第45話 アイエル
「なんでいなくなったかであるか……」
同じソファで、私の隣に座る彼、ジンドーの顔が曇る。言いにくい質問をしてしまったのだろうか。
でもどうしても、私は彼に話してもらいたかった。
なぜそんな血塗れだったのか、ただ心配だったから。
「その……」
言葉に詰まった彼は、しかし話し始めた。
「君を巻き込みたくなかった……それじゃダメかな」
「そんな! そんなの……今更じゃない……」
私はそう力が抜けるように言った。
私はそこまで、足手まといだったのか。少しだけショックだ。私そこまで力がないのだろうか。
「そんなに、私の事、信用できない……?」
私の問いかけにジンドーは首を振る。
「そうじゃない」
そう言う彼の言葉に、私は納得できなかった。それでもジンドーは、続けた。
「もう君には、日常があるだろう」
日常、それが何を意味をしているのかジンドーに説明されなくてもわかっていた。
学校、学友、日々の勉強、私が再び手に入れた、日常だ。
「君は、もうクレナイ様からの呪いから逃れた、僕はもう、君に危ないことに関わってほしくない」
「私は……!」
「わかってくれ、ヒナタさん」
彼の懇願するかのような物言いに思わず、私は追求をやめる。
でも私にも、私の譲れない部分はあった。
「でも、それなら、もう何も言わずに出ていくのはやめて、せめて私の近くにはいてくれないの……?」
私の提案にジンドーは言葉に詰まった。それは、と呟いた後、ジンドーは言う。
「わかった、約束する」
彼は、そう言う。その約束を聞けただけで私は満足だった。とにかくジンドーといきなり別れるのはもう嫌な私は、彼がそう言ってくれるのが嬉しかった。
「ありがとう、ジンドー」
私は思わず彼にそう言う。ジンドーにとってはかなり譲歩してくれたことだと思ったからだ。でも同時に思う。それだけ私は彼に守られている。心配されている。私は今でも彼に庇護されるだけの人間なのだと。
ジーンの言った通りだ、私は無力だ。依存していると言われても仕方がない。
でも、できることはある、はずだ。私はジンドーに詰め寄った。
「ジンドー……それと、聞かせてほしい、なんであんなことになったのか、お願いせめて貴方が何と戦っているのかだけでも知りたいの」
するとジンドーは迷いを含んだ表情を私に、恐らく無意識に見せてしまった後、ポツポツと喋り始めた。
「ジーン……そう名乗った彼。本当は、アイエルと言う天使なんだ」
「天使?」
「そう」
ジンドーは語り始めた。若干の苦痛と、悲しみの雰囲気を纏わせ、俯きながら。
「かつて、数多くの奈落の悪魔達がいた……僕たちは奈落に降る雨が嫌いだったんだ、冷たくて悲しいあの雨が」
懐かしむように彼は語る。
しかし依然彼のまとう哀愁は変わらない。
「だから止めるために僕たちはいろんな国に行った、楽しかったなあの頃は、色々な人々に出会い、そして雨を止めていた、当然仲良くなった人もいる。今の君と僕みたいに」
「でも」と彼は険しい顔をしながら言う。
「ある日のことだった、僕以外の仲間がみな殺された」
「え……」
私は思わず息を飲む、そして思い出した、ジンドーが奈落の悪魔の生き残りと呼ばれていた事を。
「アイエルに殺されたんだ」
ソファの上に座りながら彼は、吐き出すようにそう言った。仲間のことを思い出させてしまっただろうか。
「ご、ごめんなさい、まさかそんなことがあったなんて……」
「いいんだ」
ジンドーはそう言って微笑む、その笑みさえどこか、痛いしく、傷を隠す子供のような気がしてしまって、胸が苦しくなる。
「アイエルが君 ヒナタさんに接触してきた以上もう、ヒナタさんも無関係じゃない、知る必要がある」
「ジンドー……」
「それに……」
ジンドーは私の目をまっすぐに見た。
「誰かに話したかった……かも、その……仲間のこととか」
「……! そっか……!」
私は嬉しかった、彼の役に立った気がしたからだ。彼の今の心が軽くなるなら私はなんでもしたかった。
それは今までの恩返しというのもあるし、同時に私自身がなにか彼に施してあげたいと思ったんだ。
だって私はジンドーに救われた、だったら今度は私が少しでもジンドーの助けになりたい。
いや、なるんだ。
「ジンドー、今日は泊まっていって、そのまたお父さんの部屋のベット使っていいから」
「……ありがとうヒナタさん」
私は首を横に振る。
「お礼を言うのはこっち、今まで色々な負担をしてくれてありがとうジンドー」
「……ふふ、お礼されるようなことはしてないさ」
彼が再び微笑む、今度はやっと本心から微笑んでくれた、私はそう思った。
嬉しい、ジンドーが少しだけ喜んでくれてる。それがとても嬉しい。
こんな気持ちになるのは初めてだ。
「その、じゃあ、もう今日はゆっくりしようよ!! お互い疲れただろうし!」
「そうであるな! 明日に備えて!」
なんだか恥ずかしくなってきたから私は無理やりそう切り上げた。ジンドーもいつものキャラを被りそう返事する。
「じゃ、じゃあ私、部屋に行ってくるね!」
「うむ! お疲れ様なのである!」
私は恥ずかしさのあまり逃げ出した。改めて私は意識しているのだジンドーを。
そう自覚すると、私の顔はさらに熱くなる。その熱を覚ますために私は、自室の扉を開ける。
ベットに飛び込んで冷ますんだ、この感情を。
そうして私はベットに飛び込んだ。
「くぅぅ……なんでこんなにドキドキして……」
理由なんてわかっているくせに、そう呟いた。
そうして、私の頭の中にジンドーに対する思いが駆け巡る。それを煩わしくもどこか満たされたような感覚を覚えながら、私はいつのまにか眠ってしまっていた。
─────────────
「よう」
声がする、誰だろう、どこか覚えがある。
「なんだよ、もう忘れたのか?」
いや、この声はまさか──。
「さっきぶりだな? 界……ヒナタだっけ?」
ジーン、いやアイエル。
アイエルが私の目の前にいた。
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