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【コミカライズ進行中】“呪われた公爵令嬢”と呼ばれた私が自分の生きる道を見つけました!  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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44. 失意の底に

 バサッ! と音を立ててベールが剥がされ、私の栗色の髪と白い肌が露わになった。


「ひ……っ!! お、お前……っ」

「セ……、セレリア……ッ!!」

「あ……っ」


 母と父の引き攣った声が聞こえる。私はただ愕然としてその場に立ち竦んでいた。

 次の瞬間。


「っ!! ……ぐっ……!」


 私は母に、胸ぐらを掴まれていた。


「お前……! お前だったのね……!! お前が私たちを追い詰めていたのか……っ!! またお前がぁぁっ!!」

「きゃぁぁぁっ! リアさん!」

「ち、ちょっと! 何なんですか! 止めてくださいよ!」


 焦ったイブティさんたちの声が、遠くから聞こえる。


「おかしいと思った! こんなにも長い間順調だった家業が突然……っ、お前がやったのか! お前がぁっ! ……生まれた時から、嫌な子だったわ。人に恥ばかりかかせて……! フランシスを死に追いやって……! 今度は私たちの生活まで脅かす気!? ねぇ!! あんた何なのよ!!  ねぇ!!」

「ひぃっ! や、止めてください! リアさんを離して!」

「止めないかカミーユ!」


 首元を力ずくで掴まれてガクガクと激しく揺らされ、息もできない。母の手を引き剥がそうと無意識にその手を上から掴んでいた私の目から、涙がボロボロと零れ落ちる。


「何を厚かましく生き延びてるのよ!! 何で大人しく死んでくれないの!! 行方をくらまして、姿を消して……、こうして私たちを苦しめる方法を、ずっと考えていたわけ!? この、人間のクズ!! 人でなし!!  やっぱりお前は疫病神よ!!  産むんじゃなかった……! お前なんか、産むんじゃなかったぁっ!!」

「っ!!」


 頬に鋭い痛みが走る。うっすらと目を開けると、爪を立てた母の手を、父が力ずくで押さえていた。


「もういい! 帰るぞカミーユ! 落ち着きなさい」

「そっ! そうよっ! かかか、帰ってくださいっ!!」


 イブティさんが私を庇うようにして抱きしめてくれて、母の手から守ろうとしてくれる。


「呪われた娘め! 死ね! 死ね!! うわぁぁぁっ!!」

「…………」

「どっ、どうする!? イブティ。だ、誰か人を呼びに……」

「……いいんです、ヤスミンさん。……誰も呼ばないで……」


 錯乱状態となった母を羽交い締めにするようにして、父は表の馬車に引きずり込むように連れて行った。

 最後に私をきつく睨みつけ、両親は嵐のように去って行った。


「な……何なの……あ、あの人たち……!」

「リアさん、大丈夫……? 手当てをしましょう」


 返事をする気力が湧かない。立ち上がることもできずにへたり込んでしまった私を、二人は両脇を抱えるようにして、店の奥のブースへ運んでくれた。


 その夜。


「リアちゃん、入るよ」


 部屋のドアがノックされ、サディーさんが入ってきた。私はベッドに横になったまま、食事もとらずにただ呆然としていた。

 ベッドサイドにどしりと座ったサディーさんが、私の頭を優しく撫でる。


「あの子たちから聞いたよ。……大変な目に遭っちまったね」

「……」

「……悪かったね、リアちゃん。事情があったあんたのことを、またあたしらがこっちの国に連れ戻しちまったんだ。……酷い目に遭ったのは、あたしのせいさ」


 サディーさんの静かな声を聞き、私はゆっくりと首を振る。サディーさんたちのせいじゃない。決して。


「……両親、なんです……。……今日の……」

「ああ、聞いたよ。……ったく、とんでもない親だよ! 我が娘の何がそんなに気に入らないって言うんだい! そりゃ家を出たくもなるってもんさ。なぁ? リアちゃん」

「…………サディーさん」

「……ん? なんだい?」

「わ、私……、帰っても、いいですか? ……イェスタルアに、戻りたいんです……」

「……リアちゃん……」


 話しているうちに、いつの間にか私の瞳からは涙がポロポロと溢れていた。私の心の中には、ずっとあの方のお顔しか浮かんでこない。


「あ……会いたい人が、いるんです……。どうしても、……会いたい、人が……っ」


 今こんな時に私の心に浮かんでくる人は、あの人だけ。私の愛する人。たった一人の、私の拠り所。


「……ああ。もちろんだよ。あんたがそうしたいなら、帰りな。……でもあたしらは、まだ当分ここにいることになる。あんたがいつ戻ってきても、ちゃんとあんたの居場所はここにあるんだからね。いいかい? ……もしも、思うようにならないことがあったら、ちゃんとこの場所に戻ってくるんだよ」


 何度も念を押してくれるサディーさんは、きっと分かっているのだろう。私がアヴァン殿下に会いたがっていることを。そしてもう、殿下は私などを待ってくれてはいないかもしれないことを。


(……サディーさんって、実の母よりもずっと“お母さん”らしいなぁ……)


 私はまた新しい涙を零しながら、言葉もなく何度も何度も頷いた。

 それにしても。

 こんな風に、全身違う国の衣装に身を纏って、髪も顔もベールで覆い隠して。

 それでもただ目が合っただけで、娘だと気付くものなのね。私のことを欠片も愛していないはずの、あんな人たちでも。

 やっぱり家族って、家族なんだな……。

 なんて、頭のどこかで冷静に分析している自分がいた。






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