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奈落の悪魔と雨に踊れば  作者: 青山喜太
出会い編

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第20話 あの時の記憶

 県立クロカミ病院の職員用出入り口、その付近で、私とジンドーは待っていた。私の母が来るのを。そう、母は医者なのだ。


 開いていく職員用出入り口の自動ドア、最初は看護師らしき人々が出るのが見えて次に、お医者様らしき人たちが出てきた。

 そして、ついに、夜勤の看護師が入館する前に、目当ての人がやっとでてくる。


「きたよ! ジンドー!」


「では、あの人が?」


「うん、私のお母さん、界ミキ」


 おお、と喜ぶとジンドーは早速、髪型を整え始めた。


「何してるの?」


 私が聞くと、ジンドーは意外そうな顔をした。


「何をって初めて界さんの母上に会うのだからな! 身だしなみは完璧に──」


「待って! お母さんに会うのはまずいって!」


「なんでであるか!」


「だってその、男の子の友達なんていなかったし、今まで……なんで説明したらいいのか」


「あ! 界さん! 界さんの母上、バスに乗るのである!」


 なんて!? やばいそんなこと言ってる場合じゃなかった!

 母さんは家に帰れば寝ちゃうだけだ! それを見計らって職場まで来たのに!


 私は思わず走り出し、バスに乗る。もちろん母さんの視界に私は入るわけで


「あれ? ヒナちゃん? なんでいるの?」


「か、母さん、今いい?」


「うんいいけど……バスの中で、どうしたの?」


 走って乗ってきた私を怪訝な顔で母さんは迎えつつ、それでもまぁなにか事情があるのか察してくれたのか、話は聞いてくれるようだ。


「それで、どおしたの? 職場まで来るなんて珍しいじゃない」


「その……」


 バスの後部、二人用の席で私は言葉に詰まる。そういえば母さんと話すの久しぶりだ。

 それにずっと自室に塞ぎ込んでいた娘が急に職場に突撃したきたのだ、驚くだろう。


「聞いたわよ、学校、行けたんだってね」


「うん……」


「ごめんね、お母さん仕事が忙しくて、その……ヒナちゃんに全然、お話とかも聞いてあげられてなくて」


 知ってる、でもしょうがないことなんでしょ、お母さんにしか救えない人がいるんだから。

 私の生まれる前から、母は医者だ。だから母は私の母である前に病院の先生であり続けている。


 私はそのことを誇りに思う。たまに……少しだけ寂しくなるけど。


「あのね、昔、私さ。病弱だったでしょ」


「ええ」


「その時のこと聞きたいなって、どんな些細なことでもいいの! 私ってあの時どうしてた? 病気してた時!」


「あら、突然どうして?」


「その……いろいろ気になって……」


 すると母さんは、まぁいいけど、って付け足して話し始めた。


「ヒナちゃんの病気ね、全然原因がわかんなかったの」


 走るバスの中、母の顔に少し影が落ちる。


「だから、私も、アナタを担当した杉本先生も、怖かったわ」


 杉本先生、確か小学生の時の私を担当したお医者様だ。


「怖かった?」


「だって、本当に原因がわかんなかったんですもの、別に何か体に異常があるわけでもない、採血もしても何にも問題が出ない、ただ周期的に熱が上がったり下がったり、不気味だったわ」


 そういえばそうだった、波みたいに熱が上がって下がって、本当に大変だった。


「ついには入院まで、してねそこまでましたのに、私達は何にもできなかった。お父さんもお母さんも、クロカミ病院のみんなも。唯一何かできたのはあの子ぐらいかしら」


「あの子?」


「忘れちゃったの? ほら……えっと……そう! カイくん」


「……あ! カイくんってあの!」


 その時、私は思い出した。病院に入院していた頃、個室の病室だったのだが、隣にも同じく小学生の男の子が入院していた。


 名前はカイくん。よく私の病室に遊びにきていた。


「結構ね、あの子とヒナちゃんが仲良くなり始めてから、発熱を起きない時期があったのよね」


「そういえば、そうかも」


 たしかに私がカイ君と関わり始めてから、何か楽しい思い出の方が多かったような気がする。

 そうだ、よく遊んだな、おんなじソシャゲやってたから話もあったし、唯一の友達だったかも。


「だから、変な話、カイくんがすごい頼もしかったな母さん、なんだかあの子がヒナちゃんを守ってくれた気がして」


「……そういえば、カイ君はどうなったの」


 話している途中、なぜ、私がカイくんを忘れていたのかも思い出した。いつの日かひどい熱に襲われてしばらく私が昏睡した時期があった。

 確か1ヶ月くらい。目が覚めたら隣の病室にカイ君はいなくなっていた。


 そうつまりそれ以降カイ君には会っていない。


「……言いにくい結構ショックな話だし、あなたにとって……」


「いいよ、大丈夫」


「亡くなったの……」


「……!」


「その……不謹慎かも知らないけど、本当に不思議だったの……カイくんが亡くなったあと、アナタが目が覚めて……まるでカイくんがアナタの病気を連れていってくれたみたいに……」


 その時、私の中でピースがつながった。クレナイ様の言ってた、代わりの贄ってもしかして……。


「待って、そんなことあり得ない……どうして? カイくんが?」


 そんな都合の良いことがあるだろうか? そもそもカイくんは今回の件になんの関係もないはずだ。


 私の中で謎は膨れ上がるばかりで、いつしかバスはうちの最寄りのバス停に停まった。

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