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奈落の悪魔と雨に踊れば  作者: 青山喜太
出会い編

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38/63

第38話 最後

「全く貴様も往生際が悪い」


 クレナイ様の声が響く。


「諦めればいいものを、貴様と私とでは実力差が開きすぎた」


 もはや、クレナイ様は勝ち誇っていた、負けるはずがないと言う絶対的な自信を、晒しつつ、嘲笑を交えた口調でジンドーを諭した。


「どうかな……!」


 だがジンドーは諦めない。

 そう一言呟いて刀を、愛刀『天涙』を構える。たしかに力量の差は歴然だった。


 しかし、勝てやしないなどとはジンドーは思わない、なぜなら約束したから、彼女と、界ヒナタと。


「僕は! あの子に笑顔を届ける! それには貴様が! 邪魔なんだ!」


 ジンドーは息を吸い込み、静かに唱える。


「我、四肢を雨に晒し──」


 それは祈りだ。


「悲しみを討つ──」


 己のあり様、そしてなにを成すべき者なのかを再び思い出すための。


「面白い」


 クレナイ様はただその様子を面白おかしく茶化すように見守った。


「永遠の雨空に終焉をもたらす者! 我が名は!! 奈落の悪魔(ラフメイカー)!!」


 そして、ジンドーの体は光輝く。

 光と共に頭部と腰部にもそれぞれ羽が生えるジンドー。


 頭部の羽はまるで仮面の様に頭を覆い。腰部の羽もまたコートの様に腰に纏わりつく。


「行くぞ!!」


 そう叫んだジンドーは背中の星空の羽を羽ばたかせ空中で加速する。


 ジンドーは羽ばたいた地点にまるで水に溶ける水彩絵の具の様に、光が広がった。その光はジンドーの羽から放たれた、加速を手助けするための推進力となる力の放出の光であった。


 ジンドーはそのまま肉塊へと一直線に加速する。しかし肉塊も何もせず手をこまねいているわけではない。

 肉界は自身の表面にサボテンの様に無数の針を生やす。鋼の様なその針は、まるで弾丸の様に弾幕を貼りながらジンドーに向かって放たれた。


 その針の雨の中にジンドーは飛び込む。


「同じ手を!!」


 ジンドーは刀を振り回す。愛刀『天涙』はジンドーに振るわれるたびに、旋風を巻き起こし、針を叩き落とす。


 ジンドーの膂力によって、巻き起こされたその風は完全に彼を守る結界として機能していた。


「効果が薄いか……!」


 針による攻撃がもはや、効果がないことを確認した肉塊は次に生成していた複数の触手を、ジンドーに向けて突き出した。


 触手は全部で七本、それが縦横無尽に動き回り、ジンドーに襲い掛かる。

 鞭のようにしなり不規則な動きを繰り出しながらも、ジンドーへの殺意を激らせたその攻撃は高精度に彼のいる場所にへと攻撃を放っていた。


 だが、そのどの攻撃もジンドーには当たらない。七本の、七通りの攻撃はたしかに精度が良く、間違いなく彼を死に至らしめるほどのものだったろう。


 ──なぜ奈落の悪魔に攻撃が当たらない!


 クレナイ様は焦った、今のジンドーは彼女の攻撃以上の精密さとスピードを持って攻撃を避けていたのだ。

 その事実がクレナイ様の心に一点の曇りを生み出す。いつまで経っても当たらない攻撃、避けるジンドー。


 いつこの憎き敵を屠れるのか、クレナイ様のその焦燥は一瞬の隙を生み出してしまった。


「もらった……!!」


 ジンドーの声が響く、クレナイ様の一瞬の隙、功を焦り一瞬だけ雑になった触手の攻撃をジンドーは見逃さなかった。

 彼は一気に二本の触手を、隙をつき、愛刀で刈り取る。


「馬鹿な!!」


 驚愕するクレナイ様、そして二本の触手が切り取られたことにより、触手の攻撃に隙間ができた。縦横無尽に暴れ回っていた。


 攻撃の雨に一点の突破口が現れたのだ。ジンドーはその突破口に向かって飛んだ。


「奈落の悪魔ぁぁぁ!!」


 足りなくなった触手で、クレナイ様はジンドーを迎撃するだが、明らかに二本足りなくなったその攻撃は、彼を捕らえるには至らなかった。


 一瞬でクレナイ様に肉薄したジンドーは、そのままの速度のまますれ違い、


「うぉぉ!!」


 クレナイ様を刀で切り付けた。


「ぐううう!!」


 恐ろしいほどのスピードで切り付けた、ためなのか、肉塊にできた裂傷は、巨大で、血が滝の様に溢れ出していた。

 だが、痛みに悶える時間はクレナイ様にはない。


「まだだ!!」


 すぐさま方向転換をし、ジンドーは戻ってくる。そして怯んでいるクレナイ様に、再び十文字の刀傷を彼はつけた。


「があああ!!」


 流れる様な動きでつけられた十字の傷は、更なる痛みをクレナイ様に与える。


「離れろぉ!!」


 痛みに身を任せ、クレナイ様は再び触手を振り回した。それはジンドーを、遠ざけるための策だった。

 だがその粗雑な策は逆効果であった。ジンドーは一瞬でそれまでの精度の高かった攻撃が、雑になったのを見ると再び光の波紋を出し加速する。


 一瞬だった。ジンドーは直角に近い角度で空中で方向転換しながら、残りの五本の触手を華麗に切り取った。


「が、あ……!」


 一瞬で武器を剥奪された、クレナイ様は思考が追いつかないまま、ただ目の前に迫るジンドーの斬撃を黙って受け入れることしかできなかった。


 斬撃は、クレナイ様の肉塊を裂き、そのままジンドーは傷口からクレナイ様の肉塊の中に侵入する。


「ぐあぁ!! 何を!」


 暗闇、肉塊の中はまさに暗闇だった。

 その暗闇を照らす様にジンドーの愛刀『天涙』は輝き出す。


「去れ、古き神よ!!」


 肉塊の中でジンドーは刀を振るう、黄金の光波が刀から放出され、


「ぐがぁぁ!!」


 内側から肉塊を焼いた。


 光波はクレナイ様の肉塊に全体に伝播すると光の柱となって、肉塊を消滅させていった。

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