第35話 敗北
終わった、ジンドーは爆煙を眺めながらそう感じた。彼の愛刀、天涙から放たれた光波は間違いなく、クレナイ様の触手を焼き払い彼女自身に直撃した。
ただでは済むまい。
ジンドーがそう思った。その時、爆煙の中から落ちる人影が一つ。少女の原型を保った、その人影はクレナイ様だった。
ビル群の隙間に倒れるように落ちていくと思いきや、彼女は途中で意識が戻ったのか、空中で静止する。
「ぐ……うう!!」
ジンドーの、一撃は確かに効いているのだろう、クレナイ様の表情からは痛みが読み取れた。
そしてそのまま恨めしそうにジンドーを睨みつけるクレナイ様のその目には明らかに憎しみをたぎらせている。
「私の、邪魔を……するな!!」
怒りを訴えるクレナイ様の言葉に対して冷めた声が返ってくる。
「もうやめにしないか?」
それはジンドーの声だった。
「君も神であることに、こだわらなければいいだろう。ただの妖怪として、生きていくことを受け入れるならこれ以上の僕も攻撃はしない」
それはジンドーに、とっては慈悲からの提案だった。なにせ、クレナイ様とジンドーの力量は明らか、さらにそこから負傷したとあっては、もはやクレナイ様に勝ち目はない。
「ふ、ふふ、冗談のつもりか?」
クレナイ様は笑う。そして、ジンドーを見上げながら唾を吐き捨てるように続けた。
「神であることを諦める、忘れられる、それがどういうとか! 悲しみの感情を力にしている貴様ならわかるだろう? 信仰心を失った我々のような存在は忘れられれば──!」
クレナイ様の叫びが空に轟いた。
「死ぬのと同じだ!!」
「同じようだというだけで、実際は違う、僕たちは存在できるだろう、ただ誰にも見られないだけで」
「そんな見窄らしい最後を私に迎えろというのか!!」
ジンドーは頷いた。
「そうだ、僕たちも人間と同じように永遠ではない、忘れ去られることを受け入れなければならない。
……ああ、そうか、わかった。だから君は世の中に復讐する事で、再び人々の心に自身を刻みつけようとしているのか?」
ジンドーの言葉は図星だったのかクレナイ様は顔を歪ませる。
「それの何が悪い、私は忘れられたくない」
それは恐らくクレナイ様の本心から出た言葉だったのだろう。
だからこそジンドーはたった一つの結論に至るしかなかった。
「そうか……ならば君を消すしかない……!」
ジンドーは星空の羽を羽ばたかせるのと同時にクレナイ様に突撃していく。
刀を明日地面と空に対して水平に構え、ジンドーは一切の躊躇なく斬撃を放つ。
ジンドーの愛刀、天涙の刃はなんの邪魔をされることなく、クレナイ様の首に向かう。
あと一寸先、刃が首に触れるという瞬間だった。
ニヤリとクレナイ様の顔が歪んだ。
それを境に彼女の体は風船のように膨らんだ、そして皮膚と着物のうちがわから、肉の塊が溢れ出し、一瞬で、アガミ市の廃ビル数個分を飲み込むほどに肥大化していった。
ジンドーはクレナイ様の変異を一瞬で察知し、クレナイ様の肉の塊に体に潰されぬように距離を取る。
「今更、悪あがきのつもりか!」
ジンドーは叫ぶ。
巨大な肉塊とかしたクレナイ様はそんなジンドーを嘲笑った。
「悪あがき? そうだな、私が今更こんな力に頼るとは!!」
その態度には先ほどまで追い詰められていた者とは思えないほどの余裕を晒すクレナイ様にジンドーは若干の焦燥を覚える。
明らかに、クレナイ様の神としての力が上がったからだ。なぜここまで急激な成長が彼女に起こったのか、ジンドーはかねてより考えていた推測が確信に近づく。
──やはり、第三者の協力があるか!
「いくぞ……!」
肉塊から発せられる、クレナイ様の声と共に、無数の金属状の針が肉界の表面からジンドーに向けて放たれる。
スプレーのように散布されたその針の弾幕をジンドーは避ける。
だが雨のように襲いくるその針を完全に避けることは叶わなかった。
針がジンドーの皮膚に擦り血が滴る。
やがて、針の雨が止むと、クレナイ様の声が再び巨大な肉塊から響き渡る。
「はは、素晴らしいなこの力は!!」
肉塊は三本の触手を生み出し、それを振るう。
明確にジンドーを殺すために振るわれたその触手を当の本人であるジンドーは紙一重で避け続けた。
「わかるぞ! 奈落の悪魔!」
そんな時、ジンドーの意識を散漫にさせるためなのか、それともただ力に酔っているだけなのか。
クレナイ様は煽るように叫ぶ。
「貴様は今の私より弱い!」
やがて、
「ぐ!」
触手の一撃がジンドーに直撃する。吹き飛ばされるジンドー。彼は、廃ビルのもはや誰もいないオフィスに激突した。
「ハハハハ! 終わりだぁ!!」
さらにジンドーが激突したビルに向かって触手による追撃をクレナイ様は繰り出した。
破壊と共に、廃ビルは屋上からジンドーの激突した誰もいないオフィスの階まで破壊される。
轟音が鳴り響き、爆発のような煙が巻き起こる。
そして勝利の確信とも言えるような、笑いがクレナイ様の口からこぼれ落ちた。
「くふふ!! ふはは!!」
勝った、その達成感がクレナイ様の心を支配する。そしてその醜い巨大な肉塊の姿のまま、意識をとあるビルの屋上に向けた。
「次は、貴様の番だ界ヒナタ!!」
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