表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奈落の悪魔と雨に踊れば  作者: 青山喜太
出会い編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/63

第28話 奈落の悪魔と雨に踊れば

「ジンドー……」


 私はうずくまっている状態から顔を上げる。目の前にはジンドーがいた。

 いつものぽっちゃりな姿ではなく痩せている。


「今までどこにいたの?」


 ずっと、この数日間ジンドーはいなかった、なんでまた今更現れたのか。


「すまないのであるちょっと正体隠すのに、いろいろしてたのである」


 やっぱりそうか、通りでジンドーや鬼の大男の話がないわけだ。


「そう、なんだ……」


 私は再び顔を下げて、うずくまる。ジンドーの心配そうな声が再び聞こえた。


「君の悲しみが強くなるのを再び感じ取ったのである」


 何があったのであるか? そう聞く彼に私は何も答えられない。だから私は、ただうずくまるだけ。

 それでも彼は、私に話しかける。


「もうすぐ日が暮れるそれに雨も降るのである、だから──」


「降ってもいい、家に今帰りたくないから……」


「……そうか……なら──」


 ジンドーはうずくまる私と同じ目線の高さになるようにしゃがみ込んだ。


「どうせ雨に濡れるならいいところがあるのである」


 ─────────────


 やってきたのは、ビルの上だった。かなり高い、クロカミ市の上場企業のビル。そこで私とは日が暮れる時だというのに、その屋上に無理やりジンドー空から運ばれて、連れてこられたのだ。



 一体何を、どうしたいのかわからないまま、ジンドーの方を私はじっと見る。


「待ってて」


 待っててという言葉に、私は訝しげにしながらも、待つ、でもちょうどいい。どこで落ち込んでもうがそれほど変わりはしない。


 やがて、日は完全に暮れた。その間ジンドーは何も言わなかった。私も何も話す気にもなれなかった。ただ目を伏せてシクシクとなくだけだった。


「見て」


 ジンドーはいう。


「これを見せたかったのである」


 私はジンドーの指差す方を見た。一体何を見せようというのか。

 そして私は理解する。ジンドーが何を待っていたのか。


 星空が地面にあった。


 人々つけた電気の灯り、それがまるで星空のように、地面に広がっていた。ちょうど、このビルの高さからでしか見れないこの景色は、何とも言えず美しい。


 この美しい夜景がこんなところで見れるなんて、思いもしなかった。


「よかった、雨が降る前に見られて」


 そうつぶやくジンドー。彼は嬉しそうに笑った。


「何があったのかは聞かない、でもこれだけは覚えていてほしい」


「……うん」


「僕は君の……笑顔が見たい、幸せでいてほしいんだ」


「……そうすれば、故郷の……奈落の雨が止まるから?」


「それもある」


 ジンドーは率直にそう言った。


「でも、それだけじゃない、君はね、君が思ってる以上に優しい人なんだ。そういう人は、幸せにならなきゃダメなんだ、僕はそう思う」


「どこが……」


 だめだ、いうな、私。


「私はどこも優しくなんかない!」


 あぁ……。


「何にも知らないくせに、あったばかりのくせに! わかったような口聞かないで!」


 なんでこんなこと言ってるんだろう……私。

 こんなこと言いたいわけじゃないのに、私はただ。


「そうだな……」


 ジンドーもほら、困惑してる、嫌われたジンドーにも唯一の友達なのに。


「ならなぜ、君は罪悪感を感じているのである?」


「え?」


「君の心からは罪の意識による悲しみがあるのである、とてもじゃないけど拭いきれないほどの、罪の意識が」


 ポタリと水滴が落ちる、それは私の涙なのか、それとも雨なのか、わからない。


「僕は……いや……いい……」


 ジンドーは、羽を再び背中から生やす。


 そして手を差し伸べた。私に対して。


「いま、わからなくてもいい……」


 ジンドーはいう、そしてついに雨は降り出した。


「でも、今だけは僕の手を取ってくれないか」


 私はコクリと頷いてジンドーの手を取る。


 するとジンドーはニコリと笑った。


「踊ろう!」


 そのままジンドーは宙に飛び上がり、ビルから真っ逆さまに飛び降りた。私を連れて。


「あ……!!」


 私は何も言えず恐怖から、黙りこくってしまう。浮遊感と共に、宙に落ちる私とジンドー。

 だが、途中でジンドーは方向を転換し、夜景の中に私を連れて行った。


 雨の降る中、水滴を切り裂いて飛ぶ、ジンドーに抱えられて。通り過ぎていく夜景が私の目に映る。


 それがとても美しかった、ジンドーに必死に捕まって、私はそれを眺める。


「力、抜いていいよ」


 ジンドーは優しく私の耳元で囁く、イケメンの状態でやらないでほしい少し、ドキドキする。


「絶対、落とさない」


 その言葉を信じて、私は腕から力を抜いた。そしてそのままジンドーに向き合った状態で、捕まっていた姿勢から背を向ける形に変わる。


 ジンドーは私の腰を持って、支えてくれる。そのおかげで私はまるで自分が飛んでいるかのような錯覚を得た。


 綺麗だ。私の眼下ではどこまでも文明の光が広がっている。


「すごい、飛んでいるみたい」


 どこまでも、どこまでも、飛んでいける。

 雨の中を飛ぶ私はそんなことを思っていた。

 やがてまるで踊るみたいに、空中を遊泳した後、ジンドーは夜景を下にしてピタリと止まり、私の膝と背中を支えて抱きかかえた。


「忘れないでくれ」


 ジンドーの声がするどこか安心する声が。


「僕は君の味方だ」


 その言葉に何故か胸が熱くなる。


「そして、もし君が罪の意識で押しつぶされそうなら……その重荷半分くらい持たせてよ、僕たちは……もう友達だろ?」


 頬が濡れる、それは多分雨のせいだけじゃない、だけど悲しいわけじゃないんだ。

 悲しいわけじゃない。


 ただ、嬉しかったんだ。私の心はそう感じたんだ。

ここまで呼んでいただいてありがとうございます!

もし

面白いな、だとか

応援したいな

と感じてくださいましたら

下にある[☆☆☆☆☆]マークをタッチして。

[★★★★★]にしていただけるとモチベーションにつながります!

どうかよろしくお願いいたします!


そしてよろしければいいねの方もよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ