あなたの手に導かれて、わたしはここまで来た
side:透
4月になり、風も穏やかな日。
春休みも今日で終わりというのに、特に出掛ける予定も無く部屋に居る。
「おはようございま~す!」
俺の家の中に響く声は、俺の彼女の可愛い声。
「いらっしゃ~~い!五十鈴ちゃ~~ん♪」
そして、次に無駄に大きく響く声は俺の母親。
“今日も可っ愛い~~!”と叫んでいる。
ひとしきり、挨拶を終えたのか、トントンっと階段を上がってくる足音。俺の部屋の前で止まり、ノックの音。
「と・お・る」
そーっと、ドアを開けて中を伺うように入って来る。
「今日、暇?」
「暇」
「じゃあ、出掛けない?」
「どこへ?」
五十鈴は“え~っとね”と言って少し照れ笑いをしながら考えている。
と、言うより考えている振りをしているだけのようにも見える。
「あ、あのね、行き先は別にして…」
「?」
頭をペコリと下げて差し出している紙袋。
なぜかリボンが付いていたりする。
「と、透に、プレゼントだよ!」
少し顔を赤らめて、首を傾げて笑う。
五十鈴は“えっとね、えっとね”と言って紙袋の中身を自分で出して見せ付けてくる。
「ほ、ほら、マ、マフラーだよ~~!」
確かにマフラーだ、青色の…。しかも、手編み。
「本当は、透の誕生日に渡すつもりだったんだけど…」
風邪で寝込んじゃって間に合わなかったし、次はバレンタインって思ってたのに、どういう訳か渡すのすっかり忘れてて…っと、しゅんとなって視線を床に落とす。
思わず、可愛くて、頭を撫でてしまう。
「五十鈴が編んだのか?」
パっと顔を上げ「そ、それは…。お、お母さんと合作です」と言ってエヘヘっと笑う。
「詩帆さんにもお礼を言わないとな。でもまず、五十鈴に――」
むぎゅう!と抱き締めると、むぎゅう!と抱き締め返される。
「ありがとう」
「どういたしまして」
五十鈴がマフラーを首に巻いてくれる。
「暇なら、出掛けようよ!」
「いいけど」
「このマフラーしてくれる?」
「………」
暖かな春の日差しの中、このマフラーはどうかと思う。
でも、胸いっぱいに温かさが満ちてくるのを感じてしまう。
だから、身体ももっと温かくなってもいいかもな…と思ってしまった。




