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【コミカライズ進行中】“呪われた公爵令嬢”と呼ばれた私が自分の生きる道を見つけました!  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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19. 今までの自分、これからの自分

 日々は順調に過ぎていった。

 朝起きて身支度を整え、サディーさんと一緒に朝食を作る。それをラモンさんとサディーさんと三人で食べ、その後一緒にお店に出勤する。夕方頃までイブティさんやヤスミンさんたちと共に働き、店を閉めた後に裁縫を教わる。その後、皆で一緒にラモンさんとサディーさんのうちで夕食を食べる。時折、近場のレストランに行くこともあった。

 お店が休みの日になると、使わない端切(はぎ)れや古くなった布などをサディーさんからたくさん貰い、部屋で一人裁縫の練習をして過ごした。時折ラモンさんたちに連れられて、街へ買い出しに出かけたりもする。

 ここへやって来てからのこの数週間、毎日が新鮮で楽しくて仕方がなかった。


(ここへ来て大正解だったわね。こんなに日々が充実するなんて……! 人生の中で、今が一番楽しいわ)


 ただ一つ。フランシスがいないことだけが辛い。

 あの子のあの愛らしい笑顔を見ることが、柔らかな頬をそっと撫でてあげることがもうできないということが、たまらなく寂しい。

 毎日夢中になって働いて、笑って、勉強して、夜ようやく静かな中で眠りに落ちていく瞬間に、私はいつもあの子のことを想った。




「……」


 その日も私は、朝から部屋でチクチクと布を縫いながら、これまでの自分の人生について思いを巡らせていた。

 物心ついた時には、すでに様々な教育を開始していた子ども時代。その言葉の意味もよく分からない頃から、あなたは将来ジャレット殿下の妻となるのだと、周りの大人たちから何度も何度も言われ、遊ぶ暇などほとんどないほどに毎日勉強ばかりしていた。そしてそれこそが自分の使命なのだと心に刻み、どんなに辛い時でも怠けることなく励んできた。

 でもそんな私に、両親は冷たかった。兄や妹には向ける優しい笑顔を、私にだけは向けてくれない。私のどこが悪いのだろうかと悩み続けた日々。自分なりに両親から気に入られようと、必死だった頃。そして、努力などではどうにもならない、この茶色の髪や瞳が気に入らないのだと知った時の絶望。

 ジャレット殿下へのひそかな想い。殿下が明らかに私ではなくフランシスを、情熱を秘めた瞳で見つめていることに気付いた時の悲しさ。彼がだんだんと露骨に、私を邪魔者扱いしはじめた時の苦しさ。殿下から婚約を破棄され、これまでの妃教育の全てが無駄になったと分かった時の虚無感。

 そして、フランシスの死。母から、殿下から向けられた激しい憎悪。よりにもよって、あの可愛いフランシスを殺害したのが私だと決めつけられ、呪われた公爵令嬢などという不名誉極まりない烙印を押された。

 何が私がフランシスを殺めただ。犯人が見つかったら、私がこの手で制裁を加えたいほどなのに。

 あの子だけが、私の心の支えだったというのに。


(……思えば本当、ろくな人生じゃなかったわねぇ……。フランシスがいなかったら、私きっと早々に精神を病んでいたわ。ね? フランシス)


「すごいじゃないかリアちゃん!!」

「ひぐっ!!」


 完全に自分の世界に入り込んでいた私は、突如大きな声で名を呼ばれ飛び上がった。びっ……びっくりしたぁ……。心臓がバクバクいってる……。


「サ、サディーさん……」

「昼食ができたから呼びに来たんだよ。すごいじゃないかこれ! あんたこれ、全部今日一人で縫ったのかいっ? え!?」

「……あ」


 過去に思いを馳せながら縫い物に没頭しているうちに、手元にはたくさんのギャザーが出来上がっていた。立体的な美しい皺を出すための練習を、無意識にずっとやっていたらしい。ドレープの練習やレースの重ね縫い……。気付けば辺りには、所狭しと私の練習の証が散乱していた。


「ごっ、ごめんなさいサディーさん! お昼ご飯の準備を手伝わなくて……」

「いやいいんだよそんなこと! ねぇそれよりさ、あんたもうこんなに上手に縫えるようになったのかい!? はぁーーー大したもんだ。たまげたよこりゃ! へーぇ……」


 サディーさんはそこらに散らばった布を拾い上げては顔を近付け、その縫い目を穴があくほどじーっと見つめている。


「あんたやっぱりすごい子だよリアちゃん!」

「い、いえ、そんな……」

「いや本当だよ。筋が良い。たった何週間かでここまで上達するなんてさぁ。あたしゃ驚いたよ。先が楽しみだねぇ、この子は」

「ふふ。嬉しいですわ。頑張ります」

「ははは。さ、一旦休憩しな。スープを作ったよ」


 サディーさんはニコニコしながら、先に部屋を出て階段を降りていく。私は部屋に散らばった布たちをぐるりと見渡した。

 そんなに褒めてもらえるなんて。たしかに上手にできることが日々増えていくのは、とても楽しい。両親には認めてもらえなかったけれど、ドレスのデザインを考えるのが好きで、裁縫が楽しくて……。これも結局はバーネットの血筋ということなのかしら。


(この国に来て、まるで新しい自分になったようなつもりでいたけれど、やっぱり私はバーネット公爵家の娘、セレリアなのよね)


 辛い思い出ばかりだけれど、そんな中で培ってきた今までの自分を土台にして、その上に新しい自分を積み重ねて、これから生きていくのよね。


(今はまだ何もできない私だけれど、バーネット公爵家に生まれて今まで積み上げてきた何かが、これからの私の人生に、生き方にきっと役立つはずだわ。見ててね、フランシス)







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