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奈落の悪魔と雨に踊れば  作者: 青山喜太
永遠の寂しさ編

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第50話 恋敵

「それはただの気休めだった」


 天から再びアイエルの声が響く。


「真実などなく事実などない、ただの気休め。そもそも雨の性質が変わったり、雨が一時的にでも止むなど奈落ではありえないことだった」


 だが、とアイエルは続ける。


「その気休めは、宗教となり、そして奈落の住人にとって、希望となった。もはや奈落の雨に溶けていくだけの運命を持つ奴らは、縋ったんだ。ジンドーの優しき宗教にな」


 つまり、アイエルの話が本当なら、いや本当なのだろうが、私が聞いていたジンドーの奈落の悪魔の目的というのは、本当は達成不可能なものなんだ。


なのになぜ、従ったんだろう、彼ら奈落の住人は。


 いや本当じゃないかもしれないという気持ちはおそらく、奈落の住人にもあったのだろう、涙の雨をやませたりその雨の性質を変えることなどできるのだろうかと。


 でもそれでも縋らずにはいられなかった。そのジンドーの美しい宗教に、絶望的な状況から希望を見出すために。


「そう、奴らはただ消えていくよりも、誰かを笑顔にする、涙を拭う、それに自身の存在価値を見出すようになった。たとえいずれ消えるとしても、己が生きた証は誰かの記憶に残る」


 気のせいか、アイエルは忌々しそうに呟く。


「そして、ジンドーと、奈落の住人は旅立った、ジンドーの力を使い、その力を分けてもらい。悲しみ雨を伝って悲しんでいるこの常世の人間の元へとな」


「力を分けて……?」


 私の質問にアイエルは、ああ、といい、そのまま答える。


「奈落の住民にジンドーは力を分け与えた。そのせいで奴は奈落の世界を自力で越えられなくなった」


「皆んなを助けるためにそんなことを……」


 その時、初めてわかった、ジンドーは仲間を見捨てられなかったんだと、ジンドー一人ならきっと奈落の底から飛んで逃げていけたのだ。ネクスもそう言っていた。


 でも、彼は仲間に自分の力を分けることを選んだ。そして、涙を拭うために、皆んなに生きる意味を見出すために。


 皆んなを救うために。


 どれほど彼は眩しかったのだろう。どれほど、輝いていたのだろう。奈落の住人にとって、ジンドーはきっと光だったのだと思う。


 実際、目の前で再現されている記憶の世界での彼ら、奈落の住人の顔はどれもジンドーに対して、まるで救世主でも見つめるかのように、彼を見つめていた


「助けるため、そう、奴らは、ジンドーに甘えた」


 明らかに怒りが少し混じった声で、アイエルは語る。


「奴らは、新しい名前と力をもらうと、奈落の悪魔として活動し始めた。俺はそれが許せなかった」


「どうして?」


 姿の見せないアイエルは鼻で笑った。


「奴らはジンドー自身の幸福のことなど考えてもいなかった。ネクスと違ってな、奈落の奴らは自分がいかに、恵まれているかも知らずにジンドーを使い潰していた」


「だから、殺したの ジンドーの仲間を」


「ああ」


 冷たい声が天から降り注ぐ。


「奴らは寄生虫だ、ジンドーから力を実質、奪い、自分のものとして、ジンドーを不幸にしていた」


「そんなの……!」


「身勝手? 傲慢? なんとでもいうがいい、だがな、界ヒナタ、俺はジンドーを愛している。他の誰よりも」


 その一言で思わず私は黙ってしまう。


「愛している者の、幸せを願うのは当然だ、そして幸せを邪魔する奴を許せないのも当然なんだ」


 だから、とアイエルはそう続けて、ついに彼の声は天からではなく背後から聞こえた。

 後ろを振り向くと、純白の髪をたなびかせ、服を纏う奴がいた。


「そう、だから殺したんだよ、ジンドー以外な」


 私は思わず、驚いて、後ずさるしかしアイエルはそんな私を気にせず話を続ける。


「さて、ここで記憶の世界は終わりだ」


 世界が煙に変わり、そして再び一面、ただ白いだけの世界が広がった。

 結局なぜ、記憶の世界を私に見せたのかわからなかったまま、記憶巡りは終わってしまった。


「どうだ、楽しかったか? ジンドーの過去は?」


「なんで、私に見せたの?」


 率直に私は聞いた、すると目の前にいるアイエルは笑う。そして、こう言った。


「あの記憶を見せて、お前にあいつを支えるほどの度量はあるのかと、聞きたかったんだよ」


 俺はもちろんある、と付け加えるアイエル、それに対して私は即答できなかった。

 彼の過去に、圧倒された、こんな希望も何もない世界でジンドーは彼は笑顔を人々に届けていた。


「どうした? お前も奴の優しさに群がる寄生虫の一匹か?」


 アイエルの言葉に、私はたじろぐ。そうだ、私はジンドーに何ができるだろう、何を与えてあげられるだろう、私は結局何も彼に返せない人間なのだろうか。


 膨れ上がる、悲観的な感情、だが同時に、私の口は動く。


「今の私は何もできていない……!」


「……は! やっぱりお前も──」


「でも!」


 言葉が胸の中から湧いて出てくる。


「これから、私はもっとジンドーのことを知って! ジンドーを支えていけるような人間になりたい! だから──!」


 私はアイエルを睨みつけた。


「貴方にジンドーは渡さない!!」


 その一言、その言葉に、アイエルは目を丸くし、ただ笑った。そして呟くように言った。


「なら、認めよう、お前はこれから、俺の恋敵だ」


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