ヨセフィーナは残りの魔物を駆逐すると、中央山地の頂上へと向かったのでした。
小柄な女の子に巨大武器はロマンがあると思うのです。




