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奈落の悪魔と雨に踊れば  作者: 青山喜太
出会い編

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第39話 宙に舞って

 あれ、いつのまにか眠っていたようだ、体がすごい倦怠感に包まれている。それでも私は、目が覚めてしまった。体にまとわりつく風がなんとなく違う気がしたのだ。


 目を開けると、星空が広がっていた。どうやら仰向けに寝ているようだった。外に出ていたんだ、道理で風の雰囲気が違うはずだ。


「ここは……」


「界!」


 明田さんの声が聞こえた。首を声のする方に回すとそこには心配そうに私を見つめる明田さんがいた。


「よかった無事だったんだ……」


「馬鹿……! アンタの方が危なかった……!!」


 そう涙ぐむ、明田さん。私は心配してくれているのだと、思い、ありがとうと彼女に言ったらさらに泣かれてしまった。

 そんな明田さんに私は少し困惑しつつ、上半身だけ起き上がって辺りを見回した。


 どうやら、どこかのビルの屋上のようだ、さっきまで、化物の肉体の中にいたというのに、なぜこんなところにいるのか答えは一つだけだ。


「起きたであるか!」


 そんな声と共に、答え合わせをするみたいにジンドーが空から舞い降りる。


「ジンドー……勝ったんだね……!」


「ああ、君のお陰である、君が頑張ったから、我輩も最後まで諦めずに戦えた」


「そんな……」


 私なんかに対してもったいない言葉だと思った、私はただ待っていただけだジンドーを信じて。

 だから私は何もしていない。


 反対に彼はその激戦を象徴するかのように、服はボロボロで頬には擦り傷もある。

 痛々しいと思うと同時に、不謹慎だがそこまでして彼が戦ってくれたという事実になんだか嬉しさを感じてしまう。


 でもそんな気持ちをひた隠しにしつつ私は、


「私なんかより、ジンドーの方が大変だったでしょ、ありがとう」


 と、感謝の言葉を述べた。するとジンドーは頭を照れ臭そうに掻いた。


「そう言われると照れるであるな!」


 そんなジンドーがなんだか可愛らしく思える、もはや今までの凄惨な戦いのことなんてどこか言ってしまったかのような空気が私たちの間に流れる。


 その時だった。ジンドーの背後にちょうど、雲の影が落ちて暗闇になっていた場所に月の光が差す。

 差した光は紅の着物を照らし出した。


「まだ、だ!!」


「ひっ!」


 明田さんの恐怖からの悲鳴が聞こえる。月明かりによって現れたのはクレナイ様だった。もう、肉塊の姿ではなく、最初に出会った時の少女の姿を彼女はとっていた。


 しかし、様子がおかしい。クレナイ様の輪郭はまるで、水に入れられた錠剤のように、ぼやけ空中に向かって霧散しているのだ。


 私は一瞬で悟る、彼女はもはや力を失っているのだと。


「界ヒナタ!! せめて貴様だけでも……!」


「させると思うか……?」


 殺意をみなぎらせる、クレナイ様に対して、ジンドーは刀を構えて威嚇する。

 そんなジンドーを恨めしそうに見るクレナイ様は叫ぶ。


「邪魔をするか! 奈落の悪魔!」


 一触即発の雰囲気を醸し出す、まさにお互いが再びぶつかり合う寸前と行った時だった。


 がくりと、クレナイ様が膝をついた。


「クッ……力が」


 その瞬間をジンドーは見逃さなかった、私はジンドーから殺気を感じ取ってしまった。間違いなく、クレナイ様を殺す気だ。


「待って!」


 私は思わずそんな声をあげてしまう。


「もう、彼女を傷つけないであげて!」


 そう言って私は、立ち上がってジンドーの隣まで歩いて行った。


「ヒナタさん……?」


 ジンドーは、一瞬、迷いを表情に出すものの、私を信じてくれたのか、刀を納めた。


「ヒナタさん、無茶は……」


「うん、しないよ」


 一歩、踏み出す。


「界! 無茶だよ!」


 明田さんの声を背にまた一歩。


「……なんのつもりだ!」


 向かいくるクレナイ様の怒号を受けながら再び一歩進む。


「近寄るな!」


 クレナイ様は再び威嚇するように私に向かって叫んだ。

 でも、私はそれでも彼女に近づいた。そして私はじっとクレナイ様を見つめた。


「なんだ……貴様は……何を!!」


「辛かったんだよね」


「何?」


 私はクレナイ様に語りかける。


「一人で──」


 何故か目の前にいる彼女が私と重なる。


「孤独で──」


 それもそうだ、彼女はもしかしたら私と同じなのかもしれない。


「だからどうやって人と関わったらいいかわからなかった」


 彼女の姿それはジンドーに会わなかった私ときっと同じなのかもしれない。少しだけそう思ったのだ。

 私が自殺しようとしたのと、彼女が世界に復讐しようとしたのはきっと同じだ。


 違いはきっと攻撃の矛先が自分自身に向くか、外の世界に向くか、その違いだけなのだ。


 私たちはきっと根は同じだ、世界を恨んだもの同士。


「だから、こんなことしちゃったんだよね」


 だとしたらできることは一つだけだ。


「ねぇ、今からでも遅くない私と友達にならない?」


 私が救われた方法と同じ方法で、彼女を救えば。


「そうすれば少なくとも、私が貴女を覚えている! 貴女も世界に忘れ去られることなんてない!」


 私の言葉は本心だった。この消えかけの神に私は同情をしていたのだ。

 でも、クレナイ様は儚く笑う。


「ふふ、はは」


 笑って、笑って、笑い続ける。


「は、はは、もう遅い……」


 そのまま私に微笑みかけた瞬間、クレナイ様は泡のように宙に消えていった。

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