第32話 私のやるべきこと
「私が、行けば……?」
「ヒナタさん! 耳を貸しちゃいけない!」
ジンドーの心配と怒りのこもった言葉が耳に入る。
「ふざけたことを……! それにこの世を滅ぼすことなどできはしない。忘れかけられた神にそこまで強い力はないはずなのである!」
その通りだ、私もそこが疑問だった、確かにクレナイ様は危険な神様だと思う。でも、そこまでの力は本当にあるのだろうか。
実際そういうふうには考えにくい。そんな力があるならもうとっくに世界を滅ぼしているのではないだろうか。
「もし可能だとしたら?」
だがクレナイ様は笑みを崩さない。
「私は神だ、いくらでも混乱を巻き起こすことなど可能だ」
そして笑いながら周りを見渡して言う。
「私が力を振るえばな。今は力が弱いが、奈落の悪魔……貴様の見えないところで何十人も殺すことだって可能だ」
「そんなこと可能とは思えない、忘れかけられた神にそんなことできないだろう」
ジンドーの言う通りだ、私もそう思う。するとクレナイ様はスカートのポケットから携帯を取り出す。
「可能さ、これを使えばな」
携帯を指してそう言っているのだろうか、クレナイ様の意図が理解できない、何を言いたいのか。
するとジンドーは気づいたのか、まさか、と零す。
「そのまさかだ、奈落の悪魔。既に、私は方法を確立している」
スマホの電気が入るパスワード入力画面が表示されたかと思ったら一人でパスワードは入力され、とある画面を映し出した。
匿名掲示板。しかも、都市伝説系を取り扱うもののようだ。
「ここにもう、あのまじないの仕方を載せておいた」
「……貴様!」
ジンドーが怒る。私も理解した。まさかあの学校の事件を引き起こした。あのおまじないの仕方が世に広まったってことだ。
「形式さえ整えば……つまり、樹齢のある木さえあれば、この簡易的な儀式を通じて人々は感情を我々に訴えかける、その感情に寄生し、この世界に現界すると言う寸法だ。ちょうど今の貴様のようにな、奈落の悪魔」
待ってほしい、クレナイ様の言う通りならかなり大変なことになる、もし全国各地で、そんなことが同時多発的に起ころうものなら……。
「大混乱が起きる……」
私の呟きに、クレナイ様は笑う。
「ふふ、気がついたか? そうだ界ヒナタ、誰かが、興味本意でやるだけでいい、私たちは願いを叶えると言う建前を持って破壊のかぎりを尽くす」
本気か、この神様はいや、本気だ。間違いなく恨んでいるのだ、忘れていた私たちのことを信仰を捨てた私たちのことを。
「とてもじゃないが古代の神のやり方とは思えないであるな? 誰の入れ知恵である?」
「私たちを舐めてもらっては困るな奈落の悪魔」
クレナイ様は余裕を崩さない。
「ああ、そうだ」
唐突にクレナイ様は言った。
「今、百人、死んだぞ。界ヒナタ」
「え……」
何を言っているのかわからない、その単語の意味がわからない、唐突に放たれた数字も、いや私は意味を知ろうとしていないだけではないのか。
「それって、どう言う意味……」
わかってる気がする、でも聞かずにはいられなかった。日差しが降り注ぐなのに全く暑くない、背中に寒気が走る。
「いま百十二人になった」
「貴様!」
それ以上喋らせないとジンドーが叫んだ、でもそうか気付きたくなかった気づくべきじゃなかった。
おまじないはもう広まってしまった、そのおまじないを試した人たちが学校と同じような事件を起こしているのだ。
それで、人が死んでしまった。私たちは後手に回ったのだ。
「そんな……」
私は思わず口を抑える。
「さて、取引の話だが……」
取引か、脅迫の間違いだと私は思った。
「私に食われろ界ヒナタ、でないとお前のせいで人が死ぬぞ?」
私の……。
「君のせいじゃない、ヒナタさん」
「ジンドー……」
「だがどうする?」
クレナイ様は喋り続ける。
「もはや被害は拡大する一方だ、このままでは人は死に続けるぞ?」
それもそうなのだどうすればいいのか、どうしようもないことだ、自動的におまじないを唱える人がいれば加速的に犠牲者は増え続ける。
人の願いなど無限にある、しかも本当におまじないのやり方が学校のものと同じなら用意するのは爪や髪だけ、簡単に真似できる。
「止める方法など簡単だ」
ジンドーは言う。
「この儀式は恐らく、貴様の存在を起点として成り立っている、貴様を消せば儀式は終わる」
「御明察だ、だからこうして少女の体の中に潜んでいる、貴様に殺されないためにな」
クレナイ様は余裕をくずざす笑う。ジンドーは悔しそうに手を握り締める。
明田さんの体の体を取られたことは予想以上に厄介なことになってしまった。
まずい、詰んでいる。
だめだ、でも、どうすれば。
そんなのわかっている。どうすればいいかなんて最初から決まっていた。
「わかった」
私は言う。
「ヒナタさん……?」
ジンドー、そんな顔しないで、それと……。
「ごめんね」
最初から決まっていた、私がやるべきこと、なすべきことは。
「いいよ……貴女についていく、食われればいいんでしょ? だから儀式を止めて、貴女が起点になってるなら止められもするんでしょ」
クレナイ様の口角が曲がり、いやらしく彼女は笑う。
「待ってくれ! ヒナタさん!!」
「もう遅い奈落の悪魔……! 約束は果たそう! 界ヒナタ!」
私の体がふわりと浮く。そしてクレナイ様の近くに体が持っていかれた。まるで見えない何か掴まれたかのように。
「させるか!」
ジンドーは刀を取り出しそして私の腕を掴もうとするだが、ジンドーが近づく寸前彼は吹き飛ばされてしまう。
「無駄だ! 奈落の悪魔! これは盟約だ! 絆の力だ! 貴様といえども干渉はできない、なにせ界ヒナタが私の元に来ると言ったのだからな!」
クレナイ様と私の体が黒いモヤのようなものがまとわりついてきた。
ああ、連れていかれるのだなと思った私はジンドー目を見つめて言った。
「絶対に助けにきてねジンドー」
「ヒナタさん!!」
そのまま私の意識途切れてしまった。
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