62. ジャレットからの手紙
『イェスタルア王国王太子妃殿下
先日は建国記念の晩餐会への出席、誠にありがとうございました。大した挨拶もできなかったことを後悔しております。
こうして手紙を書いたのは、他でもありません。私はあなたに謝罪しなければならない。それなのに、先日は突然の再会があまりにも衝撃的で、きちんとお伝えすることができなかった。
あの日──彼女の葬儀の日。私が感情にまかせてあなたに酷いことを言ってしまったばかりに、その後あなたがどれほど辛い思いをする羽目になったか、今こうして冷静に考えると胸が潰れる思いです。あなたは何も悪くなかったのに、私はあなたを苦しめ続けてきた。決して許されるとは思っておりません。ただ、このまま何事もなかったように日々を過ごしていくことはできませんでした。せめて一言申し上げたかった。
全てのことを謝ります。あなたのことを昔からないがしろにしてきたこと、あなたの努力を無駄にしてしまったこと、彼女に心を移してしまったこと。何もかもです。
私は例の事件の後から、ずっと離宮で静養しておりました。さほど後遺症もなく自分では回復していると思っていましたが、どうもあの晩餐会以降、体調が優れません。ひどい咳や吐血があり、息をするのも苦しい時があるのです。全ては報いだと思っております。
おそらく私はもうじきこの離宮で、独り静かに旅立つのでしょう。もしも向こうであなたの大切な妹君に会えることがあれば、彼女にも心の底から謝罪いたします。
私などが、彼女と同じところへ逝けるとは思っておりませんが。
イェスタルア王国のますますの発展と、あなた様の末永い幸せをお祈り申し上げております。
返事はいりません。どうぞこの手紙は破り捨ててください。
ジャレット・ナルレーヌ』
「……謝罪があったわ、フランシス……」
その手紙を読み終わった私は、しばし呆然とした。
こうして実際に謝罪を受けると、それはそれで何とも言えない妙な気持ちだ。謝ってもらったところで、過去はなかったことにはならない。
だけど。
(晩餐会で久しぶりにお顔を見て、あまりのやつれように驚いた。何か病を抱えているのかもしれないとは思ったけれど……)
手紙に書いてある病状を見るに、きっとあの方はもう長くはないのだろう。ひどい傷を負ったと聞く。やはりそれをきっかけに、体が蝕まれていったのかもしれない。
そうか。逝ってしまうのか、あの人は。
かつては恋心を抱いていた。この方のためにもよき婚約者であろう、立派な王太子妃になろうと努力した日々があった。
私を手酷く傷付けたけれど、私の大切な妹を心から愛してくれた人。
せめてその最期が、少しでも楽であればいいと思う。
(……もういいのです。あなたを許します、ジャレット殿下)
だって新たな愛を得た私は今、こんなにも幸せだから。
返事はいらないと書いてあったけれど、私は当たり障りのない内容のものを書いて侍女に言付けた。
先日はお会いできて光栄でした。どうぞお体をお大事に。こちらもナルレーヌ王国のますますの発展をお祈り申し上げております、と。
(さようなら、ジャレット殿下)




