表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奈落の悪魔と雨に踊れば  作者: 青山喜太
永遠の寂しさ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/63

第40話 突然の別れ

 日常が戻った。

 クレナイ様は消え、私は非現実的な世界からごく普通の世界へと戻ることができた。


 つまり私は、普通の学生へと戻ることができたのである。

 そのことは素直に嬉しい。こうして平和に制服に袖を通して、学校に行けるということは、喜ばしいことだ。


 しかし、学校に行くということが今までできていなかった、私にとっては、未だに登校するということに若干の緊張を感じていた。


 だがそれも時期に慣れるだろう。なにせ今もこうして学校の通学路に制服を着て歩いているのだから。


 繰り返しになるが、私は普通の学生に戻ることができた。

 だからそう今日もこうして向かうのである、いつも通り、学校へ。


 ─────────────


 教室に着いた、いつも通りに自分の席に座る。いつも通り事業が始まり、いつも通り、授業が終わる。

 全部がいつも通りの日常だ。

 ただ一つだけ、私はこの日常に中にいて欲しい人がいた。


 その人の名前はジンドー、ジンドー・ビッグハッピー。


 ジンドーが私の前から消えて、1ヶ月が経った。

 理由はわからないただ確かなのは、なんの前触れもなく、彼は消えてしまったということだ。


 彼がいた痕跡は残っている。


「大福、元気かな?」 


「まあ、転校した先でも元気にやってるんじゃね?」


 そんなジンドーとそこそこ親しかった仲の男子たちが話し合っているのを私は耳にする。

 そう、彼は転校したということになっている。それは1ヶ月前唐突に担任の柿原先生から伝えられたことだ。


 その事実は彼が計画的に私の前から消えたことを意味していた。

 どうして、なんで、と疑問の言葉がばっかり、ここ最近の私の頭の中で木霊した。


 それでも私には答えなんて導けるはずもなく。何もできないまま、今日も学校にいる。


 そう私は普通の学生だ。ジンドーと関わらなければ、ただの何もできない普通の学生に過ぎない。

 そう何もできないのだ。彼の思いを知ることも、彼を探すことも。


「界!」


 明田さんの声がする。声のする方を見ると、隣には想像通り彼女がいた。


「……一緒にご飯でもどう?」


 机に突っ伏して寝たふりをずっとしていた私は、彼女のその言葉にいまさら気がつく、そうか今もうお昼ご飯の時間なんだ。


「うん……」


 私は小さくそう返事をする。

 クレナイ様の事件の後、明田さんは私に対して深々と頭を下げて謝ってくれた。

 いじめていたことを間違っていたと、申し訳なかったとそう言っていた。


 その謝罪を受け入れて以降、私と彼女の間ではちょっとした友情関係が芽生えた。

 なんというか友達のようでそうじゃないような、少しだけ一緒にお昼ご飯を食べる関係だ。


「ご飯ほら、アンタの分のパン買ってきたよ」


「……あ……ありがとう」


 感謝と共に私はソーセージの挟まったパンを彼女から受け取る。

 お腹は空いてはいないが、食べよう。


「……やっぱりまだ落ち込んでる?」


 明田さんはそう聞いてくる。


「うん」


 私はそう答えた。


「ジンドーさん戻ってくるといいね」


 力無い私の返答に明田さんはそう返す。


 明田さんだけはジンドーがどこかに行ってしまったことを知っている。私があまりにも最近落ち込んでいるので、彼女は心配して、事情を聞いてくれたのだ。


 彼女にはジンドーがいなくなったことを伝えておいた。彼の正体を知っている一人だから。

 そしたら今日みたいに訪ねてきてくれるようになった。


 正直、心配してくれるのはありがたい。でもいい加減、心配をかけるのはやめなくては。

 そう思い立った私は、明田さんからもらったパンを食べた。


「ありがとう明田さん、これ私、好きだよ」


「……そ、ならよかった」


 未だに距離感が掴めずにギクシャクしているが、こうして心配してくれるのは、嬉しかった。


 かつていじめられていた経験があるから、まだ明田さんに対する怖さは抜けないけれど彼女自身、あのクレナイ様の事件以降、纏う雰囲気が変わったような気さえする。


 だからこうして話しかけさえしてくれれば、私は簡単な受け答えぐらいならできるようになった。

 これも全部ジンドーのおかげだ。だから感謝の言葉を伝えたい。


 なのに彼はいない。どこにも。


 ──どこにいるの? ジンドー。


 心の中にあるわだかまりは増えるばかりだ。

 こうして、学校の終わりまで私は、気の抜けたように過ごした。


 何日も、こんな感じで一日をやり過ごしている。

 ダメだなと思うが、それでもジンドーのことが気になってしょうがないのだからどうしようもない。


 そうやって何も解決できないくせに私はまた家への帰路に着いた。


「ハァ……」


 私はため息をつく。それは頭の中に溜まった迷いを吐き出すつもりで吐いたのだが全く、効果がない。

 そんな憂鬱な帰り道の、商店街を歩いている途中、


「君」


 誰かに話しかけられた。

 私は声のする方に振り向く。目線の先には路地裏の暗闇、もうすぐ夏休みだというのに、空の雨雲のせいかやけに暗いその暗闇から、中性的な声が続く。


「ジンドーを探しているのだろう?」


 暗闇から一歩、声の主が踏み出す。


「私なら、彼を探せる」

ここまで呼んでいただいてありがとうございます!

もし

面白いな、だとか

応援したいな

と感じてくださいましたら

下にある[☆☆☆☆☆]マークをタッチして。

[★★★★★]にしていただけるとモチベーションにつながります!

どうかよろしくお願いいたします!


そしてよろしければいいねの方もよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ