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奈落の悪魔と雨に踊れば  作者: 青山喜太
永遠の寂しさ編

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第55話 私たちの話を

「そんな、なんのために!」


 私は、困惑した。カイくんがから言われたとおりなら、アイエルは、クレナイ様と同じく、全国を攻撃する力を得たのだ。いや、もしかしたら。全世界かもしれない。


 なにしろ、願いさえすれば、その願いを遂行するために、どんな場所にも力を送り込める。

 それを証明するかのように、今日、アイエルは各地で、破壊活動を始めた。


「どうなるの? 世界は」


 私は率直に質問をした。カイくんは険しい顔をしながら言う。


「もうすでに手のひらの上だ。彼のね、最悪、時間をかけずとも特大の混乱を世界に引き起こせる」


 そうなれば、とカイくんはテレビ画面を見ながら呟く。


「次に、このテレビか映し出す告げるニュースは、この国の終わりかもしれない」


「そっか……」


 私は全身の力を抜いた。そして事の重大さを再び理解する。これはもう、誰にも止められない。


 カイくん以外には。


 それはわかっている。だからこそ君にそこまで背負わせてしまっていいのだろうかと、私は思う。

 もちろん、じゃあ、どうすればアイエルを止められるかなんて知らない、わからない。


 でも彼が、なぜそこまで、背負わなければならないのか。


「カイくん」


「ん?」


「カイくんは、やっぱり戦うの?」


「……うん」


「例えば……この世界の……その自衛隊とか……頼めない?」


「無理だ、相手は超自然的な相手だ、通用するとは思えない」


 絶望が、胸を疼かせる。もはや、どうしようもないのか。君に背負わせるしか、解決しないのか。


「大丈夫」


 すると君は笑って言う。


「僕が、なんとかする」


「でも! それじゃあ──!」


「ヒナタさん」


 私は、真っ直ぐに君に見つめられて思わず黙ってしまう。


「少し、昔話をしよう」


 ─────────────


 その昔。病室の天井と、顔馴染みの少年がいた。彼の名前は天野カイ。

 彼は子供の頃から患っている病気のせいで、すっかり、病室とも、看護師や先生とも友達になるほど通っていた。


 そして、まただった。また、入院することになった彼は、見慣れた病室の景色に飽き飽きしながら、ベットに寝転がりあくびをしていた。


 一体、いつになったら、病院と縁を切れるのだろうか、そんなことを考えていた。

 だが彼は,病院に縛られない自由な生活というものを彼は望みながら、そんなことは無理だと、どこか諦め、不貞腐れつつ今日もベットに横たわった。


 そんな時だった、隣の病室に、珍しくもない、新人がやってきた。


 新人の名前は。界ヒナタ。女の子だった。彼女も、少年と同じで、病院と腐れ縁だという。

 それも、少年と同じかそれ以上の腐れ縁らしい。


 何もかも似ている二人は、歳も同い年であったこともあってすぐに仲良くなった。

 そして仲良くなるのと同時に、少年は彼女と自分の差異に直ぐに気がついた。


 彼女はどこまでも前向きだったのだ。自身の病気が完治することを信じていた。

 それがどうしようもなく、少年は不可解だった。


 なんで信じられるのだろうか、治るのだと。いつの日か、この生活が終わるのだと。

 疑問に思った彼は少女に聞いた。


「どうして、界さんは、そんなに前向きなの?」


 少女は笑っていった。


「だって、こんなに頑張っているんだもん! いつか絶対に治る!」


「でも、治らないかもしれない」


 少年は、ネガティブにそう返した。すると、うーん、と少女は悩みそして、笑顔と言葉を返した。


「それでも、私は後悔したくない。治らなかったとしても、あの時、もっと努力してれば、って思いたくないから! だから、苦手な薬も頑張って飲んでみるし、体力が落ちないようにできる限りの運動だって頑張るの!」


 少年は、驚いた。てっきり自分と同じく、完治など、どこかで諦めいていると、諦めているはずだと、思い込んでいたからだ。


 そう語る彼女の姿は、心の片隅で卑屈を飼い慣らしていた、少年にとってとても眩しく、そして、同時に、彼女の言葉が、新たな支えとなった。


 それからだ。少年の心にどこか、太陽のような希望が、宿ったのは。

 進む足に、間違いなく錘がなくなった彼は、以前にもまして、自身の病と向き合うようになった。飼い慣らしていた、卑屈もいつのまにか、いなくなっていた。


 そのおかげか、それとも医療の発展の賜物か、少年は、どんどん快方に向かっていった。


 少女はいった。


「カイくん、良かったね! もうすぐ退院できそうなんでしょ?」


 自身の病気さえままならないと言うのに、少女はそう言って、少年を祝す。


「ありがとう、界さんのおかげだよ」


 本心からそう言った彼は、同時にこの世の理不尽さも感じていた。


 なぜなら少女の病気は一向に良くならないからだ。

 なぜかはわからなかった、彼女は治療にも積極的だ、努力していないわけではないのだ。


 それなのに、どんな薬も効かない。それどころか、少年が小耳に挟んだ話によると、少女の病気は、当初、診断していた病気とは違う可能性が出てきていたらしい。


 誤診とは考えにくかった、少年のいる病院の先生は、そんな、ミスをするような人間はいないはずだからだ。

 長い入院経験からそう感じた少年はどこか嫌な予感を覚える。


 そろそろ濃厚な死の匂い、それが少年の隣の病室から漂い始めていた。

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