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外伝「遅すぎた女」その2

 グランク王国は街の各所に魔術による灯りが充実しているおかげで、どの街も夜になると美しい夜景を生み出すことで有名な国です。

 王都となればなおさらで「金貨100万枚以上の価値がある」と詩人に歌われるほどのものです。


 わたし達は、その夜景を見下ろす最高の場所の一つ、王城のテラスにいました。


「本当に大丈夫なの、それ」

「黎明の国の研究者から教えて貰ったサキュバス探索用の魔術です。効果も実証済みですよ」


 不安そうに問いかけるサイカ様に、わたしは自身を持って答えました。

 今、わたしの手には一本の杖があります。短めのワンドなのですが、ピット族のわたしにはちょうど良い大きさの杖になります。


 この杖には、風騎士ラルツ様が開発した、サキュバス探索の魔術陣が刻まれているのです。


「ふむ。実績のある魔術なのですな」

「バーツ様達と黎明の国に行ったときに、使っているのを視たことがあります。一定範囲内にサキュバスがいると光の柱が現れます」


 懐かしい話です。あの後、バーツ様が放り投げた神樹の枝でラルツ様が撃墜されたことも含めて、遠い昔のようです。


「作戦としては、杖の魔術でサキュバスを発見次第、空を飛べるサイカとクルッポとピルンが捕獲。単純なもんだぜ」

「ダイテツが働いてないようだけど?」

「国内の情報工作、誰が指示してると思う?」

「ごめんなさい。心からごめんなさい」


 平身低頭謝るサイカ様をダイテツが嬉しそうに見下ろしています。普段は奥様達と一緒にサイカ様にやり込められることが多いので、さぞ楽しいのでしょう。後でしっかり報告しておきますが(サイカ様はダイテツの三人の奥様に非常に気に入られています)。


「まあ、空中戦ができないかわりに、色々調べておいたんだけどよ。情報によると、サキュバスは富裕層の多い住宅街に出没。一度出るとその周辺でしばらく活動するようだ」


 間違いありません。クラーニャ様です。黎明の国の時と動きが同じです。学習しなかったんでしょうか。

 いえ、自由自在に空中戦が出来るのは、どの種族でも一握りです。夜の空のサキュバスを捉えられるものなどいない、という自信の現れでしょう。

 前回の相手はバーツ様とフィンディ様。今回はサイカ様にクルッポ様と、格上ばかりすぐに現れるクラーニャ様が不運なだけです。


「ピルン、いけるな?」

「はい。フィンディ様に頂いた魔術具がありますから」


 フィンディ様はこの世界を去る際に、わたしに沢山の魔術具をくださいました。

 今日はその中から、空中を自在に飛べる【疾風のマント】、姿を隠す【隠行の帯】、大型の魔物すら捕獲する【破魔の網】を持って来ています。

 破魔の網は名前と違い、小さな宝玉で、投げると網状になって対象を縛るという優れものです。

 これだけあれば、捕獲のお手伝いができるでしょう。


「よし、一時間もすれば奴が出てくる時間だ。行くとするか」


 時刻は深夜。住宅地は寝静まり、夜の魔物の時間です。

 人生二度目の、サキュバス狩りのはじまりです。


○○○


「よし。始めるぜ。杖よ、秘された存在を明るみに晒せ!」


 ダイテツがそう言って杖を掲げると、先端から光の球が発射されました。

 光の球は花火のように爆発すると、住宅地一帯に緑色の穏やかな光となって降り注ぎ、あっという間に消えてしまいます。眠っている人々への配慮ですね。



「短文詠唱を使っていないとは、珍しいですな」

「このための急造品ですから。呪文を圧縮する時間がなかったのです」


 あの杖はラルツ様のお手製です。わたしが連絡をしたら、信じられない早さで作って送ってくれました。刻まれた呪文は冗長で、通常行われる短文詠唱のための圧縮は考慮されていません。


「さて……こいつがちゃんと効いてくれれば……」

「でた、あそこよ!」


 流石はラルツ様の魔法です。早くも効果を現しました。

 そして流石はクラーニャ様です、行動に一貫性がありすぎて、初日に補足です。


「クルッポ!」

「承知です! とうっ!」


 クルッポ様が翼を広げて飛び立ちます。力強い羽ばたきで、一瞬で空高く舞い上がりました。


「ピルンさん、いける?」

「もちろんです。ダイテツ、城で待っていてください」

「ああ、気をつけてな」


 軽く手を振ると、城に向かってダイテツが走っていきました。

 それを見送って、わたしとサイカ様も空に上がります。行き先は魔法で探知された光の柱です。


 そこには既に、クラーニャ様が上空にやってきていました。

 両手を組んだクルッポ様と、空中で対面中です。 


「まあっ! 魔王様にピルンさんまで!! こんなところで会えるなんて奇遇ですわ!!」


 わたし達が近づくと、クラーニャ様はとびきりの笑顔で挨拶をしてきました。


「お久しぶりです。クラーニャ様」

「……………」

「ええ、お久しぶり……なんでサイカ様は怒ってるんですの?」


 サイカ様はクラーニャ様に何も言いません。ただ、握った拳が震えているのはよく見えます。


「クラーニャ。四大魔族の一人ともあろうものが、なぜこのようなことを……」


 クルッポ様の咎める口調に、怪訝な顔でクラーニャ様が答えます。


「なぜって、サキュバスとしての本能を満たしてるだけですわよ?」

「…………ええ、それはよく知ってるわ。それでお話があるんだけどね」


 低い声でサイカ様が言いました。怒りのあまり、身体の周囲から赤い魔力が立ち上っています。

 バーツ様達が月を作ったおかげで淀んだ魔力が浄化されたサイカ様ですが、その実力は変わりません。この世界で、最も強い魔族でしょう。

 そして、そんな魔王に怒りの目で睨まれたクラーニャ様は、ちょっとだけ重心を後ろに逃がしました。


「な、なんかご機嫌悪いですわね。これはまた日を改めて……」


 逃げる気だっ。と思った時には、自然と身体が動きました。

 わたしは持っていた【破魔の網】を素早く投擲。


「へ?」


 クラーニャ様が反応できていない間に、呪文を叫びます。


「捕らえよ!」


 わたしの呪文に答え【破魔の網】が展開。クラーニャ様が青白く輝く網に捕らわれました。


「ちょ、なにするんですの! こっちの趣味があったんですの! 公開プレイですの!?」

「黙れ! 深夜に空中で破廉恥なことを叫ぶでない!」

「ピルンさん、助かったわ。ナイスタイミング」

「身体が勝手に動いただけです」


 昔からの癖で、本能的に先手をとろうとしてしまうのです。ダイテツと共にした冒険は、それなりに大変でしたから。


「クラーニャ。話は魔王城で聞かせて貰うとするわ」

「なんですの! 恐いですわ! 恐いですわ!」


 そう言って、恐怖に怯えるクラーニャ様をクルッポ様が背負い、私達は王城に帰りました。

外伝について「このキャラのエピソードが見たい」といったものがあれば感想欄などご要望ください。


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