押し掛けフレンズ
日曜日、見知さんが開発したストーカー対策用無線機の完成披露会と使い方の説明を兼ねて、まだ茅ヶ崎から戻らない水菜ちゃんを除く新聞部一同と、万希葉、静香、留寿都の三人が俺の部屋に集まった。
万希葉はここまで来る間にストーカー被害を受ける可能性があるため、静香と留寿都に付き添われて来た。
なんでクソ狭い俺の部屋に集まるのか良くわからんから見知さんに訳を訊いたら、駅近で便利だかららしい。
しかも俺がズボンを脱いでパンツに手を突っ込みながら気持ち良く眠ってる間に突然押し掛けて来やがったから、エロ本が踏み場もないくらい散乱してるし、ごみ箱には夢を膨らませた後のティッシュが大量に詰まってる。
だが、一番の問題はそれじゃない。こんな部屋を見ても誰一人動じないことだ。勇や新史さんは男だから兎も角、女子さえもエロ本などないかのように平然としている。しかも麗ちゃんまで。
これはアレか? アレだよな。俺の部屋がこういう状況であるのがみんなにとって容易に想像出来るからだよな。
エロ本をベッドの下や押し入れに隠して整理整頓された部屋を装ったとしても、万希葉あたりが勝手に漁ってあっさりバレるパターンだよな。
「ねぇねぇねっぷくん、あれなあに?」
留寿都が洋服箪笥の上に置いてある虫カゴを見て言った。下がクリアのプラスチックで、屋根に黄緑色の通気フタが付いてるヤツだ。
中には土が敷き詰めてあって、蒟蒻畑みたいなカップに入ったままのカブトムシ用のエサを土に詰めて置いてある。
「あぁ、あれか? あの中にはカミキリムシの“かみきりん”が住んでるんだ! 玄関前の側溝を這ってたから捕まえた」
説明すると、留寿都は見せて見せて〜! と言ったので、俺は虫カゴをテーブルの上に持って来てみんなに見せた。
「わ〜ぁ、かみきりんカワイイね!」
留寿都は虫カゴをのフタを開けて、エサを食べているかみきりんの長〜い触角をツンツンした。飛んで逃げないかちょっと心配だが、部屋の中だから大丈夫だろう。
「だろ!? 留寿都にはかみきりんの良さが解るんだな!」
女子は虫が嫌いなヤツ多いけど、大丈夫なヤツも居るんだな!
「萌香でいいよ!」
留寿都はニコッと俺を見て元気良く言った。
「そうか! 萌香はなかなかイイセンスしてるぜ!」
留寿都、じゃなくて萌香は親しみやすいキャラだな!
「でしょでしょ!? そう思うでしょ!! 私のセンスを見抜くねっぷくんもセンシティブだよ!」
「がーははっ! そうだろそうだろ! 萌香は神威マニアゴールド認定だ! ゴールド認定者は俺のジャーナリズムを以って仕入れたあらゆる情報を知る権利があるぜ!」
「エヘヘー、なんだか良くわかんないけどありがとー」
萌香は右手で後頭部をポリポリしながら喜んでいる。素直でイイヤツだぜ!
「おう!」
「ねぇねっぷ」
かみきりんを見た万希葉が不意に話し掛けてきたのだが、何処かぎこちなく、苦い表情だ。
「おうおう! 万希葉もかみきりんの良さが解ったか!」
苦い表情のまま万希葉は言う。
「これ、ゴキブリじゃない?」
万希葉の指摘に萌香はポカンとしたが、他のみんなは納得の様子。
「うん、そうだねぇ。これはチャバネゴキブリという種類だよ」
見知さんが冷静に言った。
「そうか! じゃあ今日からお前は“ごきぶりん”だ!」
なんだ〜、ゴキブリだったのか〜。かみきりん、じゃなくてごきぶりん、命名する前に申し出て欲しかったぜ!
まぁ、カミキリムシだろうがゴキブリだろうが毒針刺したり噛み付いたりしないだろうし、ひとつの命であることには変わりないから大した問題じゃないけどな!
「えっ!? それだけ!?」
何故か驚き釈然としない様子の万希葉。
「なんだ、名前変えたし、何か問題あるか?」
ごきぶりんはすっかり萌香に懐いて、彼女の手の上をノソノソ這っている。
「あははー、ごきぶりんカワイイ♪」
ごきぶりん、新しい友達が出来て良かったな!
「えっ!? ちょっと!? ゴキブリでしょ!? 殺さないの!?」
「なんだなんだ殺すなんて物騒だな~。ごきぶりんが万希葉の大切な人とかモノに何かしたか?」
「いや、別にしてないけどさ、ゴキブリ出たらフツー殺さない?」
「万希葉ぁ、万希葉はいつからそんなに悪いヤツになったんだ? 見損なったぞ」
「えっ!? えっ!? なんでなんで!?」
「みんな、別にごきぶりんを殺そうとか思ってないよな」
俺は全員を見回して問うた。
「あぁ、うちはゴキブリ出た事ないから殺虫剤ないし、出てって欲しかったら逃がせばいいんじゃね?」
「アタシも勇と同意見だな! ってか虫とか気にしねぇ」
「僕は新聞紙に乗せて外に出す、かな?」
「私も家で見た覚えないし、特に気にしないねぇ。それよりムフフなピクチャーやムービーでハァハァしてたほうが有意義な時間を過ごせるよ。麗姫はどうだい?」
勇、静香、新史さん、見知さんの順で答えた。
「私は、えーっと、虫は無視…。あっ…」
麗ちゃんは両手をピンと伸ばして太ももに押し付け、頬を紅に染めた。く〜ぅ、何気に可愛いぜ! しかもギャグセン高い! だが周囲は何故か唖然としてて微妙な空気が流れてる。
「がーはっはっ! 麗ちゃんは何気に冴えてるからな! 萌香はごきぶりん殺したいのか?」
「え〜、こんなに可愛いのに殺すなんて出来ないよぉ」
「だよな! 万希葉よ、残酷な発想はもうやめるんだ。だが誰しも欠点はある。万希葉は今日、それを補うチャンスを与えられたんだ! これを機に、もっと命を大事にするよう心掛けるといいぜ!」
「えっ!? なにそれ!? これじゃまるで私が悪者じゃない!」
「だから万希葉が悪者にならないようにみんなが協力してくれたんだ! 良かったな!」
「えっ、えっ、えーっ!?」
この間、ごきぶりんは萌香の手を伝って虫カゴへ戻り、再びエサを食べ始めていた。食欲旺盛だな!
その後、見知さんから無線機の性能や使用方法についての説明があったが、これは改めて紹介するとしよう。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
更新が夜遅くなりまして失礼いたしました。
ちょっと東京ビッグサイトで買い物してきました。




