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奈落の悪魔と雨に踊れば  作者: 青山喜太
出会い編

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第36話 幼稚

「ジンドー! そんな……!」


 ジンドーが、吹き飛ばされる。私はそれを何もできずにただ見ていることしかできなかった。いや大丈夫だ、ジンドーのことだあれぐらいで死ぬはずがない。


 根拠がないことぐらい私にもわかっている、でも、実際にジンドーの命が途切れていないことを直感で感じていた。


「界ヒナタァ!」


 叫び声が聞こえる、怨念のこもった、声が私に向けて届いてくる。目の前に迫るクレナイ様は、ビルの隙間をまるでゼリーみたいに体を自由に変形させながら私の元に迫ってきていた。


「やばい!」


 咄嗟に逃げなければと思った私は、走り出すでもどうしよう、ここはビルの屋上だ。

 そんなことを考えている間に、クレナイ様は遠くから迫る、時折ビルを破壊しながら迫る彼女にさらに焦る私。


 そんな私のの視界の端に、映る人物ががいた。

 気を失っている、明田さんだった、明田さんをここに置いていけばどうなるだろう。


 間違いない、クレナイ様の移動に巻き込まれて彼女は死ぬ。


「ジンドーだったら……!!」


 私はそう叫んで、気を失って倒れている明田さんの近くによる、どうやら、クレナイ様が体から出ていった時に気を失ったままのようだ。


「重っ!」


 明田さんを腕を肩に回し、そのまま腕を腰に回して抱えて逃げようした瞬間、出た言葉がそれだった、意識のない人間を運ぶのはこんなにも、きついことだったのか。


 それでも彼女を見捨てるわけにはいかない急いで私は、ビルの屋上のドアを明田さんを、抱えながら開けた。

 逃げるんだ、きっとジンドーは生きているはずなのだから、ジンドーの体勢が整うまで逃げなくては!


「ハァ! ハァ! 明田さん! 起きて! くれると! 嬉しいな!」


 そんなことを言いながら、あまり速いとは言えない速度で、ビルの階段を下る。だが次第に破壊音と共に、クレナイ様が近づいてくるのがわかった。


 どれくらい降りただろうかこのビルの高さは何階なのか、クレナイ様は今どこに──。

 いやそんなことを感がている暇はない。


 まずは、一歩足を前に出すことが先だ。でも一歩踏み出す前だった。

 右から爆発音が聞こえた。


 右の壁が突如として破壊されたのだ、思わず右を見るとそこにいたのは無数の触手。ビルの壁の破片は触手によって綺麗にまるで私を守るようにして弾かれ、そのまま私を触手は包んだ。


「いやぁぁぁ!!」


 私はそう叫びながら明田さんと共に、外へと引き摺り出される。


「やっと捕まえたぞ! 界ヒナタ!」


 明田さんごと、私を包む触手は、容易に私たちビルの外にいた肉塊、クレナイ様のところに連れていった。

 そして、目の前の肉塊は喜びながら私の名前を呼ぶ。


「ぐっうぅ!! 離して!」


「断る、もう邪魔は入らない貴様は私のものだ!!」


 私をまるでトロフィー見たいに空中に掲げるクレナイ様、すると巨大な肉塊の彼女はわざとらしく気がつく。


「おやおや、余計な人間まで抱えていたようだな、界ヒナタ、貴様なら一人で逃げられたかもしれないものを」


 いやらしい言い方だ、たしかに、明田さんを見捨てればもっと速く逃げられたかもしれない、でも。


「そうしたら貴女、明田さんのことなんて気にしないでしょ!」


「当たり前だ、いちいち蟻を気にしていられん、死のうが生きようがどうでもいいのだからな」


「お願い明田さんは関係ない! だから!」


 私が思わず言った、その願いはどうやらクレナイ様には滑稽に映るらしい。


「相変わらず面白い、なぜそこまでいじめた相手をそこまで庇うのか」


「だが」とクレナイ様は、笑う。


「ダメだ、お前は当然としてこの明田とかいう娘も、食ってやる」


「なんで!」


 私の叫びにクレナイ様は笑う、悪趣味なその笑いは不快で、なによりも、彼女の悪意のようなものが凝縮されていて嫌な感じだ。


 この感覚、どこかで身に覚えがあった。


「貴様の嫌がることをしたいのだ、私に生意気に楯突いた、貴様が守るその女を汚すことでお前は何もできないとわからせてやりたいだけだ」


 そうか、このクレナイ様も幼稚ないじめっ子なんだ。自分を忘れてほしくないとか、言いながら他人の気持ちには寄り添わない。自分の気持ちだけを押しつけて相手を蔑ろにする。


 気に入らなければ相手にどんなことをしようとしても構わない。嫌な気分だ。


「貴様も私のこの肉の中でせいぜい大人しくしていろ、弱らせて呪殺したのち食ってやる」


 そうして肉塊は裂ける。まるで口のように。

 浮遊感が私を襲う、触手の拘束はとかれ、クレナイ様はその巨大な口は私と明田さんを落とした。最低だ、私はまた、負けるのかこんな嫌なやつに。


 口の中に入りそして、口が閉じられる、閉じかける口の隙間から、満月が見えたがそれが最後に見る月なのかと、絶望しながら私は飲み込まれた。


 ─────────────


 べちゃりと音を立てて、私は地面に、というより体内に着地した。


 肉が柔らかいおかげで私たちは助かったみたいだ。気色悪さを感じながらも私は生き残れたことに安心する。

 いや、それでも安心している場合ではない。


「明田さんは……?」


 暗い、光源がないから仕方ないが、それでも近くに人の気配が感じる。すると「ん……」と誰かの息遣いが聞こえた。


「ここはどこ?」


「明田さん」


「アンタ……界?」


 最悪だ、こんな暗闇の中で、私はいじめられっ子と二人だ、でもよかったどうやら、そこまで体調は悪くないらしい。


「よかった無事で」


「待ってここ、どこなの暗いんだけど」


「その、驚かないで欲しいんだけど……」


 私は恐る恐る、明田さんに言った。


「か、怪獣のお腹の中……的な……」


「はぁ?」


 渾身の疑問符が返ってきた。

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