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128 例の件は一体どうなっているんですの?

 国王マクシミリアンはほどなくして北の離宮に移送された。十三年にわたりヴェロニカ王妃を幽閉した場所に、今度は自分が幽閉される羽目になったわけである。

 もっとも志願した侍女たちと共に幽閉された王妃とは異なり、国王に付き従って離宮に赴くという者はついぞ一人も現れなかった。むろん身の回りの世話をする使用人は付けられるにしても、王妃と比較して物寂しい幽閉生活となるのは避けられない。

 最愛の側妃とその娘以外誰も愛さなかった男は、その二人以外から誰からも愛されることはなかった、つまりはそういうことなのだろう。


 国政は王妃が担っているが、今のところ特に混乱などはなく、むしろスムーズになったと文官たちからも高評価だ。ヴェロニカ王妃はやはり大変有能な女性なのだろう。

 十三年の幽閉がいかにも惜しく思われて、クローディアが「王妃教育が終わったあとも色々とご指導いただけたら嬉しいです」と伝えたところ、王妃から大変喜ばれた。本人曰く「姑が出しゃばるのは良くないから大人しく隠居するつもりだったけど、そういうことなら喜んで助言させていただくわ。でも鬱陶しくなったら遠慮せずに言ってちょうだいね」とのこと。

 クローディアの王妃教育はエイルズワース祭のあとも順調に進んでおり、ヴェロニカ王妃も多忙な時間を割いてときどき進捗を見てくれる。学院の勉強の方も手を抜くことなく頑張っているため、クローディアの方もなかなか多忙な毎日だが、ヴェロニカ王妃はこれに加えて生徒会業務も担っていたのだから、あまりぼやいてもいられない。


 ちなみに今の王立学院生徒会は、生徒会長のアレクサンダーと副会長のリリアナが揃って抜けたことを受けて、少し早めの代替わりが行われた。新たに生徒会長となったのはヴァルデマー辺境伯の三男で、生徒たちからは「気さくで親しみやすい」となかなか好評のようである。


 抜けた側であるアレクサンダーは停学明けから授業に復帰し、まじめに勉学に取り組んでいる模様。特に熱心なのは領地経営学で、授業終わりには赴任予定の王領地に似た土地について色々と質問しているという。やる気のなかった領地経営学の教師も生徒の熱心さに触発されてか、最近は授業に工夫がみられるそうである。

 問題の魔法実践に関しては、アレクサンダーは「邪神騒動の際に魔獣に襲われて重篤な魔力切れに陥り、その後遺症で魔法をほとんど使えない状態になった」という理由でレポート提出による代替を許可されており、今のところその説明を疑う声はないようだ。


 元凶であるケイト・エニスモア元学院長は連日の尋問に対してひたすら沈黙を貫いているが、押収した資料の解析が進むにつれて、本件はいわゆる邪教徒の残党による組織的な犯行ではなく、あくまで彼女の単独犯であったことや、長年にわたり魔力の高い学院生徒をリストアップして、それぞれ王家に敵意を向けさせるにはどうしたら良いか考察していたことなどが判明しつつある。

 一から十まで同情の余地のない卑劣な行為であり、当局がこれ以上の尋問は無意味と判断した時点で処刑されることになるだろう。


 そんな風にして時が過ぎ、邪神討伐から一か月余りたったころ。ブラッドレー公爵邸で開催された仲間同士のお茶会で、クローディアが問いかけた。




「――ところで、例の件は一体どうなっているんですの?」

「例の件って、なんの件だよ」


 ライナスが怪訝そうに聞き返す。


「決まってるでしょう? 邪神騒動のときの『全部終わってから言うことにする』『ええ、楽しみにしてるわよ』の件ですわ。一体いつになったらご婚約の報告をいただけるのかと、私たち一日千秋の思いで待ち続けていますのよ、ねえ?」


 クローディアが同意を促すと、ユージィンとルーシーがやや気まずそうな表情を浮かべながらうなずいた。


「え、ちょっと待って。なんでユージィン殿下とルーシーさんが知ってるのよ!」

「だって大切な仲間の情報ですもの、その日のうちに共有させていただきましたわ」

「クローディア嬢、あの騒動の直後にそんなことを……」

「お二人の仲の進展に貢献したと思えば、あの邪神騒動にも多少は意味があったのかと思っていたのに、未だにこの体たらくとは、これでは犠牲となった邪神だって浮かばれませんわ!」

「浮かばれなくて良いわよそんなもの!」


 エリザベスは一喝すると、「大体あんなの、お互いただの気の迷いに決まってるでしょ!」と言葉を続けた。


「そうなのか? ライナス」


 ユージィンが問いかける。


「いえ、俺はそんなつもりは――」

「無理しなくていいわよ。このままなかったことにしたって、私は全然構わないんだから」

「構わないって……俺はなかったことにしたいなんて言ってないだろ」

「だから、変に気を使わなくていいって言ってるのよ」

「気なんか使ってねぇよ! ……俺があのときの続きを言いたいんだよ」

「……今までなにも言わなかったじゃないの」

「それは、なんかタイミングが合わなかったって言うか」

「タイミングってなによ、タイミングって」

「だからさ、あるだろ、こう、雰囲気とか、色々と」


 なにやら甘酸っぱいやり取りが始まってしまい、他の三人は互いに顔を見合わせた。ややあって、ルーシーが意を決したように「あの、私、用事を思い出しました」と声を上げた。


「エリザベス様、せっかくお招きいただいたのに大変申し訳ありません。私はここで失礼いたします」

「私も用事を思い出した。今日はここで失礼するよ」

「私も大っ変名残惜しいのですけど、用事を思い出したので失礼しますわね。それではお二人とも、ご機嫌よう」


 そしてクローディアたち三人はブラッドレー邸を辞したのち、王宮のサンルームに場所を移して飲みなおした。もちろん紅茶の話である。

 そして翌日、ライナスとエリザベスからめでたく婚約の報告がもたらされた。

 その際の具体的なやり取りに関しては、本人たちいわく「いや、別に、普通だよ」「そうよ、普通よ普通!」とのこと。

 ブラッドレー公爵家当主とアシュトン侯爵家嫡男の婚約発表はしばらくの間貴族社会の話題をさらい、また民衆も邪神討伐における「英雄」二人の婚約を明るいニュースとして歓迎した。


 そんな風にして、また一か月ばかり時が流れて、王立学院が冬期休暇に入るころ、ケイト・エニスモア元学院長の処刑が正式に決定された。


お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
皆様収まるところへ、良かった〜
原作では英雄はリリアナとアレクだったんでしょうけど、そこでもやっぱり仲良し5人組で英雄になるのがいいですね。 辺境伯三男は将来は宰相ライナスの部下になって漫才してそうです。 そしてこれで邪神も浮かばれ…
リリアナは駄目ンズホイホイで、母親と同じでサイテーの奴と くっつく未来が見えます。
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