この日、あなたに甘い想いを届けよう 2
side:透
今日の五十鈴は、千星と麻生と少し寄り道して帰ると言う。
こんな日ぐらいは一緒に帰りたいけど…、まず帰ったら真っ先に五十鈴のチョコを食べよう。
隙を見せたら、羽澄に取られてしまう。
羽澄…、朝一番に五十鈴から貰っておきながら、俺の分まで狙っているからな。
(五十鈴、早く帰って来ないかな…)
「透くん、お帰りなさい。独り?五十鈴は一緒じゃないの?」
ちょうど、五十鈴の家の前で詩帆さんと会う。
「これから、晩ご飯のお買い物に行くんだけど、何か食べたいものでもある?」
「え?えっと、何でも…」
「うふふ、透くんもすっかり“旦那さま”ね」
「はっ?」
「結婚すると、男の人って“何でも”って答えるのよ。こっちは食べたい物を訊いて上げてるのにね」
「はぁ」
俺自身、よく分からない。
夫婦の会話っていうものを…。
馨は仕事上、海外勤務の方が長い。
羽澄は羽澄で年中あんな感じだ。
親子らしい事も家族らしい事も、相変わらず疎遠だ。
だからなのか、五十鈴の家に転がり込んでは“家族”というものを疑似体験したくなる…。
「あ、そうそう!忘れないうちに渡しておくわ」
そう言って、詩帆さんは一旦家を出て来たにも関わらず、もう一度中へ入って行く。
俺も後に付いて、入って行く。
「はい、コレ。私から透くんに」
「あ、ありがとう…ございます」
「じゃあ、お留守番、お願いね」
「はい…」
俺の手の中には中身を確認するまでも無い、チョコレートだ。




