Quest27
オークの数が増加中。
こんな噂が広がったのは澪夜が仮ではあるが【蒼の羽根】に加入した翌日からだった。
噂の出処は、冒険者から、酒場から、商人からなどと様々であったが、共通していることは他のモンスターを殆ど見ていないということだ。それと同時にちらほらとだが、ゴブリンとオークが一緒に居るのを見たというものも。
特定のモンスターの数が突然増加するということは珍しくはあるが無いということではない。しかし、特定のモンスターの増加──暫定的に氾濫と呼ぶとしよう──が起こったからと言って他のモンスターが居なくなるかと言えばそうではない。
例えばゴブリンが氾濫したとしても、角狼や六目猪などを始めとしたモンスターが消えるわけではない。
オークに関してもそうだ。角狼などは駆逐される可能性があれど、剣爪熊などのモンスターは存在していた。
ただし、とある一つの事件を除いては、だが。
「結構噂が広まってるみたいですね、先輩」
冒険者ギルドの職員用休憩室。
受付嬢達が休憩しているここでは、オークの増加に伴う噂が広がっているという話が出ていた。
冒険者ギルドの受付嬢の仕事というのは割と多岐にわたる。
冒険者のクエスト受注の手続きはもちろん、新規冒険者の登録やそれに伴う説明、市民や役人からの依頼の受理とそれに伴う妥当な報酬の算出と手数料などの受け取り、冒険者達からの素材買い取りの仲介と金銭の支払いなどなど。
華やかさと同時に能力も問われるのが冒険者ギルドの受付嬢なのだ。
そんな彼女たちの下には情報が集まってくる。さらに言えば、依頼をしに来た人間との会話などから街での噂なども入ってくる。
この日に限っても、数多くの人間から彼女たちはオークの話について訊かれたり、話されたりしていた。
「そうねぇ、明後日あたりには国の方から発表がされるかしら?」
見た目は小さいが休憩室に居る受付嬢の中で最年長のドワーフがそう言った。
世間ではまだ噂が出たばかりではあるが、冒険者ギルドとしては実態が殆ど掴めている状態である。
特に昨日の夜帰ってきた冒険者パーティー【夜の帳】からの報告によって齎された情報は大きなものであり、九割方200年前と同じことが起こると冒険者ギルドは予想していた。
恐らくではあるが、国の方もある程度は把握しているだろうし、大貴族が襲われたのだから対応も早いだろうというのが冒険者ギルドの考えだ。
「オークの氾濫……いえ、大侵攻が起こった場合どうなると思いますか?」
この問いに関しては皆が同じことを思っていただろう。
果たして、オークに勝てるのかと。
200年前の際のオークの数は数万とも数十万とも言われている。流石に数十万というのは多少の尾ひれが付いていたとしても3万は確実に居ただろうとされている。
現在、王都に居る国の兵の数は騎士を含め3万ほど。しかし、戦うとなれば王都や貴族たちを守るために人員は割かれ実際に動けるのは2万ほどになるだろう。
そこに冒険者達が加わるわけであるが、オークと戦うのなら銅級1人で一体を相手にすることになる。現在王都に居る冒険者は上級とそれに準ずる者としてミスリル級冒険者が28人、白金級が64人、金級が145人、銀級が322人だ。その他、戦力となるであろう者達、鉄級が約1000人、銅級が約1500人、赤銅級が約2000人として冒険者合計5000弱。
国軍と併せて25000ほど。もし仮に200年前を上回る数が来たとしても多少ならどうにかできるだけの数は揃っているし、王都故に王国最強と呼ばれる剣聖も、筆頭剣術指南役も居る。
それを踏まえれば。
「被害は出るだろうけど、負けることは無いんじゃないかしら?」
と、ドワーフの受付嬢は結論を出した。
冒険者ギルドとしても殆ど同じ結論が出ていた。
「ただ、戦う場所は考えないといけないでしょうね。そうなるとどうなることか」
「勿論その通りよ。戦う場所によっては被害は大きくなるわ」
例えば、だが。
仮にオークと戦うとなった時に平野で戦うのと、王都周辺で戦うのでは戦闘方法は大きく異なる。
前者ならば、真っ向勝負か包囲殲滅かそんなところだろう。
パワーに優れるオークとの真っ向勝負。大きな被害が出るのは予想に難くない。
後者ならば、いざとなれば王都へ逃げ込めるだろうし、魔術師達は王都の城壁から一方的に攻撃できるだろうから有利ではあるだろう。しかし、王都の城壁周辺には家畜や作物を育てる農園が存在しており、そこが戦闘に巻き込まれてしまうだろう。
被害はどちらも出る。
ただし、不足の事態が起きた際に戦っている場所によっては被害が大きくなってしまう。だが、被害ばかりを考えていては戦いにくくなり結果としてオークに蹂躙されてしまうこともあるだろう。
冒険者ギルドはただ冒険者に依頼を斡旋するだけではない。
こういった事態が起きた際には様々なことを考慮した上で指示を出す必要もあるのだ。
ただ、
「ところで、ルーシアのところの新人君見た?」
受付嬢からすればそんなことを考えるのは上の仕事なわけで。
ある程度話せば、すぐに別の話へシフトしてしまうのも仕方のないことなのではないだろうか。
◇◆◇◆◇
「鍛冶屋、ですか?」
「そう、それもただの鍛冶屋じゃなくて王国一と言われるドヴェルグのやっているね」
ドヴェルグ。
ドワーフの上位種であり、ドワーフと同じく鍛冶や鉱石の採掘を得意とする種族だ。
エリュシオン・オンラインでは、STRとVITの補正の高い盾向けの種族とされていた。
また、種族特性としてドワーフ以上の生産系スキルの獲得経験値増加などを有していた。
ゲーム内ではプレイヤーとして百余りほどしか存在しなかった種族でもあり、彼等の作る装備品というのはシステムの補正故に総じて高性能だった。そして、高性能だが種族の数が少ないゆえに例えNPC販売価格10000Sen(Sen=エリュシオン・オンラインにおける通貨)の【鉄の剣】であっても一振り1M(100万)以上で取引されていたこともざらだった。
そんな彼らが、仮にエリュシオン・オンラインと同じような存在なのだとしたら相当すごいことなのではないかと澪夜は考える。
「完全紹介制で、尚且つ主人に気に入られなくちゃナイフの一つも売ってもらえないんだ。今回の件で、ギルドから紹介状を貰えたから行ってみようと思ってね」
そう言ったリュークの声はまるで憧れの人に会った子供のように弾んでいた。いや、あながちそれも間違ってないのかもしれない。
リュークからしたら、そのドヴェルグの打つ武器というのはまさに憧れなのだろう。
「どうだい?レイヤくんも一緒に」
「そういうことならご一緒させてもらいます」
そう誘われれば、澪夜も共に行くことに否は無かった。




