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奈落の悪魔と雨に踊れば  作者: 青山喜太
永遠の寂しさ編

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第57話 君と共に。

「なんで──」


 私は、絞り出すように、言葉を必死に紡ぎ出す。


「なんで、私なんかのために」


 うまく言えただろうか、うまく伝わっただろうか、カイくんからの話を聞かされた私は、こんなセリフしか思い浮かばなかった。


「ヒナタさんのこと、好きだったから」


「え?」


「それだけなんだよ、それだけで充分なんだ」


 だから、とカイくんは続けた。


「僕が、アイエルと戦うのも、おんなじ理由なんだ。仲間の復讐とか、そんなことは考えてない。君が好きだから、だから僕は勝手に戦う。僕が戦うのは好きなものを守るため、だから──」


 気にする必要ない。

 君はそう言う、無力だ私は君を止められる力なんてない。カイくんに傷ついてほしくなんてないのに、どうすれば君を止められるのかわからない。


 それでも私は、食い下がる。


「ダメ、行かないで……! 一緒に考えよう……! 今度は私が、カイくんのために何かする番。きっと何かあるはず何かみんなが幸せになる方法が──!」


「奈落に落ちた時、僕はね、ヒナタさん」


「……」


「不思議と寂しくなかった」


 カイくんの言葉に私は戸惑う。だが、カイくんはそのまま話を続けた。


「君が、希望をくれたから」


「私が?」


「うん。君の笑顔が、君の前向きさが、僕を変えた。君の太陽みたいその優しさが、奈落の底にいた僕をずっと照らしていてくれた」


 カイくんは笑った。


「悪魔に魂を売ったり、神様に嫌われた人間は、奈落に落ちる。日の届かない、奈落に。でも奈落にあっても僕が、立ち上がれたのは、君のおかげなんだよ」


 その笑顔が、とても眩しい。嘘偽りのない、太陽みたいな笑顔。


「君が生きている。それだけで僕は嬉しかった。過去も未来もない、あの雨の降る世界で僕が希望を再び見れたのは君がいたから──」


 カイくんの目は嘘をついてない。本当のことを言っている。だからこそ私はどうすればいいのかわからなかった。彼を止める方法が、全く思いつかない。


「だから、ヒナタさん。君のような、人が産まれるこの世界を僕は守りたい。そして、君の人生もここで狂わせるわけには行かないんだ」


「でも! 貴方は!」


「学校……いけるようになったんでしょ?」


「貴方の……君のおかけで……」


「違う、僕は手伝っただけ、選び、進んだのは君の力だ」


 そんなことない、そう言おうと思ったが、言葉の代わりに目から涙がこぼれ落ちた。


「これからも、きっと。辛いことはたくさんある、でもその度に、君はもう乗り越えていけるはずだ」


 ダメだ、何も言えない。君の顔がぼやける。心配してくれたのか、君は椅子から立ち上がり私の隣に来て、手を握ってくれる。


 私は泣きながら君の冷たい手をとった。


「たとえ僕がこの世界から消えても──」


「そんなの、嫌だ」


「……僕にそばにいて欲しい?」


「うん……」


「なら、大丈夫だ、僕の心は常に君と共にある、いつでも、どこにいても君を応援してる」


「でも……カイくんの幸せはどうなるの?」


 その私の言葉に、一瞬、君は驚き固まる。だがすぐにどこからともなく取り出しハンカチで私の涙を拭って言った。


「……僕はいつでも幸せだよ。かけがえのない親友がいたから、仲間がいたから──」


 そして何より、そう言ってカイくんは額を私の額に、コツンと当てる。


「君がいたから」


 その時だった、ごめんね、とカイくんが呟き、唐突な眠気が私を襲う。

 ああ、寝ちゃいけない私は……君を……。


 ─────────────


「あ!」


 いつのまにか、机に突っ伏して寝てしまっていた。

 いや、きっと眠らせたと言う方が正しいだろう。カイくんはきっともう行ってしまった。


 その証拠かのように、ただ、誰もいないリビングの孤独な雰囲気が、刺すように心に入り込んできた。

 取り残されてしまった。また、彼に。

 そして今回も、何も知らぬまま、何もできないまま、助けられて、いつか君を忘れろと言うのだろうか。


「そんなの嫌だ」


 私はまず、テレビをつける。何か、カイくんとアイエルが戦っているならおそらく大規模になっているはず、何かしらの情報が出るはず、そう思ったからだ。


 まず映し出されたのは国営放送のチャンネル、だがいたって普通の、今日起きた出来事を、振り返るだけのニュースだった。

 

 次に、私が驚いたのは日付だ。なんと丸一日も寝てしまっていたようで、日付は変わり、しかも、もう夕暮れの時間帯になっていた。

 

 一瞬、動転するも、私は気を取り直し、テレビ画面を睨みつける。やはり、情報はない、特に驚くようなものは。


「手がかりなし……だよね」


 そう思ったその時、画面の上部に速報の文字と同時に音が鳴り響く。


「あ……!」


 私はすぐに家を出て、走り出した。


「カイくん!」


 もはやなりふり構ってはいられない。

 カイくん、私も、私の好きな人のために、何かをしたい。

 たとえ何もできなかったとしても、私が死ぬとしても、私は最後まで、君の姿を見て死にたいから。





 ─────────────


「ただいま〜ヒナタちゃん! 今日は早く帰れたから、ご飯買ってきて……あれヒナタちゃん? お母さん帰ってきたよー!? あ! テレビつけっぱなし! もう……!」


「続いて先ほどの速報についての情報ですです。えーシジマ県クロカミ市にて、未確認の飛翔体が確認されたとのことで……」

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