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【コミカライズ進行中】“呪われた公爵令嬢”と呼ばれた私が自分の生きる道を見つけました!  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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35. リアへの想い(※sideアヴァン)

 リアの様子がおかしい。

 俺が呼び出せば、必ず会いに来てくれる。その瞳の奥に俺と同じ熱が灯っていることは充分に伝わるのに、最近のリアは何故だか、俺との間に見えない壁を作っている気がする。

 一体どうしたのだ、何か悩みがあるなら話せと言っても、逡巡しながら結局ははぐらかす。


『……お、お店が……とても忙しくて。また店舗を増やすことになったのです。……それで……その』


 店が忙しいから疲れているということか。こうして俺が呼び出すのが負担になるかと問うてみた。だが。


『いっ、いいえ! そのようなことはございません! 殿下と過ごさせていただくこの時間は……、わ、私の、……何よりの幸せでございますので……』


 彼女は頬を染めながら、そんな可愛いことを言う。


(……俺はお前のためならば、何でもしてやるというのに)


 どうしても気にかかる。俺の直感が、何か放っておいてはならない事情があると告げている。胸騒ぎがするのだ。


(……会えば会うほどに惹かれる。……リア……)


 可愛い女だ。これまで出会ってきた誰とも違う。その上品で美しい容姿に、深窓の令嬢のような頼りなげなか細さ。それでいて、自分の足でしっかりと立ち人生を歩んでいこうとしている者の持つ、凜とした強さも兼ね備えている。だが時折それが危なげで、一瞬たりとも目を離したくないとすら思う。

 要するに、俺がリアに心底惚れてしまっているというだけの話だ。リアのためなら何でもしてやりたい。

 ……いっそのこと、すぐにでも……。


「アヴァン殿下、王妃陛下がお呼びだそうでございますよー」


 思いを巡らせていたその時、側近のレナトが部屋にひょこっと戻ってきた。


「またヴィセンテ王太子殿下が行方知れずでございます。深ーい溜息をついておられましたよ、王妃陛下」

「……そうか」

「まぁ、いつものように平民街のあそこやあそこでお楽しみでいらっしゃるのでしょうけどね。困りものですね。ヴィセンテ殿下の女遊びは病気レベルですよ、まったく。……そのうち本当に病気もらってきそうだな」

「おい。そういうことを大きな声で言うなレナト。誰かに聞かれれば俺も庇ってやれなくなるぞ」

「はいはい」


 大して反省した風でもない側近は肩をひょこっと竦めると、ちらりと俺の顔を見る。


「王太子殿下があんな調子なんだから、国王陛下も王妃陛下もあなた様に期待をお寄せなんですよ。ご存知でしょう? それなのに……あなた様までまさかの平民女に入れ込んでしまって。一体どうするおつもりなんですか? あの娘を。え?」

「おい。リアを兄上の遊び相手の女たちと同レベルで語るな。お前だってこう頻繁にリアの姿を目にしていれば、もう分かるだろう」

「実は彼女がただの平民ではないということが、ですか?」


 やはりこいつは馬鹿ではないらしい。仕事と勉強はできるが女を見る目が壊滅的にないのではないかと思っていたが。

 立ち上がった俺に上着を着せながら、レナトは喋り続ける。


「何なんでしょうねぇ、あの子。ナルレーヌ王国のお姫様ってわけではさすがにないようですが……高位貴族の出身かなぁ。だとしても、何らかの事情アリで生家を出るか追い出されるかして、平民落ちしてるってことは間違いないわけじゃないですか。あなた様が深く関わるお相手ではありませんよ。あの子を第二王子の妻にするわけにもいかないでしょう?」

「……そんなもの、どうにでもできる」

「げー。すっかり入れ込んじゃってこの方は。困ったもんだ」

「おい。出るぞ」

「はいはい」


 好き放題失礼なことを言っていたレナトだが、一歩部屋を出ると即座に黙り、静かに俺についてくる。その顔は完全に第二王子側近の表情だ。




「ヴィセンテはまた()()しているわ」

「はい。聞いております」


 母上は俺の顔を見るやいなや、真っ先に兄上のことを口にした。こめかみを押さえながら大きく息をつく。


「……困ったものね。あんな風になってしまうなんて。小さな頃からしっかり教育を施してきたつもりなのに、王太子としての自覚がまるでない……。育て方がいけなかったのかしら」

「……一時的なものかもしれませんよ。兄上も、ご自分の責務はきちんと把握していらっしゃるでしょうし」


 そんなことまるっきり思ってはいなかったが、俺は慎重に当たり障りのない返答をした。この後自分に火の粉が降りかかってくるかもしれないと思うと、迂闊なことは言えない。今さらわざわざ兄上の素行について俺と語り合いたくて呼び出したわけでもないだろう。


「一時的なものだなんて、とても思えないわ。それにしては長すぎる遊び癖でしょう。スアレス公爵家に多額の慰謝料を支払って婚約を解消してからもう二年……。あの子はもうダメかもしれないわね。あまりにも自覚がなさすぎる。少なくとも陛下は、すでにヴィセンテを見限っていらっしゃるわ」

「……。」

「アヴァン。あなたにすべてがかかっているわ」

「……はぁ」

「あなたも分かっているでしょう。いい加減、しっかりした家柄の令嬢を娶って、身を固めてもらわないとね」


 ……やはり来たか。


「……最近、よくあなたのところに来ているそうじゃないの、あの仕立て屋の子」


 ……だろうと思った。


「私の心配は分かってくれるでしょう? アヴァン。あなたにまでヴィセンテのようになってもらっては困るのよ。婚約をしたがらなかったのは、まさかあなたまで身軽に遊んでいたいから、なんて理由ではないわよね?」


 俺は大きく溜息をつく。


「……そんなはずがないでしょう、母上。きちんと見極めた上で、納得のいく女性を妻にしたかったからですよ。何度も話したじゃないですか。リアとはそのような関係ではありません」

「あら、そうなの。それならよかったわ。私はてっきり……」

「兄上のように、リアをただ自分の欲を発散するための遊び相手にしているのではありませんよ。俺は彼女を心から愛しています」


 俺の言葉を聞いた母上の顔が、瞬時に引き攣る。


「な……何を言っているの? あなた。だとしたらますます大問題よ。可哀相だけれど、もう会うのはよしてちょうだい」

「何故ですか」

「何故って……もう……! 分からないはずがないでしょう? あなたはこのイェスタルア王国の第二王子、それももしかしたら、王太子になるかもしれない第二王子なのよ。異国から来た平民の女性と結婚させるわけにはいかないわ」

「ご安心ください、母上。リアは平民ではありませんよ。知識も教養もありますし、おそらく行儀作法や公の場での立ち居振る舞いも完璧でしょう」

「……どういうこと?」

「まぁ、もう少し時間をください。納得いただけるような形にしますので。それでもどうしてもリアでは駄目だとおっしゃるのであれば、その時はお望み通りどこぞの良き令嬢と結婚しますよ。……失礼いたします」

「アヴァン!?」


 まだ何か言いたくてたまらなさそうな母上に挨拶をするとすぐに背を向けて、俺は早々に母上の前を辞した。

 俺だって、本当はすぐにでもリアに結婚の話をしたかった。だが好きな仕事をしながら生き生きと嬉しそうにしている彼女の姿が可愛すぎて、それをすぐに奪ってしまうような提案をするのは気が引けた。リアが故郷で、これまでどんな人生を送ってきたのか詳しくは知らない。だが、妹以外の家族とは縁が薄かったと話していた時の彼女の表情は、暗く悲しげだった。辛い事情があったのだろう。せっかくここへ来て新しい人生を謳歌しているリアから楽しみを取り上げることになるのかと思うと、迷いがあった。どうせもう、俺の気持ちは変わらない。ならばもう少し、自由な人生を楽しむリアを見守っていてもいいのではないかと。


 しかし、こうなった以上、もうそろそろ話をしなくてはなるまい。




 


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