表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御厨ナギはいちゃいちゃしたい  作者: 希来里星すぴの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/95

46 過去話 ともだちどうしですることぜんぶ ハルカ視点

noteの方で、裏話、小ネタを掲載していってます

https://note.com/kirakiraspino/n/n7baa5c7a78e5


noteではこちらの前日譚「0話」も公開中

https://note.com/kirakiraspino/n/na36abbadd334

 入学式から時が過ぎても、クラスメイトの藤原への態度は変わらなかった。

 アタシもかなっぺがやたらとこの子に関わる前はあっち側だったから、責める資格は無いんだけど、この子別になにもしてないじゃん。

 見た目が派手だけど、ちゃんと授業を受けるし、先生に指された時だってきちんと答えられるからおそらく予習・復習もやってるんじゃないかな。

 それに小、中学に通ってないと言ってたけど、自己勉強だけでこの進学校に入れるなんて並大抵の努力じゃない。

 かなっぺとの会話の中で聞いたけど、家庭教師に勉強を見てもらってたと言ってたか。

 家庭教師を雇う、しかし学校には通ってないというのに違和感を抱いたけど、他人の家の事情だしな。

 もしかしたら子供の頃は病弱だったかもしれないし、各地を転々としていたというから親御さんが転校の手続きを嫌がったのかもしれない。

 もっともまだこの子の家庭環境を知らない。 

 会話にちらっと母親は出るが、父親は一切語られない。

 死別したのか、離婚したのか、それともそもそも結婚をしていないのか。

 アタシが関与する話じゃないけど。


 さらにいうと、この子は高校入学と同時に一人暮らしでバイトまでしてる。

 未成年なのに親元を離れて暮らしてるのがどういった事情なのかは知らないけど。

 最初は距離を取ってたけど、悪い子じゃないなってわかった。

 とはいえ、最初にアタシが藤原に感じてた嫌悪感はあの子にも伝わってたようで、アタシたちはかなっぺが居ないとぎくしゃくした関係だけど。


「あ、財布持ってない。先に食べていて」

 3人でいつもの場所で昼食を取ろうという時に、昼休憩の時に持ち歩く巾着袋に小銭入れが入ってないのに気づいた。

 このままじゃメロンパンのお供のカフェオレが買えない。

 流石に飲み物なしじゃメロンパンは厳しい。

 さっと教室に行って財布を持って購買の自販機で買わなきゃ昼休憩の時間がどんどん減っていく。


 1人踵を返して教室に入ろうという時にクラスメイトの声が聞こえた。

 それは藤原に対する嘲笑。

 藤原を排除して自分たちの絆を高めようという下衆な声。

 異分子を攻撃して自分たちの結束を高めようというのはニンゲンというかイキモノとしては普通なのかもしれないけど、非常に気分が悪い。

 黒い羊効果(ブラックシープ効果)

 異質な存在である藤原を孤立させる、あの子は自分たちの連帯感を維持するためのスケープゴートだ。

 アタシたちが時間ギリギリまで戻ってこないと知ってるからか、その話は過熱していってる。

 胸糞悪くなってつい大きく音をたてドアを開けるとクラスのみんなが一斉にこちらを向く。

 藤原ではないと気づくと「ビビらせやがって」とか「あのやかましい志島じゃなくてよかった」なんて言ってる。

 アタシもこいつらの仲間認定されてるってこと?

 非常に腹が立った。


「ねえ、なんでそんなに藤原を邪険に扱うのさ。格好悪いよ」なんて言ってしまった。

 それに驚いたのか、一瞬空気が凍ったもののアタシ一人なら御せるとでも思ったのか「学校来るのにあんな格好とか無いわー」だとか「今まで学校に通ってないとかまともな家庭環境じゃない」だの「優待生制度を使って学費丸ごと免除とか格好悪い」「あの態度がいけ好かない」とか口々に言い始めた。

 なにこいつら。

「ピアスしてるの藤原だけじゃないじゃない。他の一年生にももっと派手なの居るよ。金髪とか。あの子の家庭の事情も知らずに言わないでよ」と庇うことを叫んでしまった。

 しかし、白熱した同級生の声にかき消される。

 とはいえ、一部の同級生だけだ。

 短い期間なのにもうスクールカーストが出来上がってる。

 大半の子は我関せずって顔で黙々と昼食をとってる。

 それはそれで腹が立つ。


「うるさいんだけど。廊下にまで聞こえてるよ」

 酷く冷たい声が響いた。

 ギクリとした。

「なんで居るの?」

 いつの間にかアタシの後ろに立っていた藤原は表情を変えずにひらひらと右手に納められたモノを見せる。

 それはアタシの小銭入れだった。

「昨日、かなっぺにジュース奢ってって言われて面倒だからってこれ渡してたじゃない。で、かなっぺがさっきそれ思い出して私に返してきてって。そもそも人の財布とっとと返しておきゃいいのになんで2人とも忘れてんの」

 淡々と話す藤原の静かな気迫に一同一斉に黙る。

 まるでお通夜のように静まり返る。

 アタシがこいつらを嫌いなのは、影ではこそこそというくせにいざ本人を目の前にしたら黙りこくるこういう所だ。

 藤原は冷たい視線を投げつけると「行こう。昼休憩無くなるよ」とアタシの手を取ってとっとと出ようとする。

「ちょ、ちょっと待ちなよ。全部聞いてたんでしょ? あんた悔しくないの?」

「別に? 言いたいやつには言わせておけば?」

「なにそれ!」

 カッと頭に血がのぼって手を振り払ってしまった。

 アタシが必死に弁解したのになんでそんなに「どうでもいい」って感じなの。

 同級生らは居心地悪そうに尚もこちらを見てるけど、どうせアタシたちが出て行ったらまた悪口言うにきまってる。

 アタシは悔しい。

 藤原がこれ以上何も言わないと知ると、またクラスがざわつき始めた。

 スクールカースト上位のやつらが藤原だけじゃなく、かなっぺやアタシまでも揶揄してきた。

 アタシなんでこんな思いしてるんだろ、させられてるんだろと思うとなんかやるせなくなってきた。

 ぎゅっと握った掌が痛い。


 藤原はアタシを一瞥した後に軽く頭をぽんぽんと撫でると、同級生らに向かって「私は何を言われたってかまわないよ。だって、来月の中間テストで全員平伏させるから。お利巧さん面してるやつらが、さんざん馬鹿にしてる女に学年首位とられるって考えると笑えるでしょ」と、右手の親指を自分の首を掻き切るジェスチャーをする。

 藤原は見たこともないすごく爽やかな笑顔で言った。

「全員叩きのめしてやるから」

 そしてそのまま親指を下に向け、素早く振り下ろした。

 追い打ちまでかけるとか鬼畜か。


 しんと静まり返ったクラスを出て二人揃って誰も居ない廊下を歩く。

 思わず笑ってしまった。

「あんた、性格悪いって言われない?」

「友達居なかったから誰にも言われたことないな。もっともああやって陰口言う方が性格悪いと思うけど? ……でも私の為に怒ってくれてありがとね」

 隣り合って歩いてたアタシの肩を軽く引き寄せてそんなことを言う。

 イケメンかよ。

 ふわりとフルーティないい香りがした。

 ヘアミストでもつけているのだろうか。

 だから茶色の髪の毛だけど、あまり痛んでいないのだろうか。 

「まったくだよ。もう高校では新しく友達できそうにないぞ。あんたのせいで」

 人付き合いの苦手なアタシは小、中学でもあまり友達が出来なかったから高校ではと思ってたのに。

 でもあんなやつらとは仲良くなれなかっただろうなとも思う。

「ゴメン。ちゃんと責任取るよ。あんたが高校生活で友達としたいこと全部私とかなっぺとでやろう。はるっち」

 人の気も知らないで朗らかに笑う。


「約束だかんね。友達同士ですること全部だよ――みやちん」と軽く彼女の左肩を小突いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ