第28話 奈落の悪魔と雨に踊れば
「ジンドー……」
私はうずくまっている状態から顔を上げる。目の前にはジンドーがいた。
いつものぽっちゃりな姿ではなく痩せている。
「今までどこにいたの?」
ずっと、この数日間ジンドーはいなかった、なんでまた今更現れたのか。
「すまないのであるちょっと正体隠すのに、いろいろしてたのである」
やっぱりそうか、通りでジンドーや鬼の大男の話がないわけだ。
「そう、なんだ……」
私は再び顔を下げて、うずくまる。ジンドーの心配そうな声が再び聞こえた。
「君の悲しみが強くなるのを再び感じ取ったのである」
何があったのであるか? そう聞く彼に私は何も答えられない。だから私は、ただうずくまるだけ。
それでも彼は、私に話しかける。
「もうすぐ日が暮れるそれに雨も降るのである、だから──」
「降ってもいい、家に今帰りたくないから……」
「……そうか……なら──」
ジンドーはうずくまる私と同じ目線の高さになるようにしゃがみ込んだ。
「どうせ雨に濡れるならいいところがあるのである」
─────────────
やってきたのは、ビルの上だった。かなり高い、クロカミ市の上場企業のビル。そこで私とは日が暮れる時だというのに、その屋上に無理やりジンドー空から運ばれて、連れてこられたのだ。
一体何を、どうしたいのかわからないまま、ジンドーの方を私はじっと見る。
「待ってて」
待っててという言葉に、私は訝しげにしながらも、待つ、でもちょうどいい。どこで落ち込んでもうがそれほど変わりはしない。
やがて、日は完全に暮れた。その間ジンドーは何も言わなかった。私も何も話す気にもなれなかった。ただ目を伏せてシクシクとなくだけだった。
「見て」
ジンドーはいう。
「これを見せたかったのである」
私はジンドーの指差す方を見た。一体何を見せようというのか。
そして私は理解する。ジンドーが何を待っていたのか。
星空が地面にあった。
人々つけた電気の灯り、それがまるで星空のように、地面に広がっていた。ちょうど、このビルの高さからでしか見れないこの景色は、何とも言えず美しい。
この美しい夜景がこんなところで見れるなんて、思いもしなかった。
「よかった、雨が降る前に見られて」
そうつぶやくジンドー。彼は嬉しそうに笑った。
「何があったのかは聞かない、でもこれだけは覚えていてほしい」
「……うん」
「僕は君の……笑顔が見たい、幸せでいてほしいんだ」
「……そうすれば、故郷の……奈落の雨が止まるから?」
「それもある」
ジンドーは率直にそう言った。
「でも、それだけじゃない、君はね、君が思ってる以上に優しい人なんだ。そういう人は、幸せにならなきゃダメなんだ、僕はそう思う」
「どこが……」
だめだ、いうな、私。
「私はどこも優しくなんかない!」
あぁ……。
「何にも知らないくせに、あったばかりのくせに! わかったような口聞かないで!」
なんでこんなこと言ってるんだろう……私。
こんなこと言いたいわけじゃないのに、私はただ。
「そうだな……」
ジンドーもほら、困惑してる、嫌われたジンドーにも唯一の友達なのに。
「ならなぜ、君は罪悪感を感じているのである?」
「え?」
「君の心からは罪の意識による悲しみがあるのである、とてもじゃないけど拭いきれないほどの、罪の意識が」
ポタリと水滴が落ちる、それは私の涙なのか、それとも雨なのか、わからない。
「僕は……いや……いい……」
ジンドーは、羽を再び背中から生やす。
そして手を差し伸べた。私に対して。
「いま、わからなくてもいい……」
ジンドーはいう、そしてついに雨は降り出した。
「でも、今だけは僕の手を取ってくれないか」
私はコクリと頷いてジンドーの手を取る。
するとジンドーはニコリと笑った。
「踊ろう!」
そのままジンドーは宙に飛び上がり、ビルから真っ逆さまに飛び降りた。私を連れて。
「あ……!!」
私は何も言えず恐怖から、黙りこくってしまう。浮遊感と共に、宙に落ちる私とジンドー。
だが、途中でジンドーは方向を転換し、夜景の中に私を連れて行った。
雨の降る中、水滴を切り裂いて飛ぶ、ジンドーに抱えられて。通り過ぎていく夜景が私の目に映る。
それがとても美しかった、ジンドーに必死に捕まって、私はそれを眺める。
「力、抜いていいよ」
ジンドーは優しく私の耳元で囁く、イケメンの状態でやらないでほしい少し、ドキドキする。
「絶対、落とさない」
その言葉を信じて、私は腕から力を抜いた。そしてそのままジンドーに向き合った状態で、捕まっていた姿勢から背を向ける形に変わる。
ジンドーは私の腰を持って、支えてくれる。そのおかげで私はまるで自分が飛んでいるかのような錯覚を得た。
綺麗だ。私の眼下ではどこまでも文明の光が広がっている。
「すごい、飛んでいるみたい」
どこまでも、どこまでも、飛んでいける。
雨の中を飛ぶ私はそんなことを思っていた。
やがてまるで踊るみたいに、空中を遊泳した後、ジンドーは夜景を下にしてピタリと止まり、私の膝と背中を支えて抱きかかえた。
「忘れないでくれ」
ジンドーの声がするどこか安心する声が。
「僕は君の味方だ」
その言葉に何故か胸が熱くなる。
「そして、もし君が罪の意識で押しつぶされそうなら……その重荷半分くらい持たせてよ、僕たちは……もう友達だろ?」
頬が濡れる、それは多分雨のせいだけじゃない、だけど悲しいわけじゃないんだ。
悲しいわけじゃない。
ただ、嬉しかったんだ。私の心はそう感じたんだ。
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