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奈落の悪魔と雨に踊れば  作者: 青山喜太
永遠の寂しさ編

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第48話 オリジン

 私はネクスの呟きに後ろ髪引かれつつ、ジンドーを追いかける。ここにいるのはジンドーの過去を知るためなのだから。


「どうだ? これで納得したか? いや納得せざる得ないだろう? 疑う余地すらないはずだ。本能で、直感で、心で、わかるはずだ、この世界が本当の過去の世界だと」


 そんなアイエルの言葉が天から降り注ぐ。ジンドーの背を追いかけ続ける私は、何も答えない。癪だったからだ。アイエルの言っていることは正しいという事実が。


 私は、私自身何の根拠もないと、わかっているはずなのに、この世界が本当にジンドーのものだと何故か信じてしまっている。


 それはあの男の言う通り、実感してしまっているからだ、目の前の男の子がジンドーであると。彼以外に違いない気がするすると感じてしまたまたいるからだ。


 それに仮に、これが偽りの記憶の世界なら、何故こんな手の込んだ世界を作るのか、それこそ意味がわからない。もちろん本当の記憶の世界だとして、今も、何故こんな世界を見せられているのかわからないが。


 それでも偽物の記憶の世界を一から作るよりは、本物の記憶を写しとり、本当の記憶の世界を作る方が手間は少ないはずだ。


 つまり、これは、何の意図があるかわからないが、本物の世界だ。そう実感できるし、そう考えられずにはいられない。


 そうして私は、ジンドーの後ろを歩き続ける。しばらく歩いても世界は何も変わらない。ただぬかるんだ大地と、暗い空が続くだけだ。


 それでもジンドーは自分がどこに行っているのかわかるのだろう。迷わず進む。そしていつのまにか、木で出来た簡素な家が視界内にある事を私は気がついた。


「ねぇ、遊びに来たよ」


 ジンドーはそう言った。すると中から、成人しているであろう、男が出てくる。髪は長く、髭を剃っている。そんなボロ服をきた男はジンドーを見ると口を綻ばせる。


「おお、■■、きたのか」


 まただ、ジンドーの名前が誰かから呼ばれる時、全然、彼の名前が耳に入ってこない。


「一緒にサッカーでもしようよ! 友達みんな、誘うからさー」


 ジンドーの提案に男は、少々悩んだあと、言った。


「いいけど、ボールなんてあるのか?」


 ジンドーは頷いた。


「うん、今日、漂着してるのみた!」


 漂着、それがなんの意味をするのかわからなかったが、ジンドーが、じゃあ待っててね、と男に言うと、彼は近くにあった丘の上に駆け上がって行った。


「みんなーサッカーやるんだけどやるぅ!?」


 大きな声でそう言った彼に、どうやら答える住人がいたらしい。

 土を踏む音が、続々と聞こえてきた。


 そうして、丘の上に集まったのが私と十数人程度の大人の男女たちだった。


「サッカー? だってジンドー?」


 丘の上に集まった一人、無精髭の男が言う。


「うん! ボール今から取ってくるからみんなでやろう!」


 ジンドーはかけだす、どうやらその漂着したというボールを取りに行くようだ。


「サッカーなんて子供の頃男子に混ざった時以来だわ」


 そう呟くのは長い金髪をたなびかせる、女性だった。服は少々破けかけている。


「いやはや、わしなんてやったことないぞ」


 いつのまにか、いた老人もそう呟く。


「今日はサッカーと来たか、楽しみだな」


 そう言ったのは黒人の男だった。彼の言い草からするとジンドーはこういうレクリエーションを定期的に行っているようだ。


「ねぇみんなー! あった!」


 ジンドーの元気な声が奈落に響く、するとそれを合図に大人達はジンドーの声のする方に移動していく。

 私も思わず、つられて移動する。ちょうど平地になっているところに、ボロボロのボールを抱えて待っていたジンドーは、ニコニコと笑っていた。


「みんなやろう!」


 ジンドーはボールを掲げてそう言った。


「おいおい! ■■! そりゃバスケのボールだろ」


 笑いながら集まった大人の一人が指摘する。


「いいの! どうせバスケのゴールないし!」


 それもそうかと、大人達は笑い、サッカーが始まった。この世界は雨が降っている、冷たくて悲しい雨が。

 だというのに彼ら奈落の住人は楽しそうだ。


 理由はわかっていたジンドーがいたからだ。

 天から声が降り注ぐ。


「ジンドーは、奈落にあっても、太陽だった」


 アイエルの声だ。


「あいつは、このどうしようもない世界で落ちぶれ堕落していた住人の心に、光を届けていたのだ」


 目の前で、雨の中楽しそうに、遊ぶ彼らをみて私はアイエルの言葉が事実なのだと実感する。

 確かにジンドーと遊ぶ奈落の住人達は嬉しそうに誰もが頬を緩ませ、楽しんでいる。


「それが……奴の美点であり、欠点だった」


 だが、アイエルはどこか不服そうにそういう。どういうことなんだ、私には欠点なんて思えない。


「奴は他人の幸せばかりを考えていた。こうしたら喜ぶんじゃないか、こうしたら笑顔になるんじゃないか、そんなことばかりを考えて──」


 アイエルは、悲しみを含ませて語った。


「自分の幸せを全く考えていなかった」

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