第29話 古傷
雨は降り続けた、私たち二人はそんなことも気にせずに雨に打たれながら、家に帰ってきた。
私の一軒家の前に降り立ったジンドーは、お姫様抱っこしていた私を、下ろす。
「さあ着いたのである!」
いつもの口調に戻ったジンドーに私は安心感を覚えるがそれと同時に、もっと彼の素の部分を見ていたいような気がした複雑な気分だった。
がしかし、その複雑な感情を表に出すのは少し恥ずかしい。そんな言葉にできない感情の代わりに、私は、
「ありがとう、ジンドー……」
と言った。だがその前に気になることが一つ。
「そういえば、ジンドーはいつもどこに泊まってるの?」
私は少し不安だった。ジンドーはちゃんと住むところはあるのだろうか、まぁコンビニを作れるくらいだからあまり心配はしてないけど。
でも、今は雨だ、そんな中、彼を返すのは気が引ける。
「そんな遠くないのである、家は飛べばすぐに着くであるからな!」
「でも、雨降ってるでしょ」
「それはそうであるな」
「良かったら……泊まっていく?」
私はその瞬間自分の顔が何故か上気するのを感じた。いや、私はただジンドーが心配なだけなのだ。
「悪いよ」
ジンドーは今痩せたままだ、もし今のジンドーを見たら母さんも不審がるかもしれない、でも。
「いいから! 濡れて風邪引いちゃう!」
「いや、吾輩悪魔だから……」
「大丈夫だから! その父さんの部屋があるからそこ使えるし!」
そのまま私はジンドーを家に連れ込んだ。そうだ、別に他意はないのだ、そうだ.何を恥ずかしがってるんだ私は。
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浴槽にお湯を入れる。雨に若干濡れた私としっかり雨に濡れたジンドー。
私たちはお風呂に入るべきだと思った、だからこうして準備をしている。幸いにも母まだ帰ってきていない。
「何か手伝うのである」
「大丈夫、一人でできる」
私は心配そうにそう尋ねるジンドーにそう返す。もつ掃除は終わってお湯を浴槽に入れ始めたのだから、ジンドーの手伝いは大丈夫だ。
それに今日はなんだかジンドーに何かしてあげたかった。それだけだ。
「お湯を入れ始めたよ」
「ありがとうなのである! 悪いであるな!」
「いいの全然、あと先入っちゃっていいから」
「え、でも」
「いいの! ジンドーが一番びしょびしょなんだから!」
でも、と譲り合いを始めそうなジンドーに対して、私も引き下がらない。やがて根負けしたジンドーは、「わかったのである」と、一番風呂の権利を受け取ってくれた。
ふふ、勝った。と内心、譲り合いバトルの勝者である私は謎の勝利宣言する。
そんな少しくだらない、配慮を繰り返してるうちに電子音が響き、録音された声がお湯が溜まったことを告げる。
「ほら、行ってきて!」
「あ、う……うん」
私に急かされるまま、ジンドーは浴室に入って行った。私はジンドーが、出てくるまでの間珍しくテレビでもまだ見ようと思い。電気をつけた。
光がプツリと灯り、テレビの画面に情報が映し出される。
なんてことない、と恋愛ドラマを流し見しつつ、ジンドーのことを待っていた。
そのせいだろうか、この状況がいつのまにか恥ずかしくなってきたのは。
何故だろう、いつのまにかジンドーを何故ここまで意識するのか。
私にもわからないただ一つ言えるのは……。
「悪い気はしないかな……」
それは全く不愉快じゃなかった。むしろ、頭の中に浮かんでくるのはジンドーのことばかり。
認めるのが恥ずかしい、でも、きっとそうなのかもしれない。
私は……。
バンと、音が聞こえたのは、そんな思考の最中だった。
浴室の方からジンドーの身に何かあったのか。
「ジンドー!?」
嫌な予感がした私は何も考えることなく、浴室に向かって走った。
そして思い切り脱衣所の扉を開ける。
ジンドーが浴室と脱衣所の境目で倒れている
まず目に映ったのは、無数の傷跡、うつ伏せで倒れている裸のジンドーの体に刻まれた生々しいほどの傷跡だった。
「これ……」
絶句した。あまりにも生々しい古傷の跡、背中だけでなく、足や腕、服で今まで見えなかった箇所にその夥しい数の傷跡があった。
そして気がつく、今まで見えなかっただけでジンドーはずっと過酷な戦いを強いられていたのだろうと。
きっとそれは私のせいでもあるのだろう。私がもっと気をつかってあげれば、いやそんな後悔の前に、医者に、いや医者は悪魔を治してくれるだろうか、とそんなことを考えている時だった。
「う……ん……ッ!」
ジンドーの瞼が開く、そして私の心配そうな顔を認識した途端に、星空の羽を生やし、その羽で体を覆い隠した。
そしてか細い声で言う。
「ごめん、醜いものを見せた」
そう言って羽を体に纏い、座り、うずくまるジンドー。
「そ、そんなことない!」
わたしは思わずそう言った。
「ジンドーの体が醜いなんてわたし思わない! 私みたいな人達を助けるために負った傷なんでしょ、私は、むしろ……」
そう擁護しかけた後気がついた。
ジンドーがすぐに目を覚ましたからだろうか。
目の前の、裸のアイドル顔の男性、美少年といえるその顔立ちを持った人が一糸纏わない姿でいることに。
急に頬が熱くなる。
するとジンドーはボソリと言った。
「スケベ……」
「ちが……っ! こ、これは倒れる音がして、その……!!」
「ふふ、冗談である……ありがと、界さん」
からかわれた、ジンドーに……!
「じゃあその……服着るから……」
「え、お、うん!! ていうか大丈夫なの!?」
私の心配にジンドーは口元を綻ばせながら、
「大丈夫、少し疲れただけだから」
と、言った。それが本当なのか、強がりなのかわからなかったが、心配する私だったが、結局ジンドーにも勧められて、その後お風呂に入った。
チャボンと、並み立つお湯が張られた浴槽に私は入りホッと息を吐くだが、思い返させるのはひとつだけ。
ジンドーの体だった。すると頬は上気したまま、同時に、彼の痛みを今まで気づかなかった自分に嫌気がさした。だからだろうか私は、全然リラックスできなかった。
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