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【コミカライズ進行中】“呪われた公爵令嬢”と呼ばれた私が自分の生きる道を見つけました!  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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34. 切ない葛藤

「……よく似合っている」


 私の耳にそっと手を触れながら、アヴァン殿下は満足そうに微笑んだ。

 あまりにも高価な物で、私にはもったいなくも思い、また殿下にいただいた物を絶対になくしたくないという気持ちもあって、普段は大切に鍵のかかる引き出しにしまい込んでいる三日月のイヤリング。

 でも今日は、着けてきた。殿下がこうして喜んでくださる気がしていたから。


「……ありがとうございます。大切にしておりますわ」


 こんなにしょっちゅう呼び出していただいても、そのたびに新しいお召し物を買われるわけではない。いくら王族とはいえそんなことをしていたら、あまりの散財っぷりにきっと大臣たちから小言を言われてしまうだろう。

 最初こそ仕立て直しとか、注文したいものが……とか、呼び出されるのに表向きの理由があったのだけれど、今ではただ使者が店にやって来ては「殿下がお呼びでございます」と言われるだけ。そうやっていつお会いできるかも分からないから、私も毎日できるだけ綺麗な衣装を身につけ、丁寧にお化粧をしてから店に出勤している。サディーさんに「あんた最近ますます綺麗になったじゃないか、リアちゃん。こりゃ一体どちら様の効果かねぇぐふふふ」なんて言われるようになったぐらいだ。私が大した用もないのにしょっちゅう王宮からの使者と共に出かけ殿下のもとに通っているから、薄々、というか完全に察しているようだ。でも時折憐れみを含んだ切なげな表情で、皆が私を見ていることがある。


『身分違いの恋をしてしまったのね。決して結ばれることなどないのに。かわいそうに……』


 皆の顔には、大きくこう書いてあった。

 ……心配をかけてしまって申し訳ない。

 自分でもよく分かっている。こんな逢瀬を繰り返していても先はないし、きっと殿下の周りの人たちだって私のことをよく思ってはいないだろう。身の程知らずの浮かれた平民、殿下を誑かして一体何を企んでいるのか。……そう思われていても不思議ではない。

 ごめんなさい、本当に。もう少しだけ……。どうせもうすぐ、お会いすることもなくなるのだから。私はラモンさんたちを手伝うために、もう少ししたら母国に帰る。そうなれば、アヴァン殿下とのこの夢のような時間も終わってしまう。

 私たちの縁は、どうせもうすぐ切れてしまうのだから。


「……リア?」

「っ! あ、は、はい、殿下」

「どうした? 今日はやけにぼうっとしている。……どこか悪いのか?」

「いっ、いえ……。そういうわけではございません。……その、」

「……」

「す、少し、気にかかることがありまして……。それだけです。申し訳ございません」

「……話してみろ。お前が浮かない顔をしていると俺が困る」

「……えっ?」


 殿下の憂いを帯びた表情を見つめると、ふいに私の体は殿下に抱きかかえられ、そのままソファーに運ばれる。


「っ!? でっ! 殿下……っ!?」


 膝の上に抱かれて、大きな手を頬に添えられ殿下の方を向かされる。


「っ!!」

「お前に何か悩みがあるのなら、俺がどうにでもしてやる。お前の心に雲がかかっているのなら、俺がそれを払ってやる。俺はいつも、お前には笑顔でいて欲しいのだ」

「……殿下……」

「……リア。……お前が可愛い」


 優しく温かな手で私の頬をそっと撫でると、ふいにアヴァン殿下はゆっくりと私に近づき、そのまま私の唇に自分の唇を押し当てた。驚いて咄嗟に硬直したけれど、唇を重ねたまま宥めるように私の背を擦る殿下の手つきに、力が徐々に抜けていく。私は目を閉じ、その優しい熱にうっとりと身を任せた。


(ああ……。ずっとこのままでいられたら……)


 殿下の優しさと愛を享受する喜び。身を裂かれるほどの寂しさ。いつの間にか私の頬を熱い涙が流れていた。




(……結局、話せなかった……)


 ナルレーヌ王国へ戻ることを、できるだけ早く話さなくては。そう思っていたのに、いざお会いしてあの方の熱のこもった紫色の瞳を見つめると、何も言えなくなってしまった。

 でも、このままではダメ。疑う余地もない殿下の熱い想いは、もう充分に伝わってきている。

 私だけではない。アヴァン殿下にだって、別れのための心の準備は必要なはずだ。


(次こそ、言わなくては。必ず……)


 どうして好きになってしまったのだろう。よりにもよって、あんなにも遠いところにいるお方を。

 あの方が平民だったら。あるいは私が公爵令嬢のままだったら、どんなによかっただろう。国交を始めた国の公爵令嬢のままの方が、まだ結ばれる可能性はあっただろうに。

 その夜。自室で大きな溜息をつきながら、どうにもならない恋の苦しみに私は頭を抱えていた。







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