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奈落の悪魔と雨に踊れば  作者: 青山喜太
出会い編

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第14話 再び

「何、あんた?」


「吾輩の名は、大福 仁斗である! 君は確か隣の二年二組の、明田コノミさんであるな!」


 ついに二人が出会ってしまった。まさかの事態に私は固まってしまった。

 ジンドーがきたことで精神的には助かった。が、しかしこの状況はどうすればいいのだろうか。


「知らない、転校生? あんた」


 冷たく、ジンドーを突き放す明田さん、だがジンドーは気にすることなく、話し続けた。


「そうである! 噂になっているであるか?」


「ああ、そんなキモい話し方してる奴、噂にならない方がおかしいでしょ」


「照れるであるな」


「褒めてない! キモい!!」


 す、すごい。明田さん相手に、ジンドーは食らいついている。私がコミュ障なだけかもしれないけど。

 それでも、あんな威圧的な話し方をする明田さんに対してジンドーは全く気圧される様子がない。


「だいたいなんなの! 急に入ってきて!」 


「吾輩とあるものを見つけたのである」


 すると、ジンドーはどこからともなく、いや今回は私が気がついていなかっただけか。

 手に持っていたものをバッと、明田さんに見せつけた。


 女子用の白いスニーカー、私の靴だった。


「近くのゴミ箱に捨てられたのである、多分ここにあるべき物だろうから。なのである。」


「は、キモ、わざわざ漁って持ってきたの?」


「そうである、誰かが困ることになるのであれば可哀想である。それに──」


 じっと、ジンドーは明田さんを睨みつけると、


「くだらないイジメも横行してるようであるからな」


 そう言うジンドーの目線は、明田さんを貫いた。君がやったんだろう、そうジンドーは明田さんに訴えかけているようだった。


 その目に一瞬たじろぐ明田さん。すると、すぐに不機嫌そうに顔を顰めると。足早に下駄箱から早歩きで、離れていく。


「うぜーんだよ! デブ!」


 そんな台詞をジンドーに投げかけて。


 ────────────


「こ、怖かった」


 明田さんが言った後、私は下駄箱に手をつき寄りかかる。

 ちょっと目眩までしてきた、本当に大変だった。

 まさか復学そうそう、こうも目をつけられるとは。


「いやぁ、随分と攻撃的な人なのであるな! 明田さんは!」


 ナハハと、笑うジンドー。

 そんな余裕がよくあるものだ。


「ジンドーはよく平気だったね」


「何を、前に戦ったお化けに比べれば可愛いものである!」


 それもそうか、私はただ、震えていたり、捕まったりしただけだけど、ジンドーは常に生きるか死ぬかの戦いを繰り広げてきたんだ。


「そっか、強いんだ、ジンドーは」


「ふふ、なんである? 突然」


「ううん、なんでもない」


 もし、ジンドーがいなかったら、私はさっき何ができていただろう。

 私はただ運がいいだけだ。

 ジンドーに選ばれた運のいい人間。


 そうだ、そうなんだ、私は自分の力じゃ何にもできていないじゃないか。


「ごめんジンドー、私忘れ物した」


「……うん、わかったのである」


 嘘だった。


 本当は一人で泣きたかったんだ。

 だから私は早足で、放課後、誰もいない二階の二年三組のトイレの個室に行った。冷たい便座に座ると私はただ、耐えきれなくなって……。

 そこで泣いた。

 死にたかった。


 何もできない自分が、ジンドーに助けられてばかりの自分が。

 何もできていない自分が。


 学校にきて何かやれた気分になれた。でもそんなのは幻想だ、私は何にもできていない。


 私はジンドーに助けられてばかりで──。

 一人じゃ何もできなくて──。


 弱くて情けない。それが今の私だった。

 明田さんに立ち向かう度胸なんてない。本当なら私がなんとかしなきゃいけなかったのに。


 そんな思いがドロドロの感情が、胸の中で溢れ出して、私は──。


 ──ガシャン。


「グス、何の音?」


 ガラスが割れたような音がした。廊下の方からだ。

 私は気になって、トイレを出る。多分気分転換もしたかったのだ。


 何かしらの、例えば何かの拍子て窓ガラスとかが割れたのなら先生に報告しなきゃな、と思うと同時に、私はさっきの割れた音のおかげで少し冷静になれたのだと思う。


 いつまでも泣いていてもしょうがないと。もう、家に帰ろうと。

 トイレを出た後、私はその音のした方に言った。

 二年三組の廊下だった。ちょうど他のみんなは部活などで、誰もいないその廊下には、外から聞こえる運動部の掛け声が聞こえていた。


 そんな中、私の目の前には、飛び散ったガラスの破片。


「やっぱり、ここの廊下……。どこかの部のボールでも入ったの──」


 そう言った瞬間だった。私は異変に気がついてしまった。

 ボールなんてものはない。それどころか窓ガラスを割った原因となる物がどこにも見当たらない。


 まるで一人で割れたみたいに散らばるガラスは、異様だった。


 ──ハァァ……。


 すると私は気配を感じた。誰かの吐息、何か得体の知れない悪意がこもっているそんな気がした。

 上から降りかかるそれに恐怖しつつも思わず私は上を向いてしまう。



 体から異常に長い人間の手が八つ、蜘蛛の足のように連なっていて、そして頭部は人間のような風貌をしているものの、髪が異常に長く、大部分が隠れてしまっている。


「あ、あ……」


 化物だ。人の丈以上あるその姿をみて私は確信した。


 腰の抜かした私はその場でペタンと、座り込んでしまう。

 そしてその蜘蛛化物の手が私に向かう、何をするつもりか、想像したくすらない。


「界さん!」


 瞬間、化物は咄嗟に身を引き、私から距離を取った。

 彼が現れたからだろう。


「ジンドー……」


「界さん、すまない待たせたのである!」


 私はまたジンドーに、助けられた。

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