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奈落の悪魔と雨に踊れば  作者: 青山喜太
出会い編

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第19話 土着神

 クレナイ様、わたしは思わずその単語に見入る。テーブルの上に置かれた民話集の本が異様なものに思えるほどの緊張。


 間違いない、これは、あの子の、赤い着物の神様のことだ。

 ただの直感だけど、確かな気がした。それと同時に背筋にゾクリと寒気が走る。まるでこの直感の正しさを証明するかのように。


 だとするなら尚更、読まなければならない。この民話を。


 ─────────────


 その昔、とある国に災いが降りかかった。作物は育たず、水は干からび病が蔓延った。国の長は困りに困り果て、いっそ死んでしまおうか崖から身を投げようとした時だった。


 その時、赤い衣を身に纏う女が、現れた。


 女は言った。


「なぜ、死のうとするのか?」


 長は侘しそうに言った。


「もはや我が国は立ち行かぬ、このまま国が滅びるのをみるのは辛いだからいっそ……滅びの瞬間を見る前に死んでしまおうかと思ったのだ」


 女は笑う。


「そのようなことで死ぬのか? 私ならば国など、どうにでもなる」


 女は長に近づいて囁いた。


「貴様の子供を十年に一度、寄越せ、そうすれば再び、貴様の国に富をもたらそう」


 長は肝を抜かれた、子供を犠牲にするとはいかがなものか、しかしこのままでは民も、自分の家族も死ぬことは確かであった。


 長はやがて首を縦に振った。

 それをみた女は笑うと、霞のように消え去った。

 すると枯れ果てた緑は、息を吹き返し、雨が降り大地は潤い。病は何処かへと消え去った。


 代わりに長の末の娘はパタリと倒れ、死んでしまった。

 長は嘆き悲しみ、しかし、同時にこの哀れな娘の犠牲を忘れまいと、胸に誓った。


 そして同時に国を救ってくれた、赤き衣の女を畏怖から神として、崇めることにした。

 その名もクレナイ様。


 今でもその儀式は続いている。


 ─────────────


 これだ、間違いない。


「ジンドー……!」


 小声で私はジンドーを呼ぶ。


「界さんまさか見つけたのであるか……!」


 ジンドーが嬉しそうに近づいてくる。私は本をジンドーに指をさして見せた。


「ここ……! クレナイ様っていうところ……!」


「これは……」


 ざっと見通すジンドーは確信したかのように頷く。


「なるほど、確かに納得なのである、類似点も多い、これで間違いなさそうなのであるな」


 だが、とジンドーは続けた。


「場所はどこであるか? シジマ県、といっても場所が広すぎるのである」


「浅い水辺……夢で見た水平線の見える浅い水辺が多分、彼女の本拠地なんだろうけど、海なんてうちの県は面してないし、どこなんだろ?」


 ううむ、とジンドーも頭を片手で押さえてしばらく悩むと、再びハァとため息をついて言った。


「しょうがないのである、場所はともかく、こんどはクレナイ様について、調べてみようなのである……!」


「うん……!」


 だが、それ以降目立った、発見はなかった。図書館の閉館時間まで探したというのにだ。


 私は徒労と共に図書館を出て、少し西に傾いた日差しを受けながら、「疲れた」と呟いた。


 一方ジンドーは、元気にしているようで、図書館から出た瞬間にストレッチをし、


「なかなか楽しかったであるな!」


 なんて言うほどだった。本当に元気だなぁ。私とは体力のつき方が違うのだろう。

 そして帰り道、私は相変わらずジンドーにお姫様抱っこをしてもらって、帰っていた。


 恥ずかしいとかそう言う気持ちはもう慣れたもの、あまり感じない、多分。

 ジンドーの顔を見なければ大丈夫だ。


 気を紛らすために私は相変わらず空を行くのは涼しくていいな、などと考えながら、私はクレナイ様の伝説について考えていた。

 民話、つまり伝承の中では長の末っ子の娘が突如として死んでしまった、似たようなことが私の身にもあったのだろうか? すると、ふと思い出した、小学生の時のことを。


「そういえば……小学生の時の病気って、原因不明だったっけ」


「どうしたのであるか? 突然」


「あのね、私、小学生の時の病弱って言ってたでしょ」


「うむ」


「なんの病気かも知らされてなかったの」


「……! では、その原因不明の病とは……!」


「うん、クレナイ様に連れて行かれようしてたって事なのかも」


「なるほど」とジンドーが言った。風を切りながらからの表情は若干険しくなっていく。ジンドーもどうやら、私が何を言いたいかわかってきたと言う事らしい


「だが今も、こうして元気になっていると言うことは……」


「……もしかしたら小学生の時に何かがあって私は生贄にならずに済んだ。原因はきっと小学生時代にあるはず! そひてそれをよく知るのは人は限られてる!」


「界さんの父上と母上であるな!」


「そう!」


 私は頷いた。


 そうと決まれば、話は早いジンドーに頼んで、最速で飛ばしてもらった。

 目標は私の母の職場、病院だ。


 ──────────────


 私の母は仕事が家族だ、それも筋金入りの仕事人間、なにせ年収にものを言わせて、なるべく仕事ができるように家に帰らず、職場近くのカプセルホテルで泊まってまた仕事に行くなんて芸当を一週間ぐらい続けたこともある人だ。


 私が中学生になった今もほとんど会話なんてしない、帰って寝るだけの人、もっとも私自身が顔を合わせづらいというのもあるけど。


 とにかくまともに最近会話したかどうかすら怪しいと言うのがうちの家庭状況なのだ。


 だがそれでも、向き合わなければならない今の母と、私が生きるためにも。


 県立クロカミ総合病院、私はジンドーと共に母に直接話を聞くつもりだった。

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