表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奈落の悪魔と雨に踊れば  作者: 青山喜太
永遠の寂しさ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/63

第62話 最後

 空中で激突したアイエルとカイは、そのまま接近戦へと移行する。


「カイ!!」


 アイエルは叫ぶ、自身の心のうちに生まれた敗北の想像を払拭するかのように。

 そしてその叫びと共に、アイエルは雨のような槍の乱撃を繰り出した。


 薙ぎ払いと突きを交互に、そして無作為に出すことにより回避が困難になったそのアイエルの連続攻撃を、しかしカイはいとも容易く、刀と体捌きで躱す。


「くっ!」


 アイエルから見ればその光景は覆しようのない、圧倒的な、実力差を思い知らされているようにも思えたが、認めるわけにはいかなかった。

 なぜなら、カイを救うの自分なのだから、それをわからせてやらなければならない。


 俺はお前よりも強く、救うに値する存在なのだと。


 だが槍はカイの体には届かない。

 そして何十もの撃ち合いの最中、突然、カイとアイエルの間に光が走る。

 それが、通り過ぎた刀の残した光の残像だとアイエルが気づいたのは、彼の腹から血が溢れた瞬間だった。


 切られた、一瞬の隙を、いや、隙などなかった筈だ、アイエルは信じられなかった。あったのは己の猛撃の嵐だけ。

 その攻撃の合間に、一瞬の隙にも満たない須臾の間に、カイは斬撃を差し込んだのだ。


 その圧倒的な実力差の事実を、受け入れ難い真実を、実感しながら、アイエルは空中で体勢を崩して、落ちていく。


「認めねぇ、俺は……」


 落下していくアイエルはそう呟く。


「俺は!」


 重い重い重力に引かれながら、アイエルはそして、叫んだ。


「お前を手に入れる!!」


 赤い翼を羽ばたかせ、強力な推力を得たアイエルは、再び、カイへと肉薄する。


 音速を,遥かに超えた速度まで一気に加速したアイエルのその突進は、衝撃波をあたりに発生させる。

 その衝撃波に近くにあった、建物のビルの窓は壊れて弾け飛んだ。


 もはや誰の目にすら止まらぬほどの高速移動。

 アイエル自身も、今までの自分の最速を遥かに超えた速度を叩き出していると、実感していた。


 限界を超えたのだ、と。


「うおおおお!!」


「……!」


 アイエルは叫ぶ、熱くなるアイエルとは反対にカイは迫り来る赤き弾丸と化した眼前の敵を冷静に見つめ刀を振り抜いた。


 空気に激震が走る。


 カイの刀とアイエルの光の槍が再び激突したのだ。

 お互いに、打ち合い、そして弾かれた両者の得物。次に動き出したのは、カイの方だった。刀に走る衝撃をうまく逃し、一瞬で刀を返して、刃をアイエルに向ける。


 刀は一気に加速して一閃、光が空中に走った。


「くっ!」


 その高速の斬撃を、アイエルは髪一重で躱わす。しかしカイの刀は空気を裂くだけにとどまらず、強強力な突風をも巻き起こした。


 爆風と言っても差し支え無いその風をモロに受けた、アイエルは体勢をさらに崩される。しかしアイエルはその状況を逆に利用した。


 赤い光の羽を羽ばたかせ、そのまま、空中で縦に一回転。縦の回転蹴りをカイに対して繰り出した。だが、その蹴りすら、カイの髪をかすめる程度に終わる。


「チッ!」


 そのまま回転蹴りの勢いを活かしアイエルは後方へと飛翔し、赤い光の槍を掲げた。

 威圧するかのように光り輝く、紅は間違いなく敵意と害意を凝縮していた。


 渾身の一撃が来る。カイはそう感じ取った。ならば、それ相応の迎撃をしなければならない。

 カイは目を閉じた。


 刀を握る手に力を込める。そして精神を集中させ、手以外の無駄な力んだ部位から力を抜いた。


 思考が真っ白になっていく澱みなく、ただ一太刀のみに自身の最高を、至高を込める。


 そしてアイエルの怒号にも似た、叫びが轟く。


「俺のものになれ!!!!」


 赤い光が空と街を染める。そして強烈な破壊を秘めたその一撃が、今、アイエルの手から投擲された。


 自由を得た槍は、ただまっすぐの軌跡を描きプラズマにも似た、発光現象を生じさせながら、カイを焼かんとして、光にも類する速度で彼に迫って行った。


 勝ちを確信した。アイエルは間違いなく心の中に勝利の、達成感を得ていた。

 自分の最強の一撃を放ったのだ、もはや防御不可能だと。


 空が焼ける、空気が赤熱した鉄のように熱くなる。だがその熱が、破壊が、カイに届く前に、彼の腕が動き出した。


 槍が、着弾する前の一瞬確かにアイエルは捉えた。一閃。ただの一太刀、上から下に振り下ろされた一太刀。それは無駄がなく、澱みなく、美しい軌道を描いた一振りだった。


 そしてその一振りから、その軌跡から、黄金の輝きが放たれた。


 紅の光はまるで、元からそうであったかのように、二つに分かれる。


 黄金は、街と空を、染め返した。


 迫り来る金色の破壊の本流を前にアイエルはただ、


「……はっ……」


 そう、皮肉げに笑う。

 そしてカイの放った光は、その笑みごとアイエルを飲み込んだ。

ここまで呼んでいただいてありがとうございます!

もし

面白いな、だとか

応援したいな

と感じてくださいましたら

下にある[☆☆☆☆☆]マークをタッチして。

[★★★★★]にしていただけるとモチベーションにつながります!

どうかよろしくお願いいたします!


そしてよろしければいいねの方もよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ