第31話 クレナイ様の目的
「……どういうこと!?」
この件名は……一体何が起こっているのか。混乱する私はジンドーの方に振り向く。
「明田さんが行方不明だって……」
私の言葉を、ジンドーは深刻そうに受け止める。
「一線を超えたであるな」
「一線?」
うむ、ジンドーは頷く。
「学校のおまじない……知っているであるか?」
学校のおまじないという単語で思い当たるのはいまのところ、一つしかない。
「松の木のやつのこと? それがどうかしたの?」
「明田さんはそれであの鬼を呼び出したのである」
「……え」
初耳だった、あの甚大な被害をもたらした、事件の原因なんて知る由もなかったから、そうかだから明田さんはお願いしたと言っていたのか、ようやく理解できた。
だが、あのおまじないにそんなとてつもない化物を呼び出すような力があったなんて少し驚きだ。
でもそれとこれとは何か関係があるのだろうか。
「ジンドーでも、それとこれとは何か関係があるの?」
「恐らくなのであるが……」
ジンドーは間を置いた後言った。
「あの鬼は、クレナイ様の配下と見ていいのである、つまり彼女は間接的にではあるがクレナイ様と接点ができた」
まってほしい、ジンドーの言いたいことがなんとなくわかってきた。つまり、明田さんは──。
「クレナイ様に攫われた?」
ジンドーの一線を超えたと言うのはそう言うことだろうついに私以外の人間を積極的に狙い出した。
「それ以上に厄介な可能性もあるのである、もしも──」
チャイム音。
部屋中に鳴り響く電子音に思わず私はびくりと、体を震わせる。
「な、なんだろう? 郵便物かな?」
玄関に向かおうとする私。そんな私をジンドーは肩を掴んで止める。
「ジンドー?」
「吾輩に任せてほしい、何か嫌な予感がするのである」
そう宣言したジンドーは私の前に出てそのまま玄関に向かう。
そして、ドアノブに手をかけたジンド─はガチャリとドアノブを捻った。
いつも通り開くドア、でもその先の光景はいつものものではなかった。
ドアの影から現れたのは私のよく知る人、できれば会いたくない人そして──。
「ごきげんよう」
行方知れずのはずの人。明田さんだった。
ジンドーは咄嗟に刀を取り出して、彼女の喉元に刃先を突きつけた。
「ジンドー?! 何してるの!」
「近づいちゃだめだ、ヒナタさん!」
驚く私は、ジンドーの力強い声色に思わず固まる。だがジンドーが今、剣を突きつけているのは人間の明田さんだ。化物じゃない。
そう、思っていた。明田さんの顔を見るまでは。
笑顔、顔面に張り付いたかのような笑みの表情、なんの恐怖も感じていないその顔は、とても凶器を向けられた人のそれとは思えなかった。
私は察する。
「クレナイ様……」
口から思わず呟いてしまったが、この直感は正しいと感じた。
「ふむ、無理か、女学生になりきったつもりだったのだがな」
「乗っ取ったのか明田さんを」
ジンドーの言葉にククと、笑う明田さんの顔のクレナイ様。
何故、彼女はここがわかったのか、どうしてここにきたのか。疑問と恐怖が私の頭を支配する。
「まあ、落ち着け奈落の悪魔の生き残り」
生き残り? その意味を聞きそびれたまま話は進む。
「私は取引に来たのだ、どうせ学校もしばらく休校なのだろ? 話でもしないか?」
取引、まるで公平かのような言い草だ、脅迫と言ったほうがいいのではないか、実質明田さんの体を人質として扱っている以上、私たちは下手に動けない。
「ジンドー……!」
「……。わかった」
ジンドーは剣を引く。そして何もない空間に波紋を立てて刀は空中に消えていった。
「賢い選択だ。それにしてもいい子だな、お前はこの体の明田コノミとやら、いじめられていたのだろう」
「関係ないでしょ……!」
そうだ関係ない、今の目の前いる明田さんには恨みがある。でもだからといって殺したいわけじゃないし、酷い目にあってほしいわけでもなかった。
「なぜだ?」
「なぜって……」
クレナイ様の質問に答えられない私は、黙ってしまう。
「私はそれが理解できん、なぜこんな女を庇うのか……」
「そんなこと関係ない本題に移れ、神様」
ジンドーがそう遮ってくれたおかげでこのことを私はこれ以上考えずに済んだ。
そうだ、人の命が関わっているのに何を私は迷ってしまっているのか。
「まぁ、いい、では表に出よう、歩きながらでも話そうじゃないか」
─────────────
私とジンドー、そしてクレナイ様の三人はなんとなしに近くの住宅地の路地を歩き始める。
「人間というのはとにかく成長する生き物だと思ったがここまでとはな」
クレナイ様は住宅地を眺めそのまま話し続けた。
「舗装された道、災害に負けぬ家、衛生的な水路、豊かな食糧、天気の予測でさえできるようになっていく」
「さっきからなんの話だ」
ジンドーが私の意見を代弁するかのように聞く。
「神への信仰が薄らいでいると言っているのだ」
クレナイ様はそう背を向けたまま喋る。暑い日差しが私たちを射抜く。そんな中クレナイ様はおもむろに私たちの方を向くと言った。
「だから私は、この世を壊そうと思う」
「え……?」
その発言の意味がわからなかった。
「私を忘れる世界など、もはやどうでもいいだから壊そうと、思うのだ」
「ふざけるな! そんな理由で……!」
憤るジンドー。私は彼女の言葉が嘘とは思えなかった。本気だこの神様は。
「まあ、まてここで取引の時間だ」
ニヤリと笑ったまま神様は言う。
「界ヒナタ、もしお前が生贄になるなら、この世の破壊を見送ってやろう」
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